70話 味方はいなかった
「い、いやぁ? 何のことを言っているのか、さっぱり」
「そうですか?」
「う、うん」
あれ、これって意外といけるんじゃない? なんとか持ち前のテクニカルな話術を使えばきっと……。
「では、ユートさんは何もご存知ないのですね」
「もちろん。いやー、不思議だなー。壊れた家がこんなにすぐに直るなんて、一体何があったんだろうなー」
よしっ、完璧! 何か可哀想な人を見るような目で見てくる複数人の視線が気にはなるけど、これで誤魔化せたでしょ。
「……ユート、あからさま。だいこん」
……何やらフードの中から幻聴が聞こえた気がしたけど、気のせいかな。とりあえず、リンが次に果物を要求してきたときは大根を出しておこう。
「……こほん。では、ユートさんに質問なのですが、ダンジョンから帰ってきてからは何をしていましたか?」
「えーっと、最初の五日間は村長の家で寝込んでたかな。動けないほどに疲れていたから。その後は……動けるようになったからずっとみんなの手伝いをしていたよ」
「なるほど。手伝いですか。具体的なことをお聞きしても?」
「怪我の手当てを手伝ったり、木材を運んだりかな」
嘘は言ってないよ? 神術使ってパパッとね。
「手伝ったり、運んだりしただけですか? ご自身で全て直したわけではなく」
「うん、もちろん」
「……そうですか」
おっと、もう終わりかな? これで僕への疑いはーー
「では、とあるおじさんから聞いたお話を」
「うん?」
「“いやー、アイツがいてくれて助かったぜ。俺らだけじゃ全部直すのは流石に無理があるってもんだ。アイツの建てた家を見たか? 今度は俺らもあんな家を作りてぇな”……だそうです」
……いや、声真似うますぎるでしょ。ゲングだよね? もう本人でしょ。なんならユエンの背後に隠れていて声を出しているって言われても疑わない。むしろその方が納得できる。
「では次に、とある青年から聞いたお話を。……“ユート、か。最初会ったときは何をふざけたことを言ってるんだと思ったけど、今は尊敬しているよ。全て有言実行しているのは素直にすごいと思ったね。あ、でもあの変な家を作るのはやめて欲しかった。あのおっさんが調子に乗って困ってるんだ”……だそうです」
って、今度はオドか。これも本人の声そっくりだ。
でも、今は素直にそれを称賛できそうにない。話の最初に出てきたのって僕だよね? 同名の他人ってことはないかな?
「まだ認めませんか?」
「認めるって、何を? 僕と同名の人がいるのは驚いたけど」
「そうですか。では、とある少年から聞いたお話を。……“ユート? あいつは良い意味でも悪い意味でもすげぇ奴だよ。会ってそれほど経ってない俺を助けるために、あの邪神に啖呵切ったんだぜ? ……あいつは良い奴だよ。でもな、俺の馬車を直してくれた時も思ったんだが、木材を力で浮かせて移動させるのはやめてほしいもんだ。見ていてハラハラすんだ”……だそうですよ?」
「……へ、へぇ」
「あ、ちなみにそのあとすぐにリナという少女に呼ばれてにやけてました」
「それは心底どうでもいい」
ベルのデレ顔なんて見たくもないよ。
そんなことより、どうしてみんな僕のことをペラペラと喋っちゃうの? これじゃ言い逃れできないじゃん。
「もうそろそろ認めてもらえませんか?」
「な、何を?」
「あなたが直してくださったんですよね?」
「……シラナイ、ボクナニモシラナイ」
うっ。周囲の視線が痛い。視線が針だったら今頃僕はハリネズミになってるよ。きっと。
「……こんどはカタコト。えんぎの才能ない」
リン、キミのおやつは今度からタコね。異論は認めない。
「はぁ。仕方ありません。では、もう一つお話を」
「い、いや。別にしなくてもーー」
「いえ。これで最後です。……とある女性から聞いたお話を」
「女性?」
女性と言われて思い浮かんだのは村長の息子の奥さんだけど、それほど接点があるわけじゃない。そもそもこの村に僕が親しくしている女性に心当たりなんてないんだけどなぁ。
「……“ユート? 一言で言うなら馬鹿ね。会ったらすぐに分かるわ”」
……この際、なんでユエンが女性の声真似までできるのかは追求しないでおこう。
それよりも、
「カリナ?」
隣にいるカリナに視線を向ければ、カリナはその視線から逃げるように首を捻った。
「“色々と感謝はしているのよ? でも、この村に変なのを建てるのはやめて欲しいわ。周りから苦情も来て大変だったのよ。……壊れた家が直っているのはなぜかって? ああ、その馬鹿の仕業よ。ほんっと、馬鹿としか言いようがないわ”……だそうですけど?」
なるほど、なるほど。カリナはそんな風に僕のことを思っていたわけか。僕のことをどう思おうが、それはその人の自由だ。だから、どうこう言うつもりはない。
……でもね、
「カーリーナー? どうしてキミが喋っちゃってるのかなー?」
「……しょうがないじゃない。私は悪くないわ」
「さっき、僕の力を求める人が出てくるから気をつけたほうがいい、とか言ってなかったっけ?」
「そんなこと言ったかしら?」
「言ったよ!! そんな子供みたいな姿をしてるのに、頭の方はボケちゃってるのかな?」
「はぁあ!? そんなわけないでしょ! あなたの方こそそんなに過ぎたことをネチネチと。ハクさんに聞いたけど、あなたもう二十歳なんでしょ? なのに、そんなこと言って子供みたい」
なっ! ……ふ、ふふ。カリナ、キミは言ってはならないことを言ってしまったね。僕の持てる全ての力を使って、キミに身長が縮む呪いをかけてあげよう。これ以上小さくなって絶望するがいい!
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。……ユートさん、私達はあなたをどうこうする気はありません」
「……本当に?」
「ええ。私が国王様から受けた命はこの村を守り、力を貸すことです。その命を投げ出してまであなたを害そうとは思いません。況してや、あなたはこの村を救ってくださった恩人ですから」
……ユエンの瞳の動きや緊張具合を確認したけど、特に動揺している様子はない。ってことは多分嘘は言ってないと思う。今の所は信用して良さそうだ。
でも、これは裏を返せば、国王からの命があれば僕を同行する可能性があるということでもある。つまり、このゴルタル国の国王次第だね。
「分かった。もうバレているようだから言うけど、確かに壊れた家を直したのは僕だよ」
「ありがとうございます。何から何まで」
「別に。僕はやりたくないことはやらない主義だから」
「なるほど。つまりやりたくてやっていると」
「……そうだけど、なんで言い換えたかなぁ」
絶対にユエンって性格悪いよ。現に、そのにやけた笑みから本性がにじみ出てるし。
「そういえば、ユートさんは王都へ向かっていたのですよね?」
「そうだけど」
「でしたら、王都に行った際には一度国王様に会っていただけませんか?」
「国王に?」
「ええ。私からも今回の件は報告させていただきますが、おそらく国王様ならあなたに会いたいというでしょうから。ですから、先に許可を貰っておこうかと」
……どうしたって、僕のことを報告された時点で目をつけられる、か。だったら、本人に直接会って、どんな人なのかを確認するのが一番か。
「いいよ。王都に行ったら顔を出すよ。でも、今すぐに出発するのは無理なんだけど」
「構いません。ユートさんが王都に行ったついでに寄って頂ければ」
「ついで、って。そんなこと言っちゃっていいの?」
「良いんですよ。そんなことで怒るようなお人でもありませんし」
ふーん。なら、それほど警戒する必要もない、かな?
「では、また後ほどお話をお聞かせください。私はこれから話し合いがありますので」
「話し合い? 何について話すか聞いても?」
「ええ。あなたも無関係ではありませんから。内容は、村の今後の方針。……そして、逃げ出した村長に対する処置です」
……あ、村長のことすっかり忘れてた。




