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69話 魔術の違い

 ダンジョンの出現から十日後。

 嬉しいことに、予想よりも随分と早くゴルタルの兵士が多くの食料を荷馬車に積んでやってきた。加えて、商人たちに優先してこの村に食料を届けるよう、ゴルタル国国王が手配してくれたらしく、もう食料に悩まされることは無くなりそうだ。


 僕も十日も経てば随分と体調が良くなった。まるでRPGのボスラッシュみたいな理不尽を現実で体験したせいか、心身ともに、自分が思っていたよりも疲れていたらしい。おかげで五日ほどベットの上から動くことができなかった。正直もうこれっきりにして欲しいね。

 動きたいのに動けないのはなかなかに辛かった。その間に色々な人が話をしにきてくれたからまだ耐えられたけど、誰もいなかったらどうなっていたことか。


 起きて動けるようになると、僕は今までの鬱憤を晴らすかのように神力を使って村の復興に尽力した。『復興に尽力』なんて聞いたら聞こえはいいけど、実際のところはストレスの発散のためが大きかった。

 体を動かしてストレスを発散するっていうのと同じで、神力を使うのもかなりスッキリするんだよね。


 そんなわけで、あちこちで神術を使って家の修繕に努めていたんだけど、そのうち、ただ直すだけじゃなんだか物足りなくなってきちゃったんだ。だから、ついでに家の改築なんてことを始めたんだけど、子供たちの要望に応えて作ってたら随分と奇抜な物が出来ちゃってね。……城っぽい家とか。浮いてる球体の家とか。うさぎっぽい愛玩動物の形をした家とか。


 結局、暴走する僕にカリナが怒りの雷を落とすまでそれは続いた。……あの時のカリナは怖かったよ。ムトが邪神だと言うのなら、カリナはきっと魔王だね。間違いない。

 きっとその時の村人たちのカリナを見る目は、僕がムトを見る目と同じだったんじゃないかな。


 そして、今日はそんな魔王カリナと一緒に村の見回りをしている。建物はほとんど直したし、村人たちの怪我も治した。……だけど流石の神力でも心の傷までは癒せないから。


「でもユートがいて良かったわ。あなたのおかげで笑顔を見せる人も増えてきたし」


「遊ぼう!」と、元気にはしゃぎ回る子供たちに、「また後でね」と返していると、不意にカリナがそんなことを言い出した。


「特に僕は何もしてないけど?」

「何言ってるの。あの変なのはともかく、あなたが住む家を直してくれたから、こうして心に少し余裕ができてきたんじゃない。あなたの力がなければあれを直すのに一体何ヶ月かかったと思ってるの?」


 変なのって。確かに少々奇抜ではあるけど、住んでみると案外住み易い……かもしれないよ?

 でも、あの奇抜なのはともかく、普通に家を直すだけなら魔術師を集めたとして……、


「ん〜、一ヶ月くらい?」

「……はぁ」


 えっ!? なんか物凄く大きなため息を吐かれたんだけど。呆れたような表情というオプション付きで。


「あなたに聞いた私が馬鹿だったわ」

「……なんだか最近よく馬鹿だと言われている気がする」

「ああ、それはあなたが実際に馬鹿だからよ」


 いや、「なに当然なこと言ってるの?」みたいな感じで言われても。僕、ショックのあまり泣いちゃうよ?


「いい? ここは王都からとても遠い村なの。だから人を雇うにも、こんなところまで手助けに来てくれる人なんて極々稀よ。いないと言っても過言ではないわ。だから、建物の修繕は全て自分達の手でしなきゃいけない。建物が壊れなかった人が手伝ったとしても、あなた、なんの力もない一般人が数人で家を建てようとしたら一体何ヶ月かかると思っているの?」

「えっ? 魔術師は?」

「……なるほど。そこで食い違いがあるのね」


 食い違い?


「魔術師に建物を直す力なんてないわ。魔術師は魔物を、……そして()()()()()()存在よ」


 ……そっか。この世界での魔術はそんな認識なんだ。どうりでこの世界に来てから攻撃的な魔術しか見てないわけだ。


 地球では魔術というものはもう忘れ去られてしまったものだった。たぶん、魔術師を名乗れるほどの人物は、世界で百人居るか居ないかくらいだったと思う。絶滅危惧種に指定されてもおかしくはないほどだね。


 でも、こっちの世界に来てからは魔術という言葉もよく聞くし、魔術師になるための学園もあったくらいだ。だから、魔術のレベルが高いんだろうな、なんて勝手に想像してた。


 実際、確かに魔術は発達していた。レベルが高かった。でも、それは相手を、()()()()()()()()()に限ってだったんだ。


 カリナに言われてようやく納得した。なぜ、魔術の学園では攻撃的な魔術を主に教えていたのか。なぜ、エルムス国王都の図書館にある、魔術書に書かれた魔術の大半が攻撃的な魔術だったのか。

 ……それは、この世界には魔物がいて、敵対する国があったから。


 だから、人は武力を求めて、ただひたすらに殺傷を目的とする魔術を磨いた。その結果がこれだ。


「何だかなぁ……」


 よく考えれば気がつけることだったかもしれない。でも、図書館にあった魔術書の内容を見て、この世界の魔術は、全てにおいて僕のいた世界のレベルを超えているのだと、勘違いしてしまった。


 まぁ、ニーナの持っていた学園の教科書を見たときは、その真逆の感想を抱いたけど。あの教科書には本当に基礎中の基礎しか書かれていなかった。でも、学び始めて間もなかったらしいから妥当と言えば妥当かな。ちょっと簡単すぎる気もしたけど。


「あれ? だとすると、ニーナに魔術を教えたのはまずかったかな……」


 ニーナには物を修繕する魔術を教えちゃったんだよね。でも、それに関して特に何も言ってなかったけどなぁ。驚いてもなかったし。

 ……ま、いいや。考えたところでもう遅い。彼女ならきっとなんとかするでしょ。リューも付いてるし。


「ありがとう、カリナ。今度から使い所に気をつけるよ」

「そうね。あなたの力を求めてくる人が出てくるかもしれないから、気をつけたほうがいいと思うわ。……でも」

「でも?」


 苦笑気味にカリナは笑うと、とある集団を指差して言った。


「もう手遅れだけどね」


 ………………。


「え?」






「あなたがユートさん、でよろしいですか?」


 その鎧を身に纏った集団の先頭に立つ少年が、僕にそう声をかけてきた。


「そうだけど」

「私はこの隊を指揮するユエンと申します。よろしくお願いします」


 ……ああ、今日到着した兵士ってこの人達のことか。


「よろしく。随分と早く来てくれたみたいだね」

「いえいえ。アムラスの襲撃に加えてダンジョンが出現したと聞いたものですから、もっと早く駆けつけなくてはいけませんでした。事実、あなたの助けがなければこの村は無くなっていたでしょうから」

「そんなことはないと思うけど……」

「そんなことあります!! アムラスだけでも厄介だというのに、あなたは邪神から二人も助け出しました。これは偉業ですよ!」

「そうなの?」


 まるで有名人でも前にしたような、見た目相応に子供らしく興奮するユエンに若干引きつつも、カリナに問いかけると、


「そうね。邪神ムトを前にして生きて帰った者はいないと言われているほどだもの。だから、みんな邪神ムトがどんな容姿をしているかなんて知らなかったわ。魔物みたいな人の姿をしているって言われてたり、三メートルを超える筋肉質な大男だって言われたりしたわね」


 三メートルを超える筋肉質な大男って……。ムトの真逆じゃん。……まさか少年の姿だと怖がられないと思って嘘の情報を自分で流したとかじゃないよね?


「ええ、ええ。ですから、帰ってきたというだけでも奇跡だというのに、二人も助けてくださって、私共も感謝しているのです。本当にありがとうございます」

「う、うん」


 周囲の反応を見るに、ムトは想像以上に危険な存在だったみたいだ。

 確かに、あの威圧はその辺の神々とは一線を画していたからなぁ。寿命が縮む思いだったよ。……出来ることなら二度と対峙したくない。


「それで、ですね。一つお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「聞きたいこと? いいけど、僕に答えられるか分からないよ?」

「大丈夫です。きっと答えられますから」


 何やらユエンのにこやかな笑顔が気になるけど、なんだろう? やっぱりムトのことかな?


「アムラスに加えてあの塔が出現したことで、建物の多くが壊れたとお聞きしたのですが、今見て回ったところ、どれも綺麗に直っているんです。……それについて何かご存知ですよね?」


 あ、終わった。

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