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65話 自由という束縛

 “私”という存在が生まれてから、もう一年が経ちますか。

 毎日のように神様を起こしては幻術を教えてもらい、一緒にお菓子や果物を食べて休んだ後はまた幻術の特訓。その繰り返しでした。


 時には神様と一緒に散歩に出かけたりもしましたが、外の世界には連れて行ってもらえませんでした。

 外の世界というのは、この神様の住む神域の外のことです。聞いた話では、ここは地球という世界からは少し外れた別空間なのだとか。仕組みを聞いたのですが、私程度の頭では理解できませんでした。やはり精霊だからなのでしょうか。


 精霊といえば、地球という外の世界には私のような存在がたくさん住んでいると聞きました。

 でも私とは違って会話も出来ず、何か特別強い力を持っているということもないそうです。


 では私は精霊ではないのかと思ったのですが、神様が言うには精霊で間違いないそう。なら間違いなどありませんね。私は精霊です。


 どうやら、神様が力を使って私にある程度の知識を与えてくださったので、こうして思考することができるそうです。

 それに関してもまた長々と色々説明してくださったのですが、私の頭では理解できなかったと先に述べておきます。


 ただ、要約すると、私は「他の精霊とは少し違う特別な精霊」らしいです。……初めからそう言ってくだされば理解できたのですが、文句は言いません。神様のおっしゃることですから。


「か、神様! 出来てますか!?」


 そんな特別と言われた私が今何をしているのかといえば、もちろん特訓です。今日も神様の無理難題をこなそうと頑張っています。


「ええ。うまく出来ているわ」

「本当ですか!」

「私はそんな嘘はつかないわ」


 やった、これで終わーー


「でもまだまだね。私を騙すには一年と三ヶ月と五日と三時間足りないわ」


 ……上げて落とされました。

 というか、


「どうしてそんなに細かいのですか? 神様って未来を見れるのですか?」

「いいえ、ただの感よ。私にはあなたみたいな未来予知っぽいものも出来ないわ。そもそも、未来予知なんてものは存在しないの」

「え?」


 なら私の未来予知っぽいものはなんなのでしょうか。


「あなたのそれは精霊が持つ、本質を見極める力の応用だと思うわ。『この人はこんな魂の色をしている。だからこんな行動をとるでしょう』というような予測だと思うの」


 ……なるほど。予知ではなく予測でしたか。


「だから精度が低いのは当然ね。その人の感情まで考慮していないのだもの」

「感情ですか?」

「ええ。極端な話だけど、例えば命を何よりも大切にしている人がいたとして、その人の目の前で猫と小さな子供が事故で死にかけているとするでしょう?」

「はい」

「その時精霊が魂から読み取れるのは、その人が猫か子供を助けるということ。その人がどちらを助けるかまでは読み取れないの。同じ人として子供を助けるかもしれない。でも、その人が過去にその猫に命を助けられていたら、恩返しに猫を助けるかもしれない。つまり、その時その人が取る行動はその人の感情次第なのよ」

「なるほど。だから予測なのですね」

「そう。だからあまり当てにしないほうがいいわ」

「分かりました。気をつけます」


 やっぱり神様はすごいです。なんでも知っていて。


「ふふっ。いい返事ね。今日はここまでにしましょうか」

「はい」

「それじゃあーー」

「どうしたのですか?」


 神様が突然言葉を噤んでしまいました。何かあったのでしょうか?


「久しぶり、ではないな。天照」

「っ!」


 突如聞こえてきた声は、私が生まれてきてから初めて聞く声でした。それもそのはず、私はまだ神様の声しか聞いたことがないのですから。


 そしてそれが意味するのは、この神様の世界に誰かが入ってきたということ。声のする方に視線を向ければ、そこには腰に刀を差した人が立っていました。

 敵か味方か。敵であれば、神様の世界に入ってくるくらいですから、私の力では到底及ばないでしょう。でも、時間稼ぎくらいはできるはず。


「大丈夫よ。あの人は敵じゃないから」


 私が死を覚悟で特攻しようとしたことがバレていたのでしょう。私を撫でるいつもの温かい指先が私を落ち着かせました。


「なんだ? その精霊は」

「私の子です。ちゃんと会話もできるんですよ?」

「何?」


 何か気に障ったのか、その人の視線が鋭く変わりました。精霊にいい思いを抱いていない方なのでしょうか。


「……ふむ。お目付役か?」

「その言い方はあまり好きではないのですが、そうですね」

「ふむ」


 お目付役? 一体なんの話をしているのでしょう。


「それで、あの子はどうですか?」

「ああ、想像以上だ。ただ……」

「何か問題が?」

「心が弱いな。それに甘すぎる」

「……そうですか」


 あの子?


「その話はまた後で聞きます。……ごめんなさいね。少しそこの人と話をしてくるから家で留守番しててくれる?」


 そう言って神様は私を連れて家の扉を開けました。


 あの人は誰なのか。あの子とは一体? 色々と聞きたいことはありましたが、私は神様の言葉に従わざるを得ません。

 ……私にとって神様は絶対ですから。


「……ごめんなさい」


 扉を閉める直前に溢した、神様のその言葉が頭から離れませんでした。






「それで、あの子は……唯斗はやっていけそうですか?」


 場所を移し、私は彼、タケミカヅチにそう問いかけた。たとえその答えが私の望むものでなかったとしても、私にはそれを聞いて受け止める責任がある。その人生が苦難に溢れていると知りながらその道を勧めたのは……他でもない私なのだから。


「……難しいだろう」

「……そうですか」


 なんとなくそのような気はしていました。唯斗の力はあまりにも大きすぎる。仮に今まで通りの生活を続けていたとしても、人並みの人生を送ることはできなかったでしょう。よくて廃人、最悪の場合は本人だけでなく、地球そのものの存在が危うかった。


 目を閉じれば、あの子の顔がまぶたの裏に浮かんでくる。……あの寂しげで、辛そうな顔が。


 私があの子、唯斗という少年に出会ったのは数年前のこと。今はもう寂れてしまった古びた神社で、あの子は一人静かに泣いていました。

 それだけなら、ただ迷子になった少年が寂しさのあまり泣いているのだと思うでしょう。ですが、声をかけようと近づいたところで、私は彼の特異性に気づいてしまった。


 神力は本来神のみが持つ力。そしてその力にはその神が持つ特性が宿る。


 唯斗は人間でありながら神の力を持つ、極めて特異な人間でした。

 神の力は強力な薬と同じようなもの。過多に取り込めばそれは毒となります。そのため、神は人間に力を貸し与える時は加護を与え、毒を中和させるのです。

 ですが、唯斗はその毒そのものを体の中に持っている状態だったのです。普通であればそのような状態で生きていられるはずがありません。


 では、なぜ唯斗は生きていられたのか。……それは唯斗の司るものが関係していました。


「……“自由”ですか」


 皮肉にも、唯斗が司る“自由”が、彼を救っていたのです。“自由”だからこそ、人の身に宿っても毒とはならなかった。おそらく無意識のうちに、神の力を無毒化したのでしょう。別の特性ではこう上手くはいかなかったはずです。


「名ばかりの自由だがな」

「……ええ」


 そう。“自由”と言いつつも、其の実唯斗は“自由”そのものに縛られているのです。

 というのも、神には共通の大きな弱点というものがあります。それが特性、つまり司るものです。


 神はその特性には逆らうことができません。その特性は神を構成するそのものの本質ですから、それに逆らうということは自分自身を否定することにつながります。


 自分自身の否定……つまりは自身の喪失です。


 唯斗の場合は自由ですから、自由ではないと感じた時、彼は苦しみ死んでしまうでしょう。

 自由という力を持ったが故に、自由でなければ死んでしまう。それのどこが”自由“と言えるのでしょうか。


「……弱点についてはまだ言わないほうがいいでしょう。少なくとも、唯斗が神としての人格を受け入れるまでは」

「ああ。下手をすればそれを否定して自滅しかねん」

「心が弱いということでしたが、経験を積めばどうにかなりそうですか?」

「少しはマシになるかも知れんが、それはなんとも言えんな」

「……分かりました。引き続きお願いします」


 鍛えるのはタケミカヅチに任せるのが一番でしょう。なんせ、武神ですから。彼に任せておけば問題ありません。ですが、念のため他にも手を考えておきましょうか。


「天照」


 私はそんなことを考えながら帰路につこうと踵を返したところで、タケミカヅチが私を呼び止めました。


「なんでしょう」

「どうしてそこまであいつに拘る?」


 ……どうして、ですか。


「あの子の性格が好きなのです。あんな子が弟なら良かったのですが」

「誤魔化すな」

「……そうですね」


 思い浮かんだのは馬鹿なあの人のこと。もう記憶もおぼろげだけれど、あの人と生きたことは忘れてはいません。


「内緒です」


 そうにこやかに答えると、タケミカヅチは不満そうな顔を隠すことなく大きく溜息を吐きました。


「……まぁいい。だが、あいつが暴走した時は分かっているな」

「ええ。その時は私が……この手で終わらせましょう」

「……ならいい」


 タケミカヅチが去ったのを確認した私は、少し早歩きで家へと帰りました。

 今は私の帰りを待っている人、いえ、精霊がいますから。


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