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56話 二人目

「そこに二つ。おっと、お前の右足の近くに一つあるから気をつけろよ」

「……」

「俺の足跡に合わせて歩いてくれ。少しでもずれると罠が発動しちまう」

「……ねぇ、ベル」

「なんだ?」

「ちょっと罠多すぎじゃない?」

「……今更すぎんだろ」


 最初は罠の場所なんてほとんど分からなかった僕も、こうもずっと見続けていたら流石に分かってきた。とは言っても全て分かるっていうわけじゃないけど。


 さすがハクが推薦するだけあって、ベルは罠を見つけるのが上手かった。

 ただ、罠を見つけるのがどれほど上手くても、こう罠がいたるところに仕掛けられていたんじゃなかなか進めない。


「このままじゃ間に合わないよ。どっかに抜け道はない?」

「つってもな……、進めば進むほど罠が増えてるんだ。罠が少ないところがあるのかもしれねぇが、その道を探している方が時間がかかるぞ? あるっていう保証もねぇしな」

「……だよね」


 でもこのままじゃいけないのは確かだ。たとえ村人が魔物に襲われていなくても、食事ができないんじゃ死ぬのも時間の問題だ。

 特にここは砂漠地帯。水もなければ食料もない。


「何かこの罠を回避する方法があればいいんだけど……」


 今まで確認できた罠は、全て上から踏むことによって起動するものばかりだった。

 だったら飛べばいいんじゃないと思うでしょ? もちろん試したよ。風を操って体を浮かしてね。

 でもその瞬間四方八方から矢や槍、手裏剣なんかが飛んできた。まぁ、けどそれくらいなら風で吹き飛ばせばいいか、なんて考えた僕は甘かった。


 それらを吹き飛ばしたと思えば、次は拳大の鉄球が数倍の速度で飛んできた。これは流石に風で防ぐことはできない。

 そして渋々地面に降りれば、ベルが注意する間も無く罠が起動。上から降ってきた滝のような水で数十メートル流された。


 そんなわけで、空から向かうのは諦めた方が良さそうだった。あの鉄球達を回避できたとして、次に何が待ち受けているかわかったもんじゃないからね。


「空はもう勘弁してくれよ?」

「分かってるよ。空がダメなら、地面とか?」

「砂だから地下通路を作っても全部落ちてくるだろ」

「だよね。うーん」


 何とかして罠を解除することができればいいんだけどなぁ。


「ベル、罠の解除ってできないの?」

「一つ一つ解除してたらそれこそ永遠にここから出られねぇぞ?」

「そりゃそうか」

「だが、解除自体は簡単だな。浅いところにあるし、砂だから掘りやすいしな」


 浅い、砂、掘りやすい……、って、あっ!!


「そうだよ、ベル! 解除なんて簡単だったんだよ!」

「な、なんだ?」

「うわぁ、僕って馬鹿じゃないの。救いようのない大馬鹿だよ」

「……よく分からねぇが、自分を責めんなって。お前はよくやってるよ」

「誰が小さいのによくやってるって!? 小さいは余計だよ!!」

「そんなこと言ってねぇよ!!」


 いや、ベルはそんな風に思っているはず。いや、違いない。僕にはベルの心の声が聞こえた。


 どこに行っても子供子供と言われ続ける僕の気持ちなんて誰にも分からないよ。

 二十歳だよ? 成人してるんだよ?


「チッ、身長が百五十センチ以上の人間なんて滅んだらいいのに」

「俺も死ぬじゃねぇか。って、そんなことより何か思いついたんだろ? とっとと話せ」

「おっと、そうだった。つい、ね。いつもは気持ちを押し殺すんだけど、ちょっと爆発しちゃったよ」

「……できれば今後も抑えてくれよな。世界のために」


 分かってるよ。滅ぼしたりはしない。まぁ、でも僕が暴走して、世界中の人間の身長を百五十センチ以下にする魔術を開発しても文句は言わないでほしいかな。


「……お前、怖いこと考えてねぇか?」

「いや、全然。それより、この罠をどうするかなんだけど、風で罠の上にある砂を飛ばして仕舞えばいいんだよ。そうすれば踏まなくて済む」

「確かにそうだな。つーか、んなことできるのか?」

「大丈夫。こうして……」


 数十メートル離れたところに風で竜巻を作る。すると、砂が巻き上げられて次々と砂の中から罠が出てきた。


「確かにこの方が早そうだ。だが上からすげぇ砂が降ってくんだけど」


 ベルが自分の頭についた砂を払いながら不満そうに言った。


「それも問題ないよ。ほら、僕の頭には砂が付いてないでしょ?」

「……確かに」

「僕の頭上に風の流れを作って砂が付かないようにしたんだ」

「それって一人しかできねぇのか?」

「いや、何人でも」

「だったらなんで俺にもしなかった」

「……」

「……」


 僕は笑みを絶やさずに、ベルに言い放ってやった。


「だってさっき小さいって馬鹿にしてきたからね」

「だからんなこと言ってねぇっつってんだろ!!」








 小型竜巻作戦が成功してから数十分後。ようやく村人がいるであろう地点が見えてきた。


「あれは、オアシスか?」

「ベル、もしかして蜃気楼でも見ちゃった?」

「いや、あれはオアシスだろ」


 ベルが指差す方を見れば、そこには太陽の反射で輝く水面とその周りに集う植物たちの姿があった。

 確かにオアシスみたいだね。生存反応があったのも確かあの辺りだったし、あそこで水を飲めたから生き残れたのかも。


「多分あそこにいると思う」

「やっと助けられるな」

「うん。ただあの周囲には魔物が一切いないんだよね」

「二階層と同じであそこは安全地帯なんじゃねぇか?」

「そう、なのかな」


 それにしてはただのオアシスにしか見えない。二階層にあった大木はあんなにも心揺れる神秘めいたものだったのに。


「……」


 その時、一つ気がかりだったことが頭をよぎった。

 僕はこの階層に来て、移動を始める前に【サーチ】を使って階層主が何処にいるのか探した。二階層の階層主を探した時と同じ方法でね。

 でも、階層主らしき魔物は見つからなかった。


 確かに他の魔物よりも頭一つ抜けている魔物はいた。しかし、その魔物は常に動き回っていたし、数分前に僕の作った竜巻に巻き込まれてどっかに飛んで行ってしまった。

 流石にあんなに間抜けなのが階層主だとは思いたくない。


 なぜそれが今、頭に浮かんだのか分からないけど、何か嫌な予感がする。


「おい、ユート! あれって」


 ベルが指差す方を見てみれば、植物の木陰で休む一人の少年の姿があった。


「おい、しっかりしろ!」

「……う、うーん。あれ、お兄さん達誰?」


 近づいてベルが少年の頬を軽く叩くと、少年が袖で目をこすりながらぼんやりとした目でこちらを見た。


「お前、ホガ村の奴か?」

「うん。いつの間にかここに居たんだ。みんなどこに行っちゃったの?」

「安心しろ。すぐに皆の所へ連れて行ってやる」


 見た感じ少年の体調は悪くなさそうだ。木ノ実の皮が落ちているから、あの木になる実を食べていたのかも。

 僕も一つとって食べてみたけど、体に害はなさそうだった。毒が無くて本当に良かった。


「にしてもお前、よく生きていたな。暑かっただろ?」

「うん。でも影に入ると随分と涼しくなるんだよ。それに水もあったし」

「そうか。でも無事でよかった」

「お兄さん達も一緒に帰るの?」

「いや、俺らはもう少しここにいるぜ。やらないといけないことがあるからな」

「だったら地震には気をつけてね」

「地震?」

「うん。たまに揺れるんだ。さっきも揺れたし、今度は大きいのが来るかもしれないから」

「……ああ、気をつける。ありがとな」


 僕たちは無事だということをハクに伝えるように頼んでから、転移の術を構築し少年を村に送った。


「なぁ、地震なんて起きたか?」


 やっぱりそうだよね。


「いや、起きてない。僕もそれについて気になったんだよね」

「だよな。かといって嘘をついているようにも見えなかった」


 それにここまで歩いて来たけど、揺れなんて感じなかった。


「一体どういう……、っ! ベル!!」

「なんだよ、急に」

「あれ見て!」

「だから……っ!」


 僕が指差した方を見たベルは声を上げられないほどに驚いているようだった。

 そこにあったのは……、


「……扉。しかも水の中に沈んでやがる」


 見つけたのは本当に偶然だった。

 ただなんとなく視線を水中に向ければ、そこには見覚えのある大きな扉があった。

 あの形、大きさ。間違いなく次の階層に繋がる扉だ。


「でもなんであんな所に扉があんだ?」

「……もしかして、いや……まさかっ!」


 もし僕の推測が正しければ、ここは危険だ!


「ベル、今すぐにここを、っ!」

「なんだぁあ!?」


 突如地面が揺れ始めた。それも立っていられないほど大きな揺れだ。


「ベル、手を出して!」

「お、おう!」


 ベルの手を取ると同時に、ゆっくりと僕たちが立っている地面が盛り上がり始めた。


「何が起きてんだ!?」


 混乱するベルを肩に抱きかかえ、僕はバッタのように飛び跳ねてオアシスから大きく距離をとった。


「一体何が」

「ベル、あのオアシスには扉があったでしょ」

「あ、ああ」

「扉の近くには階層主がいる。なんで僕の【サーチ】に引っかからなかったのかは分からないけど、あれが、あのオアシスを含む全てが魔物だったんだよ」

「そんなーー」


 ベルは「そんなバカなことあるわけがない」とでも言おうとしたのかもしれないけど、その言葉は最後まで紡がれなかった。

 なぜなら、砂の中から山と見間違えるほど巨大な、亀のような姿をした魔物が現れたのだから。

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