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49話 邪神

 ダンジョン。

 曰く、それは人類への試練。

 曰く、それは神が作りし魔物達の楽園。

 曰く、それは単なる神の娯楽。



 多々説は存在するものの、ダンジョンが存在する理由ははっきりとしていない。何のために作られたのか、それは作った本人にしか分からない。しかし、一攫千金を狙う人たちにとっては、ダンジョンは切っても離せない存在になっている。

 というのも、ダンジョンに突如として出現する宝箱の中には、時には値が付けられないほど高価な物が入っている場合があるらしい。加えて、ダンジョンを攻略したという実績だけで国の姫と結婚した人もいるほどだ。それほどまでに、ダンジョンが人類に与える影響は大きい。


 しかし、それだけで生活が成り立つはずもない。そう運良く宝箱を見つけられる人など、ほんの一握りの人でしかないからだ。なら、運良くお宝を見つけられない人達はどうやって生活しているのか。その答えが冒険者ギルドだ。

 冒険者ギルドで小銭を稼ぎ生活しつつ、装備を整えて万全の状態でダンジョンを攻略する。それが、冒険者という職業というわけだ。


 そんな冒険者も所詮は人だ。死ぬときは死んでしまう。むしろ誰も死なない日など無いほど、日常的にダンジョンで人が死んでいるというのが現状のようだ。しかし、そんな現状を誰よりも良く知っている冒険者自身が辞めようとしない。まるで花の蜜に誘われる蝶のように、その足はダンジョンへと向かう。


 正直、僕はそんな冒険者が嫌いだ。命をかけてまで富と名声を求める人が嫌いだ。だから、僕と冒険者は相容れないものだと思っていた。……ヤツに会うまでは。


 僕も村人という名の蜜に誘われた蝶にすぎなかった。ヤツの掌の上で踊らされていたと言ってもいい。


 求めるものが金か、はたまた他人の命か。その違いしかなかったんだ。


 全てがヤツの思惑通りだった。






 初めてアムラスを食べた翌日、僕とベルはダンジョンに入る最終チェックを終えて塔の前まで来ていた。

 もうハク達からは激励の言葉をもらって、周囲には僕とベルの二人しかいない。いや、正確には僕のフードの中にもう一人いるんだけど、今はまだ寝ているみたいで出てこない。昨日は夜遅くまで起きていたみたいだからもうしばらく起きてこないかも。


「今なら引き返せるよ?」

「バカ野郎。ここまで来て引き返せるか」


 そう返事をするベルの手は少し震えていた。今から行くところは完全な未知。何が待ち受けているかも分からない、ダンジョンかすらも確かではない。そんな場所だ。誰だって恐怖する。


「大丈夫、できる限り守ってあげるよ」

「そこは絶対守ってやるって言って欲しいところだけどな」

「絶対はないよ。特に相手が未知だとね」

「……だな」


 すると、ベルは突然自分の頬を両手で叩いた。乾いた音が周囲に広がる。


「よし! 行くか!」

「うん。それはいいんだけど」

「どうかしたか?」

「……ベルってドMなの?」

「んなわけねーだろ!!」


 冗談だよ。イッツジョーク。緊張感をほぐしてあげようかと思って。


「緊張しすぎ。もっと気楽にね」

「お前は気楽すぎだ」


 ため息を吐くベルを横目に、扉の前に立つ。すると、押してもないのにゆっくりと扉が開き始めた。


「な、なんだぁ!?」

「歓迎、されてるのかな?」

「だったらみんなを返してくれねぇかな」

「だといいけどね」


 いつまでも立っているわけにはいかないので中に入る。


「暗いな」

「だね」


 中は足元がかろうじて見える程度に暗かった。両脇にはロウソクが灯されており、まるで真っ直ぐ進んでこいと言っているかのように思える。


「罠はありそう?」

「いや、今のところは見当たんねぇな」


 勝手に扉が開いたことといい、この真っ直ぐに明かりが照らされた道といい、誘われているように思える。だから罠を仕掛けるっていうことはないとは思うんだけど、


「一応警戒はしておいて」

「おう。任せとけ」


 警戒は怠らずに進んでいると、突如、周囲が明るくなる。


「なっ!」

「気をつけて!」


 突然の明かりに思わず目を塞ぎそうになったけど、そんなことをしたら大きな隙を作ってしまう。だから僕は薄目で周囲を確認しつつ、いつでもベルを庇える態勢をとる。

 しかし、襲撃はなく、目も慣れた頃に前方を確認して思わずあげそうになった声を噛み殺した。


「っ、なんだって……、な!」


 隣でようやく目が慣れたベルが声をあげた。


「初めまして、ユートくん?」


 周囲には僕達以外誰もいなかった。だというのに、目の前には玉座があり、そこに一人の少年が腰を下ろしていた。

 黒髪に黒目。顔立ちは日本人のように見えるけど、違う。少年からは全く気配を感じない。目の前にいるというのに気配を感じることができない。こんなことができるのは、……神ぐらいだ。


「どうして僕の名前を?」

「君には興味があってね。おっと、僕は君のことを知っているけど、君は僕のこと知らないか。僕はムト。邪神ムトなんて呼ばれている、ただの神さ」


 ……やっぱりか。相手が神の時点で何となく想像がついた。それに、ダンジョンは邪神ムトが作っているらしいし。ということはこの塔はダンジョンで間違いなさそうだ。


「それで、どうして僕のことを?」

「君がエルムス国付近にあるダンジョンに入った時から見ていたんだよ。ダンジョン内のことは手に取るように分かるからね」

「なるほど。でもどうして僕なんかを? 他にも大勢の人がいるのに」

「ハハッ。君自身も気づいているだろう? 半人半神の君に興味が湧いたんだよ」

「っ!」


 僕の隣でベルが驚くのが見えた。でも、どこか納得しているようにも見えるから、もしかしたら薄々気づいていたのかもしれない。


「神の力は人間に貸すことはできても宿すことはできない。それはこの世の絶対のルールなんだ。だというのに、君は人間でありながら神力を保有している。与えられたものじゃない。その身に宿しているんだ。そんな君に惹かれないわけないだろう?」

「それはどうも。でもこれに関しては僕にも分かってないんだ」

「だと思ったよ。こうして君を目の前で見なければ、僕もその存在を信じなかったほどだからね。うん、こうして呼んだのは正解だったよ」

「……呼んだ?」

「なんだい? お前は」


 今までベルのことは見てすらいなかったのだろう。いや、視界に入っていたけど、気づいていなかったのかもしれない。

 ムトは不快そうにベルに視線を向けた。まるで路肩に落ちているゴミでも見るかのような目だ。


「呼んだって、どういうことだよ」

「そのままの意味さ。僕はユートに会いたかった。それだけさ」

「っていうことはなんだ? お前はユートに会うためだけにこんな村のど真ん中にダンジョンを作ったっていうのか?」

「そうだけど?」

「ふざけんな! どれだけの人が死んだと思ってんだ!」

「知らないよ。そんなの」

「知らないだと!人の命をなんだと思ってんだ!」


 今にも駆け出しそうなベルを、僕は力づくで押さえ込んだ。


「離せ! ユート!! アイツがみんなを!」

「ベル、落ち着いて」


 これはまずい! あまりムトを怒らせるべきじゃない。あのミルとは比べ物にならないほどの神力の量。……間違いない。ムトは上級神だ。


「うーん、お前うるさいね。消えて」

「えっ」


 突然ベルの姿がなくなり、僕の手が空を切る。僕が触れていたのにも関わらず、ベルがいなくなった。


「ベル?」


 ありえない。僕が掴んでいたのにベルだけを転移させるなんて。


「これで静かになった」

「……ベルを何処へ転移させた?」

「それじゃもっと話をーー」

「ムト!!」


 僕は力の限り叫んだ。すると、ムトは少し驚いたような顔をした。とおもいきや、次の瞬間には邪神の名に恥じない、見たものを畏怖させるような笑みを浮かべた。


「ユート、君はお人好しすぎる」

「何?」

「だからこうして村人なんかの命のためにダンジョンに入ることになるんだ」

「っ! っていうことは」

「そうだよ。君がここに来ることは想定済みだったんだよ。唯一想定外だったのはあの人間がついてきたことかな。君なら是が非でも一人で来ると思っていたんだけどな」


 ……ハハッ、まんまと嵌められたわけだね。昔友達から言われた言葉を思い出したよ。いつか痛い目を見るってね。


「これ以上話はできそうにないし、ゲームでもしようか」

「ゲーム?」

「僕が作ったこのダンジョンのどこかに村人達とあの人間がいる。だから助けてあげなよ。助けられたら君の勝ち」

「この中にベルもいるんだよね」

「嘘はつかないよ。それに僕は手出しはしない」


 嘘はついているようには見えない。でも相手は自分より格上の神だ。全てを想定して動かなければ、みんな死ぬ。


「ふー」


 小さく深呼吸して気持ちを切り替える。一時の感情に任せてムトに歯向かえばどうなるか分かったもんじゃない。特に相手は上級神だ。戦ったとしても勝てる確証などどこにもない。


「それじゃ、僕は消えるとするよ。頑張ってね」

「……」


 姿は消えた。でも気配が分からない以上、本当にいなくなったかは分からない。

 ひとまず戦闘にならなくて良かった。少なくとも、今の僕では勝てなかっただろうから。


「……ベル達を助けに行こう」


 なんにせよ、今僕にできることはみんなを助けるために塔を登ることだ。

 そのための階段を探していると、玉座の隣に転移の術が刻み込まれた陣があった。


「もしかしてこれで上に登るのかな」


 周囲を探索したけど、これ以外に何もなかった。階段もないということは、転移の陣で上へと登るのだろう。正直それ以外に考えられない。

 僕は意を決して転移の陣へと足を踏み入れた。

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