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47話 今後の方針

「で、あれをどうするかなんだけど、ハクさん。あなたとしては、どうするのがいいと思う?」

「そうじゃのう。まずは国の兵士を呼ぶべきじゃ。もし何かあったときに守れる者が少なすぎるからの」

「そうよね。村にこれだけの被害を与えたんだもの。いいものとは思えないわ」


 ケガ人の中にこの村を守っていた人もいるし、行方不明になってしまった人もいる。今この村を魔物に襲われたらひとたまりもないだろう。だから、国に助けを求めるのは同感だ。でも、


「兵士はどれくらいで到着するの?」

「そうじゃの、……二週間と言ったところか」

「それは、厳しいね」

「うむ。今この村には食料がない。残っているものを分けたとしても一週間が限界じゃろう」

「ほんと、あのクズは厄介なことをしてくれたわね」


 そう言ってカリナは悪態をついた。まぁ、クズっていうのは村長のことだろうけど。


「まずは食料じゃな。ワシの馬車にも多少は乗っておる。持って三日といったところかのう」

「いいの? あれは売り物でしょう?」

「今はそんなことを言っている場合ではないからの。偶々壊れなかっただけじゃ。全部使って仕舞えばいいじゃろ」

「……そう、ならありがたく使わせてもらうわ」


 でもあれだけじゃ足りない。兵士を呼ぶのであればなおさらだ。とは言っても、村人全員に行き渡らせるような量の食料なんて……、ああ、そっか。あれがあったな。でも、あれを食べることに村人たちが了承するかどうか……。


「ねぇ、しばらく食べていけそうな食料がないこともないんだけど」

「ほんとに? そんな量の食料がどこにあるの?」

「でも、みんなが食べるのには抵抗があるかもしれない。特にこの村の人たちにとっては」

「そんなものあったかしら? 特に私たちは食べれないものはないと思うわよ。もちろん毒なんかは食べないけど」

「いや、そういうわけじゃなくてね」

「……もしかして、あれか? ユート」


 ベルは気がついたみたい。ハクもなんとなく気がついているようではある。


「それは一体なんなの?」

「……アムラスだよ」

「っ!! ダメよ! あんなのに勝てるわけないじゃない! 国の兵士達でも苦戦するほどの化け物なのよ!」


 そっか、そういえばカリナは知らないんだったっけ。アムラスがもう死んでるっていうのは。


「落ち着くのじゃ、カリナ。別にワシらはアムラスと戦いにいくわけではない」

「……? どう言うこと?」

「アムラスはもう死んでおる」

「え!? 本当に?」

「うむ。ワシがこの目でしっかりと確認しておる」

「そんな……、でも一体誰が」


 カリナの様子で、あのアムラスがどれだけ人々に恐怖を与えているのかよく分かった。アムラスと遭遇したあの時のハクとベルもかなり焦ってたもんね。


「お主もよく知っておる人物じゃよ」

「……もしかしてハクさん? でも、ハクさんでも流石に」

「ワシは助けられた方じゃ。彼奴らをやったのはそこにいるユートじゃよ」

「ユートが!? あっ、いや、でも……」

 

 カリナには多分僕が神だと誤解されていると思う。人器[鯱鉾]の件があったからね。これでますます誤解が進行してしまうよ。僕は神じゃないっていうのに。


「……とりあえず、アムラスの死体があるっていうのは分かったわ。確かに村人達を食い殺したアムラスを食べるのには抵抗がある。でも、今はそんなことを言っている場合ではないと思うの。食べなければ死ぬ。だったら食べるしかないじゃない。死んでいったみんなの為にも、私達は生きなきゃいけない」

「それじゃあ」

「ええ。みんなには私から説得するわ。でもどうやってあの大きなアムラスをこの村まで運ぶの? この近くで倒したわけじゃないのよね」

「大丈夫。僕が転移で運ぶよ」

「転移が使えるのも驚きだけど、あの大きさのものまで転移させられるのね。 ……まぁいいわ。アムラスについてはユートにお願いするわ」

「分かった」


 少し時間はかかるけど、魔術による転移でも何とかなると思う。これで水と食料の問題も解決したし、二週間後には増援も来る。これで話し合いも終わりとしたいところなんだけど、そういうわけにもいかない。僕にはあの塔について、みんなの知らない重大な発見があった。


「それじゃ、各自そのようにーー」

「ちょっと待ってくれる?」

「どうしたの? ユート」

「魔術の一つに、周囲の様子を分析する【サーチ】っていうものがあるんだけど、それで塔を調べてみて分かったことが二つあるんだ」

「さっき言ってくれればよかったのに」

「いや、だって言おうと思ったけどあの二人が喧嘩しだしたし」

「そう言えばそうだったわね。あの二人のことをすっかり忘れていたわ」


 ……少しだけあの二人に同情するよ。あの二人が忘れられていたことを知ったらどんな顔をするかな。


「まぁ、それは置いといて。一つ目なんだけど、あの塔には大量の魔物が住み着いているみたいなんだ」

「おいおい、それってまさか」

「うん。僕も多分ベルと同じ意見だと思う」

「……ダンジョンか」


 ハクの呟きは静まり返った部屋によく通った。僕はエルムス国の近くにあった洞窟型のダンジョンしか知らないけど、図書館で読んだ本によると、他にもいくつもの種類のダンジョンがあるようだ。

 その中の一つが、あの塔の形をしたダンジョンだ。その特徴は何と言ってもその難易度。ダンジョンの中でも上位に入るほど難しいと言われ、蔓延る魔物が強い。加えてトラップも多く仕掛けられているから、攻略するのはほぼ不可能とまで言われているほどだ。


「しかし、ダンジョンと言うなら納得がいくのう」

「ええ。ダンジョンはとある神様の気まぐれ。突然現れてもおかしくはないわ」


 そういえば本にそんなことも書いてあったな。確か、その神の名前は……


「……邪神ムト」

「うむ。人の苦しむ姿がなによりも好きな神様じゃ。なぜこんな村の真ん中にダンジョンを作ったのかなど容易に想像がつく」


 随分と迷惑な神だね。人が苦しんでいる姿が好きってことは、もしかしてこの村の様子もどこかで見ていたりするのかな。

 周囲を観察してみるけど、その様子はない。とは言っても相手は神だ。僕の目を掻い潜ることなんて造作もないのかもしれない。


「して、ユート。もう一つ気がついたこととは何じゃ?」

「おっと、そうだったね。こっちの方が問題なんだけどね……、あの塔の中から複数の人の気配がするんだよ。おそらくこの村の人達だと思う」

「なんじゃと!?」

「多分ダンジョンができると同時に取り込まれたんじゃないかな」

「でもそんなこと聞いたこともないわよ?」


 カリナが信じられないというように、首を横に振った。


「しかしダンジョンというのは未知じゃ。前例がないだけかもしれん」

「……でも」

「ユートの力はこれまで見てきたじゃろう。嘘ではあるまい」

「……そうね。でも、どうするの? 助けようにもダンジョンの中じゃ……」

「兵士の到着を待ちたいところじゃが、一般人が二週間もダンジョンの中で生きられるとは思えん」

「ええ。まず不可能ね。できる限り早く救出しないと……」


 二人の言うとおりだ。それに、二人には伝えてはいないけど、【サーチ】した時に一人死んだのを確認した。このままじゃ、全滅するのは目に見えている。


「僕が行くよ」

「ユート? でも、あなた一人に任せるわけには」

「大丈夫。策はあるから。それに、なんとなく僕が行かないといけない気がするんだ」


 とは言ったものの、策なんてない。神力もほとんど回復していないし、無謀としか言いようがない。でも、行かなくちゃいけない気がするのは本当だ。このままじゃ、もっと酷いことが起きるような気がしてならない。

 それに、村人を助けるにはその居場所を把握していないといけない。だから【サーチ】を使える僕が一番適任だ。


「だったら俺も行くぜ」

「ベル?」

「これでも罠を見つけるのは得意なんだ。少しは役に立てると思うぜ」

「でも……」

「うむ。分かった。お主もついて行け」

「ーー」


 声も出ないほどに僕は驚いた。真っ先に反対すると思っていたハクが、ベルに賛同したのだから。


「どうして?」

「ベルの言うとおり、こやつは罠を見つけるのが上手い。連れて行って損はないじゃろう」

「……死ぬかもしれないよ?」

「それはワシもベルも分かっておる。最悪見捨てても構わん」

「それはないんじゃない? 実の孫でしょ?」


 僕はハクの言い方に腹を立てていた。見捨ててもいいなんて言い方、本人の前でしていいはずがない。


「ユート、落ち着け。爺ちゃんが言いたいのは最悪の場合だ」


 ……最悪の場合、ね。そうだね。ハクもベルを死なせたいなんて思っているはずない。ちょっと冷静じゃなかった。


「ごめん、ちょっと勘違いした」

「いや、すまんの。ワシも言い方が悪かった。ワシもベルを無駄に死なせたいわけじゃない。じゃから、できる限りでいい。ベルを守ってやってくれんか」

「ベルの安全を考えたら村に残しておいた方がいいと思うけど?」

「いや、お主一人ではワシらが心配じゃ。まだ本調子ではないのじゃろう?」

「……まあね」

「だったらベルを連れて行くのじゃ。多少は役に立つじゃろう」


 ハクもベルも譲る気はないらしい。

 罠を探るたびに【サーチ】を使っていたら時間がかかりすぎるか。一刻も早く村人を助けないといけないからね。時間をあまりかけるわけにはいかない。


「……分かった。よろしく、ベル」

「おう!」


 あの塔からは何となく嫌な予感がする。正直そんなところにベルを巻き込みたくなんてないんだけど、仕方ない。

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