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46話 隠し事

 村人達の治療が終わった。集められた重傷者に関してはもう命の心配はない。数日もすれば元気になると思う。軽傷者に関しても、僕が一人一人回って治療したから感染症の心配もないだろう。


「ありがとう、本当にありがとう」


 孫が助かったと喜ぶ老人から感謝の言葉をかけられた。僕としても、感謝されて悪い気はしない。でも、今までにこういった経験が無かったわけではないから分かるんだ。こんな時、かけられるのは感謝の言葉だけではないことを。


「どうして……、どうしてお母さんを助けてくれなかったの」


 ……やっぱりか。


「おい、やめろ」

「お父さんは黙ってて! ねぇ、どうして私のお母さんは助けてくれなかったの? きっとあなたなら助けられたはずなのに」


 一五、六歳の少女がそう僕を責め立てる。けど、こういう時に弁解するのは逆効果だ。そんなことをすれば、この子はこの日から前に進むことができなくなる。この日、この出来事が彼女の足を引っ張り続けてしまう。曖昧にした今は、未来さえも曖昧にすると僕は知っているから。

 だから、僕は、


「ねぇ、黙ってないで何か言ってよ」

「……僕には助けられなかったよ」

「そんなことない! あなたならーー」

「できないよ。……僕は死者を生き返らせることなんてできない」

「っ! ……死んでなんて」

「僕は怪我人を集めて欲しいと言ったんだ。あの時、キミの母さんがいなかった時点でもう死んでいたんだよ」

「ち、違う。まだ、生きて……」


 そう言って少女は頭を抱えながら涙を流した。まだ現実を受け入れられないんだね。いや、母親が死んだ時のことを自分のいいように解釈されていると言った方が正しいか。


「いい加減にしろ!」


 その時、少女の父親が大地を震わすほどの声量で怒鳴った。行く末も見守っていた周囲の人々も驚き、身を震わせるほどだ。しかし、そんな力強い彼の両の目には涙が浮かんでいた。


「……お父さん?」

「あの時あいつはもう死んでいた。そこの少年が言った通りだ。現実から目を逸らすな」

「でも!」

「死んで辛い思いをしているのは俺たちだけではないんだぞ」

「っ! うわぁああああああ!!」


 泣き出す娘を、彼は優しく抱きしめた。……もう大丈夫かな。


「すまなかった。俺が言ってやらないといけなかったのに」

「ううん。ちゃんと支えてあげてね」

「当たり前だ。俺の大切な娘だからな」


 死んだ人間はもう生き返らない。それは神にさえできないことだ。だから、僕にできることは現実を突きつけることだけ。……ただそれだけ。そんなことしか僕にはできない。それ以外には何もできやしないんだ。


「うぐぅ!」


 そんなことを考えていると、突如僕を苦痛が襲った。別に体が痛いというわけじゃない。言葉では言い表し難いけど、魂に直接苦痛が広がるような。そんな感じだ。

 人前でこんな姿を晒すわけにはいかないから、急いでその場を離れ、建物の影へと逃げ込んだ。


「がはっ! あぐぅ!」

「ユート!?」


 僕の様子に気がついたリンは、慌ててフードの中から飛び出してきた。でも、リンに気を使うほどの余裕は僕にはない。


「もしかして……、ユート! 少し待ってて」


 リンはそう言うと、僕の額にその小さな手を当てて目を閉じた。すると、不思議なことにすぐに苦痛は和らいできた。僕はゆっくりと深呼吸して息を整え、建物の壁を背に座り込む。


「ふぅ。ありがとう、リン」

「ううん、ユートが無事で良かった」

「もう随分と起きてなかったんだけどなぁ」


 最初に起きた時は今も良く覚えている。あの時は天照さんが助けてくれたんだっけ。


「そう言えばその後にも何度かあった気がするんだけど……、思い出せないな」

「そんなのもういいよー。それより少し寝た方がいいよ? ユートは疲れてるんだよ」

「でもまだ色々とーー」

「いいから寝るの!」


 リンがそう言って指先を僕に向けると、なぜか突然猛烈な眠気が僕を襲った。


「リ、ン?」

「……安心して。リンが絶対にユートを守るから」


 その一言を聞いて、僕の意識は完全に落ちていった。最後に見たリンは、どこか悲しそうな表情をしていた気がする。





「おい、ユート! こんなところで寝んな! 風邪引いても知らねぇぞ」


 僕はベルに体を揺さぶられて目を覚ました。


「あれ?」

「あれじゃねぇよ。何でこんなところで寝てんだ? せめて馬車で寝ろよな。奇跡的に壊れてねぇんだから」

「ここは?」

「はぁ? 寝ぼけてんのか? 俺が一体どれだけ探し回ったと思ってんだ。ようやく見つけたと思えばこんな建物の影でグースカ寝やがって」


 あれ、僕はどうしてこんな所で寝ているんだろう。怪我をした人達の治療をしたことまでは覚えてるんだけど。……うーん、全然思い出せない。この歳で夢遊病にでもかかってるのかな。


「リン」

「どうしたのー」

「僕ってどうしてこんな所で寝てるんだっけ」

「うーん。知らない」

「知らないって、ずっとリンは起きてたんだよね」

「ううん、さっきまで寝てたよー。起きたらこんなところにいてびっくりしたー」


 リンも知らないのか。何かあった気がするんだけど、気のせいかな。


「そういえば何でベルは僕を探してたの?」

「爺ちゃん達が呼んでるんだ。まぁ、疲れているようならそう伝えておくけどどうする?」

「いや、行くよ。寝てたからかスッキリしているから」

「無理すんなよ? ただでさえお前には頑張ってもらってるんだ。それで倒れられたら俺らが困る」

「大丈夫だよ」


 まぁ、覚えていないってことは大したことではなかったんでしょ。僕は立ち上がって固まった体を伸ばすと、背中がゴキゴキと音を立てた。変な体勢で寝てたせいか少し体が痛いや。無意識でもこんな所に寝るもんじゃないね。






「……ごめんね、ユート」






「来たか。悪いのう、呼び出して」


 ベルの案内で向かった先は、この村の中でも一際目立つ村長の家だった。その一室にはもう既に何人か集まっていて、どうやら僕を待っていたらしい。知っている顔はハク、ベル、カリナ、ゲング、オドの五人だ。残りの二人は顔だけ見たことがある。


 僕はハクに促されて入り口に近い席に着いた。


「ううん、もしかして遅くなった?」

「いや、ワシらも駄弁っておったのでの。しかし、こうして集まったのじゃから話を始めるとするか」

「話って、もしかしてあの塔のこと?」

「そうじゃ」


 そうだよね。突然あんなものが現れたんだ。そのせいで被害も出てるし、どうするか決めないとね。


「そもそもアレって何なの?」

「うむ、分からん」


 分からないんかい。そんなキメ顔で言われても困るんだけど。


「近くで確認してみたんじゃが、分かったのは入り口が一つしかないことだけじゃ。その入り口も扉で閉まっておった」

「扉?」

「うむ。何が起こるか分からんから開いてはおらんがの」


 扉ね。外からの侵入を防ぐためか、それとも中のものを外に出さないためか。それだけじゃまだ何なのか分からないな。


「俺もハクについていったんだが、あの塔は俺の知る素材でできていなかった。まさに未知の物質ってわけだ」

「それ本当なの?」

「何だ、カリナ。俺の目を疑ってんのか?」

「いえ、あなたの腕は知っているわ。でもちょっと信じられないから」

「俺だって最初は自分の目を疑ったさ。でもな、あんな素材見たことねえ。自慢の金槌が折れちまったんだぜ?」

「ちょっと、バカじゃないの!? 刺激してまた村を壊されたらどうするのよ!」

「うっ」


 これはゲングが悪いね。カリナが怒る気持ちも分かるよ。あれだけのことがあったのに軽率すぎだね。


「もっと考えてから行動してほしいもんだ」

「なんだと、オドのくせに。やるか?」

「頭に来ればすぐに手を出すのか。全く、これだから年寄りは」

「ああ゛!? 表にでやがれ、クソガキ!」


 ゲングは怒りに任せて机に両手を叩きつけた。でも、そんな今にも喧嘩が始まりそうな中、僕の視界には般若が見えていた。


「出て行って」

「なんだ……、ヒッ! か、カリナ?」


 カリナの一言でようやく気がついた二人は、蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。


「もう一度言うわ。……出て行け」

「「……はい」」


 というわけで、ここからは五人での話し合いだ。とりあえず無闇にカリナを怒らせるのは止めておこう。あれを降臨させてはいけない。絶対に。

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