44話 人器
「水源を作るって……」
「大丈夫。ちょうどいいものを持ってるから」
というのは嘘でこれから作るんだけどね。ミルが作ったっていう豊穣の短剣を見て、以前からあれに似たものなら僕にも作れるんじゃないかと考えていた。でも、短剣は持っていないから他の物で代用しないといけない。そこで目をつけたのが、
「なに、それ」
「んっとね。鯱鉾」
「しゃちほこ?」
リュックの中から取り出したるは手のひらサイズの黄金に輝く鯱鉾。ちなみにこれはまだ日本にいたときにお土産コーナーで買ったもの。千円はしなかったと思う。これに水の性質を付与することによって、おそらく水が出続けるようになる……、はず。
「変わった形をしているのね。随分と高そうなものだけど、どういったものなのかしら」
「水が出続けるっていう物だよ。たぶん」
「水が!? そんな、まさか」
水が出ると聞いた村人たちは動揺が隠せず、ざわめき始めた。嘘だとか信じられないって言ってる人達もいるけど、そんなものは無視だ。
それよりも、この鯱鉾に水の性質を付与するには一つ大きな問題がある。それは僕の使える神力で足りるのか分からないと言うことだ。いざとなればあいつに出てきてもらわないといけないかもしれない。……それは嫌だなぁ。
もう一つ問題というか心配事があるけど、それはあまりに気にしていない。というのは、膨大な神力は一般人でも感じ取ることができるということだ。でもそれは神力のことを知っている人じゃないと判断がつかないはず。気づいたとしても、せいぜい、「むむっ、何かビビッときた!」ぐらいにしか感じないと思う。
それに、たぶん僕は一般人が感じ取れるほどの神力を扱えない。僕は自分の持つ神力の3割ほどしか使えないからまず気づかれることはない。天照さんから神力を借りればもしかしたら感じ取れる人がいるかもしれないけど、それは先の理由から問題ない。
ごちゃごちゃと考えはしたけど、要は僕が全力を出そうが問題ないというわけだ。それにバレたらバレただ。どうにでもなるでしょ。まぁバレないことに越したことはないからこうして演技をしてるんだけど。
「ちょっと待ってね。使い方を思い出すから」
「え、使い方知らないの?」
「知らないんじゃなくて忘れちゃっただけ」
「忘れたって、たぶんそれ神器よね? どうして忘れられるのよ」
神器、神器ね。ちょっと違うかな。確かに神器みたいなものだけど、神が作ったんじゃなくて一応人間の僕が作るものだからね。人器とでも言えばいいのかな。
そんなどうでもいいことを考えながら、僕は鯱鉾に水の性質を込めた神力を流し込んだ。正直初めてやるから成功するかは分からない。と、そこまで考えて、僕が想像以上にあいつを頼っていることに気がついて気落ちした。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
僕はあいつにあまり頼りたくない。あいつに頼る度に自分を見失いそうになるから。
「本当に大丈夫? 顔色が悪いわよ」
「うーん、思い出せないなー」
「あなたね……」
とか言って誤魔化しておいたけど、心配されているのがわかった。自分よりも見た目が年下の少女に慰められるのは心にくるから勘弁してほしい。
「うーん」
神力を注ぎ込んで見たけど、僕の使える神力だけじゃ足りなかった。やっぱり天照さんに頼るしかないか……。
仕方なく、心の中で天照さんに力を貸して欲しいと心の中で願うと、自分の扱える神力の量が一気に増えるのを感じた。
『お困りですか。唯斗』
「ううぇ!?」
と同時に、天照さんの声が頭に響いてきた。そういえば強く念じれば会話もできるって言ってたっけ。
「どうしたの!?」
「い、いや、なんでもない」
突然頭の中に響いてきたから変な声を出しちゃったよ。この村に来てから「なに、この変なやつ」みたいな視線が増えた気がする。……主に僕の行動が原因なんだけど。
『ふふっ。ごめんなさいね』
『ううん、それよりもどうしたの?』
『ええ、唯斗がお困りのようだったから』
『なんでわかったの? って、僕が神力を借りたからか』
『それもありますが……、っと。いえ、その通りですよ』
『ごめんね、こう何度も力を借りちゃって』
この世界に来てから誰かに頼りっぱなしな気がする。天照さんにも、リンにも、……あいつにも。
やっぱり地球の方が危険が少なかったな。
『良いのですよ。それより、なにがあったのですか?』
『えっと、話せば長くなるから簡潔にいうけど、水に困った人がいるから水の出る神器みたいなものを作ってあげようと思って』
『そうですか。……唯斗は神器にどれだけ神力が必要か知っていますか?』
『ううん。初めて作るから』
『神器に必要な神力は、唯斗の持つ全ての神力の八割くらいでしょうかね』
『えっ! そんなに!?』
しまった。まさかそんなに必要だとは思ってなかった。三割全てを使っても残り五割も残ってるのか。
『安心してください。足りない分は私が貸します』
『いいの? 結構な量だと思うけど』
『私にとってはたいした量ではありません』
……これがトップクラスの神か。天照さんの神力って一体どれだけあるんだろう。
『ですが、これだけの量となると唯斗の体に負担がかかります。少しずつ渡しますから、受け取った分はすぐに使い切ってくださいね』
『分かった。ありがとう、天照さん』
『良いのですよ。これからも、唯斗の旅が素敵なものになるよう、私も祈っております』
天照さんに祈ってもらったらもう間違いないよ。
天照さんから受け取った神力を鯱鉾に流すこと数十分後。遂に、人器[鯱鉾]が完成した。その間、まだ思い出せないのか、と、カリナ達からせっつかれたけど、持ち前のトークで誤魔化した。
「ごまかせてなかったけどねー」
リン、うるさい。いいんだよ。結果は出したんだから。
目の前では、鯱鉾の口から溢れる水を腹一杯に飲みすぎた村人達が転がっている。反対に、少年少女達は水に濡れるのが面白いのか、鯱鉾を振り回してみんなを水浸しにしてはしゃいでいる。玩具ではないんだけど。
ちなみにこの鯱鉾は凄い。鯱鉾の口から出る水の量が調節可能なことに加え、出る水の温度も調節できるというハイテク仕様だ。もちろん、誤って滝のように水が出たり火傷しないようにストッパーも付けている。一家に一つは欲しいところだけど、作るのにかなり労力がかかるから量産は不可。今こうして地面に座り込んでいるのも、天照さんからもらった神力の使いすぎによる疲労のせいだ。もう一度作りたいとは思えないよ。
「全く、みんなだらしないわね」
「とか言ってるカリナが一番はしゃいでなかったっけ」
「……うるさい」
顔を赤く染めながらカリナはそっぽを向いた。あのはしゃいでいるカリナは見た目相応の少女だったよ。
「でもありがとう。本当に助かったわ」
「別にいいよ。たまたま僕がキミ達を救えるものを持っていただけだから」
「使い方を思い出すのに随分とかかったわね」
「仕方ないよ。使ったことなんてなかったから」
「持っていたのに使ったことがなかったの?」
「友達からもらってね」
「その友達にアレの名前や使い方を聞いたの?」
「そうだけど」
「名前を覚えていたのに使い方を忘れるなんてすごいわね」
「……そうだねー、僕も驚いているよ」
「ふふっ、そういうことにしておくわ」
……そういうことにしといて。
僕の視線の先では少年少女が今も元気にはしゃいでいる。大人達は倒れてピクリともしないのにだ。
それを見て僕も、歳をとったな、なんて考えてしまった。あの中に入ってはしゃぐ気力は、僕にはない。子供って、元気だねー。
「ユートはまだ子供だよー」
何やらリンの口から巫山戯た言葉が飛び出した気がする。
あとでデコピンの刑だ。




