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43話 残された爪痕

「うーん、一体どうしたものか」


 先ほどまでの喧騒は一体なんだったのか。今は静寂のあまり耳鳴りまで聞こえてきそうなほどだった。


 僕の眼下には跪く村人たちがいる。もちろん僕がそんなことを頼むことなんてない。これは彼らの自発的な行動だ。もちろんその対象は僕ではないけど。


「ねぇ、頭をあげてくれない?」

「んなことできるわけねーだろうが! テメェこそ何してんだ! 頭が高けぇぞ」


 とか言われてもね。別に頭が高くはないよ? キミたちが頭を下げている相手は僕の頭の上で仁王立してるんだからね。


「むー! そんなこと言わないで! ユートはリンの親友なんだよ!」

「こ、これは失礼を」


 村人たちがこうなったのはリンが飛び出してきてからだ。僕は村人たちを説得しようとしていたんだけど、案の定うまくいかなかった。それはそうだよね。リーシェちゃんのときもそうだったけど、知らない人が突然問題を解決するって言っても信じられるはずがない。それなのになぜ僕はなぜそんなことを言ったのか。


 答えは簡単だ。僕がしたいようにしていだけ。

 正直、相手がどんだけ信用していなくても別に構わないんだ。信じていなくたってもいい。僕がそうしたいと思ったからそうしているだけ。別に結果で示せばいいかなって。


 さて、そんなわけでまた同じような状況に陥った僕は、どうやって信じさせようかと考えていたわけだ。一番手っ取り早く、神術で大雨でも降らしてやろうかと思っていたところで、例のごとくリンが僕のフードの中から飛び出してきた。リン曰く、うるさいだそうで。


 確かにそれは僕も思った。ドワーフって声が大きいんだよね。僕より少し身長が高いだけなのに。声の大きさと体の大きさは関係ないのかな?


 まぁ、それはどうでもいいとして。リンを目にした村人は目を点にしていた。そして、また精霊様だとか言い出すのかなと思っていたらこんな状況になったわけだ。エルムスとゴルタルでの精霊に対する考えの違いがよく分かったよ。


「そんなに精霊って偉いの?」

「……そんなことも知らんのか。精霊様は神様の使い。そして、世界そのものに力を分け与える存在なのだ。精霊様が世界からいなくなれば、この世界は滅んでしまう」


 なにそれ。初耳なんだけど。


 精霊に関する書物は地球ではほとんどなかったからなー。分からないことの方が多い。そもそも地球にいる精霊と、この世界の精霊が同じ存在なのかも怪しいところだ。


「って言ってるけど?」

「うーん……、わかんない」


 ……左様で。僕にとってはリンも精霊なのか怪しいけどね。こんなに人の言葉や感情を理解する精霊なんてリン以外に見たことないから。


「……精霊様。あなた様がこうして俗世に出てこられたのは何故ですか?」

「おい! 失礼だぞ!」


 さっきドワーフと言い争っていた青年が尋ねてきた。それをドワーフがたしなめる。


「リンはユートについていってるだけだよ?」

「そ、そうですか……」


 うん? なんだか残念そうだね。


「どうしてそんな質問を?」


 僕が尋ねると、その青年は少し顔を赤くしながらそっぽを向いた。


「い、いや。なんでもない」

「ハハッ! こいつは未だに御伽噺を信じてんだ!!」

「お、おいっ!」


 ドワーフの言ったことが図星だったのか、青年は目に見えて動揺した。


「その御伽噺って?」

「ん? ああ、精霊様は世界の破滅が近づくと、世界を救うために勇者を選びにやっていくるっていう話だ。この国では有名な絵本だな」

「勇者、ね」


 なんともよくあるような話だね。これで姫が拐われようものならおもわず笑ってしまうほどに。


「い、いいだろ。別に」

「ったく、お前はいつまでたってもガキだな」

「うるさい。おっさんのくせに」

「俺はドワーフの中でも若い方だ」

「俺よりも年上には変わりないだろ」

「違いねぇ! 俺にとってはお前はまだまだガキのままだ!」



 どういうわけか言い争っていたはずの二人が仲良くなっている。喧嘩するほど仲がいいって言うし、この二人は意外と気が合っているのかもしれない。


「二人とも! 精霊様の前で失礼よ!」

「「……悪い」」


 特にそこのドワーフの少女には頭が上がらないところとか。


「えっと、キミはドワーフでいいんだよね」

「そうよ。私はドワーフのカリナ。そっちはドワーフのゲングと、人間のオドよ」

「よろしく。それで、さっきの話なんだけど」

「水と食料の話ね。確かにあなたが用意してくれるのは嬉しいけれど、流石に信じるのは難しいわ。あなたみたいな子供にできるとは思えないから」


 ……僕と身長の変わらない少女に子供と言われた。二十歳になった大人とも言える僕が。身長の変わらない少女に。子供って。


「リン。……僕はもうダメかもしれない」

「ダメ! 目をあけて! 死んじゃやだー!」

「えっ? えっ?」


 困惑するカリナを横目に、僕はその場に倒れながらリンの頭をそっと撫でた。


「いいかい? リン。 僕が死んだら僕の遺体は海に流してほしい。死んで土の中で拘束されるなんて僕には耐えられないから」

「ユートー! 死んだらそこで終わりだよ!」

「……いいんだ。もう」

「ユート?」

「……世界は、……僕に厳しかった。ガクッ」

「ユートー!」


 僕の手が地面へとパタリとついた。その指に必死にしがみつくリンだけど、もう僕は動かない。


「……ユートがしんだ。……だったら、リンも。ガクッ」


 その場を静寂が満たした。聞こえるのはそよ風の音。こんな荒れた大地にも、心の汚れを取ってくれるような優しい風が吹く。

 そんな静寂をカリナの言葉が切り裂いた。


「……なんなの? これ」


 ごもっとも。というわけで何もなかったかのように土埃を振り払う。リンも真似して僕の頭の上で土を払っていたけど、それって全部僕の頭に付いてるからね。


「さて、水の方は今すぐにでもなんとかなるんだけど」

「……え、さっきのは」

「問題は食料の方だよね。近くに食料になるものってあるの?」

「無視なのね……」


 だって完全に滑っちゃったから。それを蒸し返すとなるとさらに僕の心がえぐられるんだよね。


「まぁいいわ。近くで魔物を狩れるわ。でも、それだって限度がある」

「なるほど。食料は全部盗まれたの?」

「いいえ。各家庭に少しずつは残っていると思うわ。盗まれたのは貯蔵されていた食料と、商人の持っている食料ね」

「商人の?」

「ええ。この村に二組の商人が来ていたのだけど、片方の商人は村長と組んで食料や金目のものを盗んでいったわ。もう片方の商人の持っていた食料ごとね」


 村長は商人を味方につけていたのか。まぁ、単独犯だとは思っていなかったけど。


「あの商人は怪しかったんだ。随分と柄の悪い連中を引き連れていたから」

「なんでそんな連中を村に入れたの?」

「村長の命令でね。それに随分と前から出入りしていたから今回もすんなりと入れてしまったんだ」


 変に反発すると何をしでかすか分からないってところかな。済んでしまったことは仕方ない。今更ここでそれを議論しても食料が戻ってくるわけじゃないし。


「わかった。とりあえず水だけでも先になんとかしようか」

「さっきも言ったでしょ。私たちはあなたを信じられないの。それに、仮にあなたに解決できたとして、あなたは何が望みなの? 今の私たちにできることなんてほとんどないわ」

「望み、ね。そうだね。なら、宿三泊とその分の料理の提供でどう? どっちみち僕らはこの村に長居はしないし」

「……それだけ?」

「うん。どうする?」


 もっと凄い要求を想像していたのかな? 残念。僕が誰かを助ける理由は、ただそうしたいと思ったから。……ただの自己満足だよ。


「……それで構わないわ。でもどうするの? この辺りの水源はアムラスに枯らされてしまったのよ」

「やっぱりアムラスが来ていたんだね」

「見たの?」

「昨日ね。多分同じやつだと思う」

「そう。逃げ切れたみたいで何よりだわ」


 別に逃げたわけじゃないんだけどね。


「それで、井戸はどこにあるの?」

「こっちよ」


 カリナたちに付いていくと、対して遠くないところに人が二人ほど入れそうなくらいの大きさの井戸があった。試しに近くに置いてあった釣瓶を中に落としてみると、数秒後に中から壊れたような音が聞こえてきた。どうやら全く水が入っていないらしい。


「ね? もうこの井戸はダメよ。それに次の雨がいつ来るかも分からない」

「確かに。アムラスがどうやって水を飲むのか知らないけど、この井戸には穴が空いてるかもね」

「そう。……もうこの村はダメかもしれないわね」


 カリナの言葉を聞いた村人たちは俯いた。これほどの村ができるのに一体どれだけの時間がかかったのか。食物が育てにくいこの環境では相当苦労したんだろうね。


「大丈夫」

「え?」

「なんとかするよ。……【サーチ】」


 とりあえず地下の様子を探ってみる。

 うーん、随分と地下水脈を荒らされているね。今まで水の流れていた場所に大穴が開いてしまっている。これじゃ水を汲み出すのは難しいだろうね。

 なら、


「水源を作るしかないかな」

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