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42話 人間か神か

 ユートに村の探索を任せ、俺は馬車の中に寝袋を敷いてそこにリナを寝かせた。村長の家の中を確認しに行こうとしたが、眠っているリナに服の裾を掴まれて動けなくなっちまった。


まぁ、無理もねぇ。俺でもアムラスのあの巨体にはビビっちまうんだ。こんなに小さいやつがよく生き残れたもんだ。……いや、違うな。多分こいつの両親が守ったんだろう。自分達を犠牲にしてでもこいつを死なせたくなかったんだろうな。


 動けないから仕方なくリナの隣に座り込んでいると、爺ちゃんが馬車に乗り込んできた。


「その子の様子はどうじゃ?」

「ああ、ぐっすりと眠ってるぜ」

「ふむ。随分と懐かれたようじゃの」

「……寝ぼけてるだけだろ」

「照れなくても良い。実際お兄ちゃんと呼ばれて顔がにやけておったぞ」

「なっ!」


 そ、そんなはずはねぇ。確かに少し嬉しかった気もしないでもないが、それはただの気のせいだろうし、だからと言ってそんな俺はーー


「冗談じゃ」

「……このクソじじぃ」

「ほっほっほ。じゃが、その様子を見るにあながち間違いではないようじゃの」

「知るか」

「しかし、その子をどうするか……。親戚を探してみるしかないかのう」


 リナにはもう両親がいない。これから生きて行くのはそう簡単じゃねぇだろう。俺には爺ちゃんがいたから良かったけど、こいつには誰もいないかもしれない。例え居たとしても、その人達がこいつを育ててくれるかも分からねぇ。


「なぁ、爺ちゃん。こいつはーー」

「ならんぞ」


 そう言った爺ちゃんの目は真剣だった。いつもの穏やかな目はなく、俺は戸惑いを隠せなかった。


「ベル、お主の言いたいことは分からんでもない。じゃがな、中途半端な覚悟ではその子を不幸にするだけじゃ。お主にはその子を今後守り続ける覚悟があるか?」


 ……俺には財力も権力も守る力もない。今も爺ちゃんに守ってもらいながら生きている。そんな俺がこいつを守り続けることなんてできるのか……。いや、できないな。俺にそんな覚悟はない。誰かの人生を背負うなんて到底できやしねぇ。


「引き受けるのは簡単じゃ。しかしな、それをしてしまったらもう無理だとは言えない。言ってはならんのじゃ」

「……けど、こいつの親戚がいるとは限らねぇじゃんか。それに、そいつがいいやつとも」

「その時はその時じゃ」

「っ!」


 俺は爺ちゃんのその言葉に怒りを隠せなかった。当たり前だ。まさかそんな無責任なことを言うとは思わなかった。まるでリナがどうなっても仕方ないようなその物言いに、思わず拳を強く握りしめる。


 一言言ってやろうと爺ちゃんを見て、でも何も言えなかった。爺ちゃんが穏やかに笑っていたから。


「安心せい。たとえそんな輩だったとして、ワシがその子を預けるとでも思ったか?」

「ってことは」

「うむ。その子がちゃんと生きていけるようにするわい。それが、ワシらにできる唯一のことじゃ」


 よかった。

 安堵とともに、服の裾を引っ張られる感覚がした。視線を向ければ、リナが寝ながら笑みを浮かべていた。何かいい夢でも見ていたのかもしれねぇな。


「じゃが、それもこの状況を何とかしてからじゃな。その子の親戚を探そうにも探せん」

「だな。ユートが何か聞いてきてくれればいいんだが」

「そう、じゃな」

「どうしたんだ? 爺ちゃん」


 俺は爺ちゃんの歯切れの悪い言葉に疑問を覚えた。問いかけると、爺ちゃんは言おうか躊躇っていたようだが、やがてその口を開いた。


「ベル、お主から見てユートはどんな人物だと思うかのう」

「ユートか? ……そうだな、一言で言えば子供っぽいやつかな」

「そうじゃな。ワシもそう思う」

「何が言いたんだ、爺ちゃん」

「……昨日のアムラスを覚えておるか?」


 俺は氷漬けになったアムラスを思い出した。一体でも驚いたけど、二体も同時に倒したなんて今でも信じらんねぇ。


「ああ、あれを倒したのはユートだって言ってたな。すげぇよな」

「うむ。確かに凄い。しかしな、あれだけのことをやってのける人間をワシは知らん」

「……爺ちゃんはユートが人間じゃねえって言うのか」

「そうとしか思えんのじゃ。それにじゃ。ユートは精霊様まで連れておるのじゃぞ?」

「つまり、ユートが神様だって言うのか?」

「そうじゃ。流石に何の神様までかは分からんがのう」


 確かにユートが人間離れした力を持っているのは分かる。だが、見た目は人間だし、ハーフならハーフで体のどこかに特徴が出る。となると人間か神様かどうかだが、それは神力を持っているかいないかの違いだ。


 でも、それに関しては見極めようがない。ごく稀に魔力や神力を見ることができるやつがいるらしいが、本当にごく稀だ。

 あと判別する方法といえば、神力を感じ取れるやつがいるらしい。エルムス国に居を構える商人のロンドさんがその一人だったはずだ。


 つまり、俺らにはユートが人間なのか神様なのか判断する手段がないわけだ。


「だとしても、どうしてユートは人間の真似なんてしてるんだ? そんなことをする意味があるのか?」

「分からん。が、ユートはずっと旅をしておったようじゃの。この大陸以外の話も聞いた」

「ますます分かんねぇ。ユートが何の神様なのか分かれば多少は推測できるんだろうけどな」

「……兎にも角にも、ユートはワシらに神様だとは言っておらん。むしろ人間だと思っていて欲しいようにも感じる。今まで通り接すればよかろう」

「そうだな。変に刺激して嫌われるのはごめんだぜ。ユートはいいやつだからな」

「ほっほっほ。そうじゃの」


 たとえユートが神様であろうと関係ないね。俺はユートが気に入った。それに変わりはねぇ。もう俺はあいつのことをダチだと思ってる。


 向こうもそう思ってくれていたらいいんだけどな。


「お主はそれで良い。これで態度を変えるようであれば……」

「なんだよ。変なところで止めるなよ」

「ふむ、これを機に鍛え直すのも良いかの」

「やめてくれ! 爺ちゃんの訓練はきつすぎんだよ」


 思い出すのは限界を越えた先まで力を出し尽くす毎日。倒れてからが訓練だといい、俺は爺ちゃんにしごかれまくった。


 魔物の溢れるこの世界が危険なのは重々承知している。でもな、訓練で死んだら意味がないと思うんだ。


「なんじゃ、あれくらいのことで。ワシがお主くらいの頃はあれの倍はこなしておったぞ」

「爺ちゃんはあれだ。もう人間じゃねぇ」

「ほほう、そんなことを言っていいのか? お主の命はワシの手の中にあるのじゃぞ?」

「怖えこと言うな! どこぞの悪役みたいなこと言いやがって!」

「……うぅ、うるしゃい」


 やべ! つい大声を出しちまった。

 隣を見れば、リナのパッチリとした目が開かれていた。泣いたあとだからか、両目が少し赤くなっている。


「……ベルお兄ちゃん?」

「悪りぃ、起こしちまったか」

「ううん。いいの。……あれ、ユートお兄ちゃんは?」

「ユートはちょっとな。それより、腹減ってないか? 何か作るぞ」

「ごはん! ……でも」

「どうかしたか?」

「わたし以外にも、おなかが減ってるひとたちがいっぱいいるの」

「どう言うことだ?」

「んっとね。そんちょーさんがね、持ってっちゃったの」


 村長が持っていった? どう言う意味だ?


「ふむ。もしや、村長が食料を持っていってしまったと言うことかのう?」

「ごはんだけじゃなくて、ほかにもたくさん」


 つまり、村長の野郎が食料だけじゃなくて色々と持ち逃げしたってことか? だからこの村の人たちはあんなにも元気がなかったのか。


「爺ちゃん」

「分かっておる。様子がおかしいとは思っておったが、まさかそんなことがのう」

「村長だけじゃなく共犯者がいるよな」

「うむ。一人でどうこうできる問題ではないの」


 クソが! 村人をなんだと思ってやがる!


「ベル、腹を立てても状況は変わらんぞ」

「分かってる!」

「ベルお兄ちゃん?」


 リナの心配そうな顔を見て我に帰った。

 ちょっと冷静にならないとな。

 俺はリナの髪を優しく撫でながら、


「悪い。怖がらせたな」

「大丈夫だよ」

「取り敢えず飯を食おうぜ。リナも腹が減ってるだろ」

「わたしだけいいのかな?」

「ああ。リナは俺たちに何が起きたのか教えてくれただろ? だからそのお礼だ」

「……うん!」


 リナの満面の笑みを見ると少し冷静さが戻ってきた気がした。

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