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41話 枯れたホガ村

 ベルは馬車を止めることなく走らせ続けた。馬達に負担がかかるのはもちろん分かっている筈だ。それでも走り続けるのには理由があった。


 ハクに聞いた話によると、アムラスは村を破壊するだけでなく井戸の水さえも飲み干してしまうらしい。そうなったら人間やドワーフは生きていけない。


「昔、ベルの友人の住む村がアムラスに滅ぼされての。じゃから思うところがあるのじゃろう」


 馬車に揺られながらハクからそんな話を聞いた。

 だからなのかな。ベルがあんなにも辛そうな顔をしていたのは。


 馬車を飛ばしたおかげで、翌朝の日が昇る頃に村が見えてきた。


「あれがホガ村?」


 ベルの、村が見えてきたという声を聞いて、僕は馬車の上からベルに問いかけた。


「ああ。けど様子がおかしい。明らかに建物の数が少ない」


 確かに、建物の並びが不自然に見える。まるで潰れて無くなってしまったかのようだ。

 近づいて見るとそれが良くわかる。地面は荒れているし、レンガで作られた家々は形を成していないものがたくさんある。


 村の中に入ると、村人の顔色が良く無いのが分かった。人間もドワーフも希望を失ったような目をしている。


「おいっ、何があったんだ!」

「……この村はもう終わりだ。あんたらもとっとと逃げたほうがいい」


 そう言って男は幽鬼のようにふらふらと何処かへと歩いて行ってしまった。


「やっぱりアムラスがこの村にきたのか……?」

「ベル、この村の村長はいないの?」

「ん? ああ、いるぞ。そうだな。村長に話を聞きに行くか。俺はあんまり好きじゃないんだが」

「どうして?」

「あいつの黒い噂があってな。ま、話くらいは聞けるだろ」


 そう言ってベルは馬車の行き先を変えた。


「そんな人で大丈夫なの?」

「さあな。俺自身もあんまり話したことねえんだ。基本爺ちゃんに任せてたからな。ただ、目がな」

「目?」

「ああ、あいつの目が気に入らねぇ。常に相手を見下しているような目だ」

「居るよね。そういうタイプの人間」

「しかも外面だけはいいから人気はあるっていうな。なんともずる賢い人間だ」


 厄介だね。頭ごなしにみんなにそれを伝えても信じてくれる人はほとんどいない。そういう場合、僕だったら証拠を見つけるか罠にはめるかな。脅しもいいけど、脅されたから言いました、なんて言われたら困るからね。


「そういえば、ここはゴルタル国内なのにドワーフが村長じゃ無いんだね」

「ゴルタルでは人間もドワーフも関係ないからな。ただ、国王はドワーフじゃないとダメらしいが」

「ふーん。国王以外の職は人間でもいいんだ」

「ああ。以前は近衛兵の隊長が人間だったんだぜ」


 国王を守る兵士達の隊長が人間だったのか。よっぽど信頼していたんだね。種族が違うから裏切りなんかも考えられただろうに。


「っと、着いたぜ。ここが村長の家だ」


 レンガでできた二階建ての立派な家だ。どうやらこの家は壊れなかったらしい。うん? この轍の跡は……。


「着いたかのう」

「爺ちゃん、話を聞くために村長の家に来たぜ」

「うむ、話し声が聞こえておったのでわかっておるよ。ワシが話をしてこよう」


 そう言ってハクがドアをノックして呼びかけるけど、村長は一向に中から出てこない。


「ふむ? 留守かのう」

「村のどっかにいんのか?」


 いくら待っても一向に姿を見せないので、こっそりと【サーチ】を使ってみた。すると、中に人の反応は一切なかった。


「どうやらいないみたいだね」

「うむ。しかしどうするかの」


 話の通じる人でも探そうかと思っていると、僕たちの馬車に近づく人影が一つ。どうやら服や髪を土で汚した少女のようだ。


「お、お水、ちょうだい」

「水か? ちょっと待ってろ」


 ベルは馬車へと飛び乗ると、中から水袋を持ってきてあげた。すると、それを受け取った少女は嬉しそうにコクコクと飲み始めた。


「ぷはぁ! ありがとう! お兄ちゃん」

「ああ。それはもうお前が持っていていいぞ」

「いいの!? ありがとう!」


 水を欲しがっていたということは、井戸の水が無いのかもしれない。とすると、やっぱりアムラスはこの村にきていたのかな。建物が壊れているのもそれで納得がいく。でも、それにしては少し妙なんだよね。


 確かにアムラスによる被害は甚大だと思う。でも、この村以外にも村はあるだろうし、そこに移住するなり物資を分けてもらえばいいはず。それをせずにただただ死を待っているのは少しおかしいかな。


「ねぇ、キミの名前は?」

「えっと、リナだよ。お兄ちゃんは?」

「僕は唯斗。呼びにくかったらユートでいいからね」

「うん! ユートお兄ちゃん」

「で、さっき水をくれたのがベルで、その隣にいるのがベルのお爺ちゃんのハク」

「うん! ベルお兄ちゃん、ハクおじいちゃん!」

「よろしくのぅ」


 ハクが孫娘を見るような目でリナを見ていた。もしかして孫は男の子じゃなくて女の子が良かったのかな? ベルを見る目よりも数段優しげな目で見ている。


「それで、この村で何があったのか聞いてもいい?」

「……うん。……あのね、おっきな魔物がね、おかあさんとね……、おとうさんをね、……たべちゃった、の」


 リナは泣きながらそう言った。これは悪いことをしたな。この子はきっと目の前で両親を魔物に食べられたんだろう。そしてその魔物はおそらくアムラスだ。


「ごめんね。嫌なこと聞いちゃったね」

「……ううん。だいじょうぶ、だよ。わたし、強い子だもん」

「そうだな。お前はつえーやつだ」


 そう言ってベルがリナの頭を撫でると、リナは大泣きしながらベルに抱きついた。両親が亡くなってからずっと一人で生きてきたんだ。寂しかったんだろうな。泣き止んだ時にはもうリナは眠っていた。いつからかは分からないけど、ほとんど眠れていなかったのかもしれない。


「ちょっと僕は村の人に話を聞いてくるよ。もしかしたら話の通じる人がいるかもしれないし」

「なら俺も」

「ベルはその子を見ていてあげて」

「ワシも行きたいところじゃが、ベルが心配じゃからのう。すまぬが頼んだのじゃ」

「任せて」


 さて、どこから行ってみようか。さっき【サーチ】した感じだと、この村の中央に人が集まっているようだった。


「まずはそこから行ってみようか」


 人が多ければそれだけ話を聞ける可能性が高くなる。それに、僕の予想が正しければ村長はこの村にはもう……。


 村の中央に着くと、そこでは人間とドワーフが言い争いをしていた。場の空気は悪い。今にも殴り合いが行われてもおかしくない、一触即発の状態だった。


「どうしてくれんだ! このままじゃ全員死ぬんだぞ!!」

「俺らに言っても仕方ないだろ! 俺らは関係ない!!」

「なんだと!? こんなことになったのは村長の野郎が何もかも持って逃げたせいじゃねえか! これだから人間は信用できねえんだ」

「俺らだって被害者だ! 人間だからって同じにしないでくれ!!」


 うん。やっぱりね。村長はこの村にはもういないみたい。村長には黒い噂があるっていうベルの話は信用していたし、村長の家の前には複数の轍の跡が付いていた。だからなんとなく想像はついていたよ。ベル曰く、村長は人を見下すような人間らしいからね。


「人間はいつもこうだ。危なくなったら誰でも裏切りやがる。どうせお前らだって村長と逃げるつもりだったんじゃねえか?」

「そんなわけない! 俺らはずっと一緒に暮らしてきただろ! なんで信じてくれないんだ」

「信じるだ? 俺らが人間どもを信じるなんてありえるか! 俺らはなーー」

「もうやめて!」


 言い争う二人の間に一人の少女が割って入った。


「私たちは一緒に助け合って生きてきたじゃない! なんでそんなこと言うの?」

「だ、だがな、あいつらは俺らを裏切って」

「裏切ったのは彼らじゃないわ! 村長よ! あなただってわかってるでしょ?」

「む、むぅ……」


 どうやらあの少女はドワーフらしい。正直、ドワーフの女性と人間の少女は見分けがつかない。今だって、ドワーフの兄さん? おじさん? との会話がなければ、人間だと間違えていたに違いない。


「今は生き残ることを考えましょう。皆もそれでいいわね」

「……どうやって生き残るってんだ。水は枯れ、食料と金になるものは村長の野郎が盗んで行きやがったんだぜ」


 村長ってみんなの食料まで持ってったのか。僕はてっきり村にある金目の物を持ってったんだと思ってた。金目のものを奪われたら他の村から水や食料を買えないからこんなことになったんだとばかり……。


 言い争っていたドワーフの言葉で静まり返る広場に、僕は飛び降りることにした。ドワーフの少女のおかげで場の空気が少し良くなったし、後押しするなら今でしょ。


「こんにちは」

「誰だお前!」


 村人たちの視線が一斉に僕に集中した。あまり多くの人に見られるのって慣れてないんだけどな。


「僕は唯斗。呼びにくかったらユートって呼んで。一応人間。あと旅人かな」

「旅人だ? だったらさっさとこの村から出てけ。ここにいても死ぬだけだぞ」

「さっきの話は聞かせてもらったよ。えっと、水と食料がないんだよね」

「そうか、なら話は分かってんだろ。この村はよそ者に水や食料を渡す余裕なんてねえんだ」

「それを僕がどうにかするよ」

「……お前が? 寝ぼけてんじゃねぇぞ」


 しまった。そうだよね。信じてはもらえないよね。さて、どうしたものやら。


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