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36話 次の目的地へ

 知り合いに挨拶を終えた僕は次の国へ向かって歩き始めていた。食料などはもう既に買い揃えてあるから出発するだけだった。

 王都を出て一時間ほど歩いたところで、ようやくリンが目を覚ました。


「おはー」

「早くはないけどおはよう」

「ここはー?」

「もう王都を出て次の国に向かってるよ」

「えっ!」


 え? 何かまずいことでもあった?


「約束のくだものはー?」

「なんだ、それのことか。ちゃんと買っておいてあるよ」

「むふー。ユートだいすき」

「はいはい。僕もだよ」


 全く、何事かと思ったよ。これで何かあったら転移で引き返さなくちゃならなかったし。

 あまり転移は使いたくない。旅っていうのは自分の足で歩いてこそだと思うからね。乗り物くらいならまだしも、転移で行ったり来たりなんてしてたら面白くない。そんなの旅じゃないよ。


「それで、どこいくの?」

「悩んだけど、ドワーフの住む国、ゴルタルに向かおうと思うんだ」

「どうして?」

「ドワーフは武器や防具、家具や料理器具といった物作りに長けているんだ。だから僕の武器を作ってもらおうと思ってね」

「ユートはずっと武器がなかったもんね」

「うん。地球では魔物なんていなかったから無くても良かったんだけど、こっちにきてから物騒だからね。護身用に武器は必要だと思うんだ」


 この世界にきてからもう既に二回も死にかけている。

 確かに地球では死にかけたことは何度もあった。でもそれは初めの数年だけだ。

 魔術や神術の使い方を覚えてからは死にかけたことはほとんどなかった。なのにどうしてこんなにもこの世界で死にかけるのか。

 それは単純に魔術という力がありふれているということもあるけど、一番大きいのは神の存在だ。


 地球では神は空想上のもので、その姿を見た者なんていないと言っても過言じゃない。でも、この世界では神自信が人々の前に姿を現わし、力を貸す。だからこれほどまでに危険な世界になっているんじゃないかな。

 あの黒い人型だってそうだ。ダンジョンコアっていうのが一体どういう物なのか知らないけど、あれは確実に神の仕業だ。なんのためかは分からない。でも、少なくともこの世界は地球よりも危険な場所だ。まだ銃を乱射されたほうがマシと言える。


 今後この世界の神がどう関わってくるのか分からないけど、地球の神のようにみんながみんな僕に友好的であるとは思わないほうがいいと思う。

 今では天照さんが僕を眷属にした理由が何となくわかるよ。天照さんはそこまで予測していたんだな。


「そうだね。ユートにはもう死にかけて欲しくない」

「ごめんね。心配かけちゃって」

「ううん、いいの。でもおねがい。ホントに危険なときはあの力を使って。そのあとは絶対にリンが守るから」

「……わかった」


 全く、リンは心配性だな。でも、リンがいないと僕が死んでしまうかもしれないのは事実だ。……あの力を使ったあとは僕は無力なんだから。


「さて、ゴルタルに向けて頑張って歩こうか。リンも運動のために飛んだら?」

「いやー。つかれるー」


 さっきの知性的なリンはどこに行ったのやら。

 仕方なく僕はリンを頭に乗せたまま歩き続けた。


「にしても木ばっかりだね。幸い、道ができているから歩きやすいし迷わないけど」

「だねー」


 王都を出る前に門の前の兵士に聞いた話では、この道に沿って行くとゴルタルに着くらしい。先先代のエルムス国国王と、ゴルタルの国王が交易のために作ったのだとか。先代のエルムス国国王がそれを全て無駄にしてしまったが。

 ウォルはまた交易を再開しようと思ってるって言ってたっけ。うまくいくといいんだけど。


 そんなことを考えていると、何かの唸り声が聞こえてきた。数は2、4、……5匹かな。


「ユートー」

「分かってる。多分獣だね。狼とかかな」


 四足っぽい足音がするし。

 注意しながら様子を見る。すると、両サイドの森の中から何かが飛び出してきた。


「おっと」


 後ろに飛んで避けると、それを待っていたかのように三つの影が飛び出してきた。

 結構頭がいいみたいだね。最初の二匹は囮か。


「でも、それじゃあまだまだかな」


 僕は飛びかかってくる三つの影に向かって蹴りを放つと、犬のようにキャインという鳴き声が聞こえてきた。やっぱり狼かな?


「うん?」


 飛び出してきたその獣をよく見て少し戸惑った。

 確かに狼だ。……顔と脚だけは。


「あれ何?」

「ぶた?」


 顔と脚は狼で、それ以外は豚みたいだった。何というか、バランスが悪い。あんな体してちゃ走りにくいと思うんだけど。


「魔物に関する本も読んだんだけど、その姿とかは書いてなかったから、分からなかったんだよね」

「それっぽいなまえは?」

「うーん。……わからん」

「じゃあ、ぶっちゃん」

「それじゃあ豚みたいじゃない?」

「なら、おぶちゃん」

「それ狼と豚の頭の文字を取っただけでしょ」


 っていうかちゃん付は決定なんだ。

 そんなバカな話をしていると、オブちゃん達が僕らを取り囲んで今にも飛びかかろうとしていた。


「無闇に殺生する気はないよ。【威圧】」


 あまりの恐怖に気絶したオブちゃん達を置いて先に進む。

 悪いけど、気絶している間に何があっても責任は取らない。だって向こうから襲ってきたんだし、それくらいは覚悟しておいて欲しいね。


 その後何事もなく進み、暗くなってきたので野営することにした。でも、それには問題が一つ。


「地球と違って、あんなのがいっぱい出るんだよね」


 確かに地球でも猛獣はいた。でも火を焚いていればほとんど寄ってこなかったし、数もそれほど多くなかった。

 けど、この世界には数もたくさんいることに加えて、火を焚いていれば安全というわけではないようだ。むしろ、火を焚いていると寄ってくる魔物もいると聞いた。


 そんなわけで、テントを張ったところで壊されるのが落ちだ。だからテント以外の方法で安全に寝なければならない。

 そこで考えたのが、地下に簡易的な空間を作る方法だ。雨の日にはできないけど、これならば魔物に襲われる心配もない。


 僕は道から少し離れた、森の中の開けた場所を探した。

 流石に道の真ん中に作るわけにはいかないからね。

 すると、運良くすぐに見つけることができた。


「うーんと、確かこうだったかな?」


 魔術と神術は単純に魔素を使うか神力を使うかなんだけど、術式に違いがある。魔術の術式で神力を使うと、途轍もない効果を発揮してしまう。

 コップ一杯ほどの水を操る術式に神力を注ぐと、プールの水全てを操るほどの差がある。だから、魔術と神術の術式は全く違う。ちなみにこれ実体験ね。魔術を神術に変えるのは随分と苦労したよ。


 ちなみに、神術と言霊の違いは術式を使っているか使っていないかの違いだ。どちらも現実に干渉するものだけど、言霊は単純なことしかできない。例えば、ここに縦、横、高さ十メートルの穴を掘ってさらにそこから真下に楕円形に穴を掘ってーー、なんて複雑なことはできないというわけだ。


 神術は一切そういう制限がない代わりに、術式を使わなくちゃならない。術式を使うとどうしても時間がかかってしまうから、単純なことには言霊を、複雑なことには神術を使うのがいいというわけだ。


 そういうわけで、今回のように地面を掘るのは神術が向いている。


「よし」


 それなりに過ごしやすそうな空間ができた。あとは入り口を塞ぐだけだ。もちろん窒息しないように空気穴は開けている。


「明日は夜明けくらいに出発しようかな」


 とっくの前に暇で寝てしまったリンを簡易布団に寝かせ、僕も横になった。


 翌朝、日の登る前に目を覚ました僕は簡易住居を埋めて出発した。

 詳しい地図は一般公開されていなかったから、ウォルに頼んで詳しい地図を見せてもらったんだけど、確かその地図によるとこの先には街があったはず。

 でも、馬車で三日くらいかかるらしいから今日中には着けないか。


 一時間もすると日が昇り始めた。十分周囲が見えるようになったところで神術で作ったライトを消す。


「ユートー」

「おはよう。もう出発してるよ」

「朝ごはんー」

「そうだね。そろそろ食べようか」


 僕はリュックの中から干し肉と昨日買った高級果物、メルムリを取り出し、メルムリは小さく切ってリンに渡した。


「わーい! ありがとー!」


 メルムリだとわかると、リンは寝ぼけていたのが嘘だったかのように食べ始めた。

 美味しそうに食べるね。まぁ、実際美味しいんだけど。甘すぎず、それでいて酸味も程よくあって本当に美味しいんだよね。地球にはここまで美味しいのはなかったかな。


 とりあえず僕は干し肉を食べてお腹を膨らませた。料理を作っても良かったんだけど、今日はできるだけ距離を稼いでおきたい。

 リンが食べ終わるのを待って出発した。干し肉は歩きながらでも食べられるしね。


 しばらく歩いていると、前方に何かが止まっているのが見えた。


「あれは、馬車かな?」


 どうやら商人の馬車のようだ。遠くからだとよく分からないけど、少し傾いていることから車輪の一つが壊れたみたいだ。

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