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35話 別れ、そして再会の約束

 数分後、仕掛けを終えてウォルを待っていると、案の定ウォルが部屋へとやってきた。

 計算外だったのはフィリアが一緒だったことかな。でも一人おどかすのも二人おどかすのも手間は同じだよね。


「フィリア、今日は書類の整理を……、あれはなんだ?」

「人形、でしょうか」


 ウォルの机の上に日本の市松人形を置いておいた。でもただ置いただけじゃサプライズにはならない。だから、こうする。


「な、なんだ!?」

「キャッ!」


 僕は人形にくくり付けた手品用の見えない糸を、天井の隅から操って動かした。この前散々怒られたお返しだ。逆恨みだと罵られようとも、この恨みは晴らしておく。


「くっ、新種の魔物か! いや、呪具の類か」

「呪具ですか?」

「ああ、人の強い恨みが物に篭り、その願いを完遂しようとするのだ。おそらく私に恨みのあった人物が持っていたものだろう。……私を殺しにきたか」

「そ、そんな!」


 うん? なんだかよくわからない方向に向かってしまったような。もしかしてホラーとかいうものはない? 日本でも海外でもホラーといえば娯楽の一つだったはずなんだけど。

 もしかして、この世界では肝試しとかも無い?


「フィリア、よく聞け。私はもうここまでだ。……後のことは頼んだぞ」

「いや、嫌です! すぐに神官をお呼びしますから!」

「ダメだ。助けを呼ぶ時間はない。あれの狙いは私だ。私が死ぬだけで済むだろう」

「そんな! 私はまだお父様から……何も」

「こういったことも想定しておかねばならなかったな。私も国王としてはまだまだだったようだ」

「お父様は立派な国王です! ですから、もっと生きてください」


 うわぁ、またやっちゃったかな。僕、結構軽い気持ちでやったんだけど、この重い空気はなんなんだろ。

 今更ドッキリでした! なんて言おうものなら一体どうなるやら。でも謝るしかないよね。僕が悪いんだし。

 そう思って降りようとした途端、突如部屋の窓ガラスが割れて何かが部屋の中に飛び込んできた。

 あれは……、人形? 西洋っぽい作りの人形だね。なんだか禍々しいオーラを放ち、手には果物ナイフが握られていた。


「コロスコロスコロスコロス!!」

「なんだ!? 次から次へと!」

「お父様! お逃げください!」


 よく分からないけど、あれがその呪具ってやつかな。人形なのに両目から真っ赤な血を流してる。日本のホラーの定番の、髪が伸びるっていうのと似たようなタイプなんだろうか。


「お父様!」


 呪いの人形はウォルの心臓めがけてナイフをつきたてようと空を飛んだ。

 人形っていつから空を飛ぶようになったんだろう。なんてことを考えながら人形と糸を強化する。そして、人形を操って呪いの人形のナイフを真剣白刃取りのようにして受け止めた。


「どういうことだ?」

「守ってくれた、のでしょうか」


 心なしか呪いの人形が驚愕しているようにも見える。対する僕の市松人形はどこか誇らしげだ。


「コロス! コロス! コロス! コロス!」


 勢いの増した呪い人形だけど、市松人形は微動だにしない。むしろ押し返し始めた。僕は糸を操り、ナイフを白刃どりしたまま呪いの人形を吹き飛ばす。


「コロスー! コロスー!」


 壁にぶつかって半壊しているのにも関わらず、呪いの人形はまだウォルを殺そうと動きを止めなかった。なんて諦めの悪い。よっぽど持ち主に恨まれてたんだろうね、ウォルは。

 まったく、どうせ逆恨みだろうに。醜いもんだ。

 でも、もうこれで終わりだよ。

 僕は市松人形を操って人形の胸にナイフを突き刺す。


「コ、ロス、コ、ロ……」


 呪いの人形は動きを止めた。まったく、僕の計画したサプライズからなんでこんなことになったのか。


「終わった、のか?」

「おそらく。あの人形が守ってくださったのです」

「あの人形は一体……」

「そんなのどうでもいいではありませんか。あの子が私たちを守ってくれたことに変わりはありません」

「そう、だな」


 その時だった。呪いの人形が再び動き出したのは。

 呪いの人形はどこから取り出したのか二本目のナイフを取り出し、ウォルの心臓へとそれを突き立てる瞬間だった。

 ダメだ! 間に合わない!!


「コロス!!」

「お父様!!」


 僕の油断が招いた出来事だった。最初から僕が出ていればきっとこんなことには……。


「っ!」


 だけど、ウォルの胸にナイフが刺さることはなかった。市松人形がそれを防いだんだ。


「コロ……」


 そして呪いの人形は今度こそ完全に動かなくなった。

 僕は最後の一瞬、何もできなかった。でも、市松人形は自ら動きウォルを守った。それは間違いない。


「最後まで守られてしまったな」

「……はい」

「これも神の導きか。まだ私は死ぬなということなのだろう」

「そうかもしれませんね」


 ウォルが死ななくてよかった。あの市松人形には感謝しないとね。

 とりあえず僕は二人に怒られに行こうかな。結果的にはよかったものの、僕が二人にとんでもない勘違いをさせたのは間違いないし。

 やれやれ、気が重いよ。






 やっぱり怒られた。

 でも、結果的にはよかったからそれほど怒っている様子ではなかった。むしろ、市松人形のことに関して根掘り葉掘り聞かれたんだけど、残念ながら僕に答えられることはほとんどない。

 あれは僕がなんとなく買ったものだし、ずっとリュックの中に入れていて今日久しぶりに取り出したばかりだった。っていうかずっと忘れてた。だからなんで動いたのかは僕にも分からない。


 その後、二人が市松人形を買い取りたいと言ってきたので、タダで譲ってあげた。さっきまでずっと忘れていたものだし、何となく二人が持っていた方がいい気がしたから。

 僕が持っていたら売り払うくらいしか思いつかない。別に人形遊びもしないし。


「それで、お主はどうしてここに?」

「ああ、そうだった。今日この国を離れようと思ってね」


 そう言うと、フィリアが市松人形の髪を梳く手を止めた。そして明らかに作り笑いだとわかる笑みを浮かべる。


「そう、ですか。もう行ってしまわれるのですね」

「図書館に付き添ってくれてありがとうね。色々と助かったよ」

「いえ、私も楽しかったですから」


 気まずい。とてつもなく気まずい。

 明らかにフィリアは無理してる。今にも泣きそうだ。


「ユート、気をつけてな」

「あ、うん。って、ウォルはどこに行くのさ」

「私は仕事に戻る。……後は二人で話すがいい」


 くそっ、こんな時に気を使って。余計気まずくなっちゃったよ。

 ウォルが部屋から出て行くと、音がなくなり静まり返った。

 まったく、何を話せばいいのやら。

 一体どれだけ時間がたったのか。もういっそ、いい天気だね、とでも言おうかと思っていたところで、フィリアから声がかかった。


「ユート様」

「なに」

「もっと、話したいことはたくさんあるんです。ずっと話していたいんです。でも、ユート様がこの国を離れると聞いて、何を話せばいいのか分からなくなってしまいました」

「……うん」

「私はユート様のことをほとんど知りません。でも、もうお聞きする時間はありませんよね」

「そうだね。二人に挨拶をしたらもう出発しようと思っているから」

「だったら! ……今度お会いした時に聞いてもよろしいですか」


 今度会った時。

 いつ会うかも分からない曖昧な約束。でも、いつか会えると信じてフィリアはその言葉を言ったんだと思う。

 そして、フィリアは以前にも言った。この国で僕を待つと。

 なら僕はそれに答えなきゃいけない。いや、違う。答えたいんだ。


「わかった。また会った時に話そう」

「……はい!」

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