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34話 シスコン

 翌朝、僕はレンの家にいた。

 突然お邪魔したにもかかわらず、リーシェちゃんは笑顔で出迎えてくれた。

 対するレンはどこか不満そうに机を指で叩いている。ぶすぅっとした顔で。

 もしかしてこの前のことまだ気にしてるのかな。


「で、何の用だ?」

「なんでそんなに僕を睨むのさ」

「別に」

「そんなにリーシェちゃんの言ったことを気にしてるの?」

「そんなことはない。断じて」

「嘘だね。そんなにショックだったの?」

「……俺がリーシェの兄だ」

「わかってるよ。だからいい加減機嫌直したら?」

「ふん。リーシェに少し好かれたくらいでいい気に乗りやがって。地獄に落ちろ」


 うわぁ、コイツめんどくさい。


「兄さん、何か言った?」

「い、いや。何も」


 早速怒られてるし。やっていることといい、年下はいったいどっちなのか。

 リーシェちゃんの方がよっぽどしっかりしてるよ。


「お前にリーシェはやらんからな」

「リーシェちゃんは物じゃないでしょうが。あと、リーシェちゃんもきっと将来は誰かのお嫁さんになると思うけど」

「……俺じゃダメだろうか」


 何真剣に言ってんの? コイツ、本当に大丈夫だろうか。友達として心配になってきたよ。


「そんなこと言ってたら余計嫌われるよ?」

「いや、俺の愛がきっと伝わるはずだ」

「伝わらなかったら?」

「……旅に、出ようか」


 むしろその方がいいかもね。リーシェちゃんならしっかりしているから一人でも生きていけそうだし。


「おっと、レンとこんなくだらない話をしにきたんじゃないんだった」

「くだらないとはなんだ。俺とリーシェの将来がかかっているんだぞ」

「あー、めんどくさい。……リーシェちゃん、キミの兄さんがキミと結婚したいんだって。どうする?」

「ば、バカ!」


 そんなこと言って滅茶苦茶気にしてるじゃない。あと、その頬を赤らめながらリーシェちゃんをチラチラ見るのはやめてほしい。正直言って気持ち悪い。


「嫌」

「ハハッ、……俺は天の世界に旅立ちそうだ」

「キミは天国じゃなくて地獄に行きそうだけどね」

「……ユート。死ね」

「友達に向かってそれはないでしょ。このシスコン」

「シスコンだが、何か?」

「開き直らないでよ」


 そのドヤ顔は殴りたくなるから今すぐにやめて。


「ユートさん、朝ごはんができたけど食べる?」

「いいの? 確かにまだ食べてないけど」

「うん。多く作ったから食べて行ってほしいな」

「そう、なら遠慮なくいただこうか」


 そして間も無くリーシェちゃんがご飯を持ってきてくれたんだけど、これは……。


「リーシェ、俺のご飯だけ全体的に少ないんだが」

「え、そんなことないよ」

「いや、どう見ても」

「え、そんなことないよ」

「だ、だが明らかにーー」

「え、そんなことないよ」

「……ああ、そんなことないな」


 RPGで永遠と同じ話を繰り返す人みたいだった。表情が全く同じ笑顔で余計恐怖をそそる。

 そして、レン。キミはそれでいいのか。育ち盛りでしょ。リーシェちゃんのご飯の量が多いから余計レンのご飯が少なく見える。


「二人とも、食べよう?」

「あ、ああ。いただきます」

「う、うん、いただきます」


 リーシェちゃんの料理は美味しい。美味しいんだけど、それだけにレンが可哀想に思える。


「ねぇ、リーシェちゃん。流石にレンのご飯少なすぎるんじゃない? レンも働かなきゃいけないんだし、もう少しくらいあっても」

「兄さん、少ない?」

「え、いや、まあ」

「大丈夫だって!」


 馬鹿レン。せっかく助け舟を出してやったというのに乗り損ねて。


「リーシェちゃん、もう少しレンに慈悲を」

「うーん。……はい!」


 リーシェちゃんは自分の皿の肉を一枚レンの皿に移した。いや、犬じゃないんだからもう少しーー


「グゥ……、リーシェが、リーシェが俺に肉をくれた。……しかも間接キスだな」


 泣くほど嬉しかったの!? しかも最後の一言は完全に変態だ。なんだか、初めてあったときのレンのイメージと違うんだけど。

 あのときのレンは兄らしかったというのにどうして今はこんなことになってしまったのか。


「それで、ユートさんはどうして家に?」

「あ、うん。今日この街を出ようと思ってね」

「「「えっ!」」


 そんなに二人して驚かなくても。

 レン、貴重な肉を口から出さない。ただでさえ少ないんだから。


「もしかして兄さんのせい? ご、ごめんなさい! すぐに土下座させるから!」

「なんで俺が!?」

「早く、兄さん! ユートさんに謝って!」


 リーシェちゃんが過激すぎる! どうしてそうなるの?

 慌てて僕は実の兄に土下座させようと頭を押さえつけるリーシェちゃんを止めにかかった。


「待った、待った! 別にレンのせいってわけじゃないから!」

「えっ、それじゃ、私のせい?」

「ユート、リーシェを泣かせたな?」


 何なのこの兄妹。人の話を全然聞かないんだけど。


「落ち着いて! ただ僕は別の国を見に行くからもうこの国を出るって言ってるの」

「ほんとに? 私のせいじゃない?」

「違うよ。本当に嫌いならこうして一緒にご飯なんて食べてないよ」

「……よかった」

「……命拾いしたな、ユート」


 ……はぁ、疲れる。昨日も散々だったんだから今日くらいゆっくりさせてよ。


「で、いつ出発するんだ?」

「そうだね、あとはウォルに挨拶したら行こうかな。ロンドさんのところにも行ったんだけど、どこかに出かけたみたいでいなかったんだ。部下の人に聞いてみたらしばらく帰ってこないって」

「ロンドさんは今朝早くに街を出たらしいぞ。理由まではわからんが」

「そうなの? まぁ、またどこかで会うでしょ」

「それよりもウォルって誰だ? 友達か?」

「うん。この国の国王」

「は? いや、……理解した。そういえば国王様の略称がウォルだったな」

「そんなことまで知ってるんだ」

「ああ、他にもお前が黒の英雄って呼ばれてるのも知ってるぞ」

「……いったいどこからそれを?」

「ちょっとした知り合いから」


 まさかあの子が? 噂が好きそうな子だったからなー。特に口封じもしてないし、もしかして言いふらしてる?

 でもそれにしては街中では話しかけられないし、言いふらしているっていう感じではないか。

 まぁ、この国を出たら関係ないよね。


「ユートさん、行っちゃうの?」

「ごめんね、もう決めたことだから」

「……わかった。でも、リンちゃんにも挨拶したいな」


 一応リンが寝ているときは起こさないようにしてるんだけど、この場合仕方ないか。


「リン、起きて」

「むいぃー」

「リン」

「……なーにー」

「リーシェちゃんが話したいんだって」

「むー」


 とりあえず半分以上寝ぼけているリンをフードの中から引っ張り出して、リーシェちゃんの手のひらにおいてあげる。


「ごめんね、リンちゃん。起こしちゃって」

「……いーよー。なーにー?」

「リンちゃんがこの街から離れるって聞いたから」

「むー。リーシェー。またねー」

「うん! また会おうね!」


 リーシェちゃんはそれはもう嬉しそうに笑った。

 それを見つめるレンの顔は立派な兄の顔だったように思う。普段からそうならいいんだけどね。


 その後、三人で食事を楽しんだあと僕は王城へと向かった。

 いつものように気配を絶って王城へと侵入し、こっそりとウォルの執務室に入る。


「あれ、いつもならここにいるんだけどな」


 でもそこにはウォルの姿はなく、あるのは山積みにされた書類だけだった。


「まさかウォルが書類に?」


 なんて馬鹿なことを言ってみたものの、誰からのツッコミもなく時間だけが過ぎていった。


「多分トイレかな?」


 書類も出しっぱなしだしすぐに帰ってくると思い、気配を消して部屋の天井の一角に張り付いた。

 ただ会うだけじゃ面白くないじゃない? だからサプライズがいると思うんだよね。

 でもただ驚かせるだけじゃ面白くないか。

 何かないか……。


「ん? そういえばカバンの中に……」


 うん、あれは使えるかもしれない。

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