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30話 ニーナの一日

「リュー、まだ?」

「悪い! もう少し!」


 いつもいつもリューってば起きるのが遅いんだから。

 そのせいで私まで遅刻しそうなの分かってるのかしら。


「待たせたな」

「待たせたと思うのならもう少し早く起きなさい」

「悪い悪い」

「悪い悪い、じゃない! ほら行くよ!」


 私たちはここ、エルムス国の王都に存在する学園に通っている。

 この学園では、魔術や武術、歴史なんかも学ぶことができる。

 通い始めてまだ間もないけれど、色々と学べて私は満足しているわ。


「おはよー、エミリー」

「おはよー、ニーナ。今日はいつもより早いね」


 教室の前でリューと別れて、隣の席のエミリーに朝の挨拶をする。

 リューとは教室が違うのは、私が魔術科の生徒だから。

 リューは武術科で、その名の通り武術に関することが主に学べるから武術科。

 逆に、魔術に関して重点的に学べるのが魔術科ね。


 別に魔術科だから武術に関して学べないわけではない。

 多少は学ぶけれど、心得程度ってわけ。


「ねーねー、知ってる? 豊穣祭の時に現れたあの化け物。あれを倒したのって、私たちくらいの子供だったみたいだよ」

「何よ、それ。そんなのあり得る筈ないでしょ」

「それがね、本当らしいの。この学園の先輩がね、あの時避難できずにその場に残って物陰に隠れてたんだって。そしたら、小さくなった黒い化け物が兵士たちを吹き飛ばして、国王様と姫さまが襲われて、それを助けたのがその子供らしいよ」

「それ本当?」

「本当だよ」


 信じられない。

 あの大きな黒い化け物を見ただけで足がすくんだというのに。


「でも、小さくなったんだったら怖くないかもね」

「いや、それが、その先輩によると小さくなった黒い化け物の方が何倍も怖かったんだって。さっきも言ったでしょ? この国の兵士たちが手も足も出なかったらしいよ」

「それこそ信じらんないわ。この国の兵士はより優れたものしかなれないのよ」

「知ってるよ。でも、そんな人達でさえ敵わなかった相手にその子は勝ったんだよ。……ねぇ、興味あるよね?」

「ないことはないけど……、一体何をするのよ」

「そりゃ、もちろん聞き込みだよ!」

「私そんなことするくらいなら魔術の勉強したいんだけど」

「いいじゃない、ちょっとくらい。放課後は暇?」

「だから、勉強にーー」

「じゃあ、決まりね! 放課後に聞き込みしよ!」


 貴重な放課後の時間が……。

 何か断る方法はないかしら。

 私はその正体不明の少年よりも、教科書の次が気になるのよ。


「私は用事があるから」

「用事って?」

「ほら、あれよ、あれ」

「どれよ、どれ?」

「あー! もういいじゃない。私はその少年には興味がないから行きたくないのよ」

「そんなこと言って。先輩によると、その子、転移が使えたらしいよ」

「転移?」


 どこかの黒ずくめの少年が私の頭によぎる。

 って、まさかね。

 確かにあの人は転移が使えたけど、そんな偶然あるはずないわよね。


「それに精霊様を連れてたんだって。興味出てきた?」


 なら違うわね。私たちの知ってるあの人は精霊様なんて連れていなかったもの。


「無いわ」

「そんなにきっぱりと断らないでよー」

「……正直人探しはもうこりごりなのよ」

「何かあったの?」

「ギルドの依頼で、精霊様を連れた少年を探すのがあったでしょう?」

「ああ、あれね。結構な額の報奨金が出てたね」

「私とリューで探し回ったんだけど見つからなくってね。結局無駄な時間を過ごしたわ」

「そうなの? 結構な人がその人に挑んだんだけど、勝てなかったって聞いたけど」

「……私たちは見つけることすらできなかったのよ

「ああ、それはお疲れ様」


 全くよ。

 運が悪いってもんじゃ無いわ。


「そういえば、リュー君とはどうなったの?」

「どうなったってどういう意味よ」

「またまたー、照れちゃって。幼馴染なんでしょ? まだ付き合わないの?」

「そんなわけないでしょう。あれは不出来な弟みたいなもんよ」

「そんなこと言って、本当は好きなんでしょ?」

「違うってば。そういうエミリーはどうなのよ」

「私? 私はいないよ。でも、多分お父さんが勝手に決めちゃうんじゃないかな」

「エミリーはそれでいいの?」

「仕方ないよ。でも、できればかっこいい人と結婚したいなー」

「男は顔より性格よ?」

「なら私はかっこよくて性格がいい人がいいな」

「それは求めすぎね」

「ふふっ。分かってるよー」


 そんな男を求めてたら行き遅れてしまうわ。

 それを考えたら、リューでも……。まぁ、性格は悪くはないし。

 子供っぽいけど。


「あんまりいい男を求めてたら、先生みたいになっちゃうもんね」


 あっ、馬鹿!!


「ほぅ、それは私のことか?」

「せ、先生?」

「エミリー、私はお前への愛が溢れて仕方ない。だから、他の人よりも五倍宿題を出してやろう」

「か、勘弁してよー」

「問答無用だ」


 エミリーが救いを求める目を向けてくるけど、私は無視した。

 だって、とばっちりは受けたくないもの。


「ニーナー!」






「ニーナ! 冒険者ギルドに行こうぜ!」


 放課後、授業が終わるとリューがそう言いながら教室に飛び込んできた。


「あー、そうだったわね。今日は冒険者ギルドで稼がないと。悪いわね、エミリー。そういうわけだから一人で行ってくれる?」

「えー! そんなー!」

「私たちは学費を稼がないといけないの。ごめんね」

「……まぁ、しかたないか。こっちの方こそごめんね」

「いいのよ。リュー、行きましょう」

「いいのか?」

「いいの」


 仕方ないわ。

 私たちは農民出身でエミリーは大商人の娘。

 だからといってエミリーへの態度は変えるのは違うと思う。

 だって友達だし。

 でもちょっと羨ましいと思ってしまう自分が嫌いよ。


 私たちはギルドに向かう。

 途中で買い食いをするのは、仕方ないわよね。

 だってお腹が空いてたら働けないもの。


 何度目かになるギルドの扉を開ける。

 初めはギルドの扉に突き刺さっていた斧に驚いたりもしていたけど、今ではそうでもない。

 中に入って、依頼書を確認する。

 そして、自分たちに見合った難易度の依頼を受けるの。


「なぁ、これなんてどうだ?」

「えっと、『ダンジョンに出たオーガを倒してほしい』って、ダンジョンまで歩いて行ったら時間かかるでしょ。それに私達にオーガはまだ早いわ」

「ならこれは?」

「『息子の剣術指導をしてほしい』って、あなたも私も教えられるほど上手くないじゃない。ちゃんと考えてから選びなさい」

「悪い悪い」


 全く、ちゃんとして欲しいものね。

 時折リューが馬鹿なんじゃないかと思う時があったけれど、本当に馬鹿なのかもしれないわ。


「なー、もっと楽に稼げないのか?」

「そんなものがあったらみんなしているわ」

「この前の精霊を連れた少年ってやつが見つかってたらな〜」


 ……あの依頼を逃したのは本当に大きかったわ。

 あの報酬が手に入れば学費の半分は払えた。

 しかも国王様の依頼だったから依頼の裏を考える必要もない。最高の依頼だったのに、結局見つけられなかったのよね。

 運がなかったわ。


「そんなことを言っていても仕方ないでしょう。もうその依頼は無くなっちゃったんだから」

「だよなー」


 はぁ、本当に惜しいことをしたわ。


「おっ、これなんてどうだ?」

「『庭の草抜き』ね。まぁいいんじゃないかしら。明日も学園があるのだし、これくらい簡単じゃないとね」

「おう」


 リューとは依頼を剥がして、受付へと提出しに行った。

 正直食べていくことで精一杯でちょっとしかお金に余裕がない。

 他に何かいい仕事があればいいのだけれど……。


「ニーナ、受注終わったぞ」

「……っと、ごめんなさい。行こうかしら」

「どうした?」

「なんでもないわ。ちょっと考えていただけ」


 たまにリューが羨ましくなるわ。

 私も考えるのをやめたらもう少し楽に生きられるのかしら。






「お疲れ様、よかったらこれ食べていってね〜」

「……いいんですか?」

「いいのよ。あなたたち学生でしょう? 毎日大変だろうけど、頑張るのよ」


 蒸かし芋を頂いてしまった。しかも六つも。

 晩御飯代が浮いたと思うとかなり大きい。


「ありがとうございます」

「ありがとう、おばちゃん!」

「またお願いね〜」


 日が落ちるにはまだ時間がある、か。


「どうする? リュー」

「ほーふるほは?」

「……食べるか喋るかにしなさい。むしろ喋りなさい」

「んくっ。どうするとは?」

「まだ門限までは時間があるからどうするかっていう意味よ」

「そうだな……、なら俺は訓練がしたい!」

「そうね、私もよ。リューはいつもの?」

「おう! 学園の訓練所は広いからな。剣も貸し出ししてるし」

「分かったわ。何かあったら図書館へ来て。私はそこで魔術を勉強してるから」

「了解!」


 リューはそう言うと、残りの蒸かし芋をカバンにしまってさっさと走って行ってしまった。

 随分と足が速くなったみたいね。

 体力もついてきているんでしょう。私も負けてはいられないわ。


「っよし!」


 私は自分の頬を両手で叩いて気合いを入れ、学園の図書館へ走って向かった。


 学園の図書館に入ると、廊下の騒がしさが嘘のように静かになった。確か、部屋自体に防音の魔術をかけているから、外の騒がしさが一切遮断されるのだとか。


「あれ? 確かキミはニーナだったよね」


 さあ教科書を読もう、とした時だった。

 後ろから何やら聞き覚えのあるような声が聞こえたきた。

 クラスメイトだったっけ? それともどこか街中で声をかけられたことがあったとか?

 思い出せないけど、とりあえずその人の顔を確認しようとして、驚きに目を見開いた。


「やぁ、久しぶり」


 あんたじゃない!

 そ、その後ろにいるのは……。


「誰ですか? ユート様」

「この街に来るとき案内してもらったんだよ」


 ひ、ひ、姫しゃま!?

 ま、間違えた。どうしてこんなところに姫様が!?


「し、失礼しました!」


 私はすぐさま地面に片膝をつける。

 この国では、貴族や王族に対しては片膝をつけることが礼儀だから。


「別に構いません。正式な場では無いのですから。私としても、こう何度も何度も跪かれると申し訳ない気持ちでいっぱいになるのですよ」


 もうすでに他の生徒たちがやっていたようね。

 私は姫様の顔を伺いながらゆっくりと立った。


「姫様はどうしてこのような場所にいらっしゃるのですか?」

「私はユート様をご案内していただけです。ユート様が図書館で本を見たいとおっしゃったので」


 ユート、様? 誰それ。

 っていうか姫様の隣にいるのってユートじゃないの?

 なに平然としてるのよ! 隣にいるのはこの国のお姫様。次期女王様よ?


「僕は一人でいいって言ったんだけど」

「まだ起きたばかりではありませんか。お身体に気をつけてください」

「心配しなくてももう大丈夫だよ」

「ダメです。万が一があったらどうするのですか」


 えっ、なにこれ。

 あのユートが? 姫様に? タメ口で?


「えっ、ユートって王族だったの?」

「なわけないじゃん。何言ってるの?」


 え、私がおかしいの?

 私はおかしくないわ。正常よ。

 正常、正常、正常、……せ、異常?


「何で姫様とユートが一緒にいるの?」

「まぁ、いろいろあってね。そういえば、ニーナは学生だったね」

「ええ、そうだけど、そんなことよりももっと聞きたいことがあるのだけど」

「でも、もう僕帰ろうと思ってたんだけど」

「リンも帰るー」

「待って、そんなに、時間、は……、はぁ!?」

「どうしたのさ。そんなに大きな声を出して。ここは図書館だよ。静かにしないと」


 私の目がついにおかしくなったのかしら。

 あいつの頭の上に、精霊様らしきお方が座っていらっしゃるのですが?


「あ、あの、もしかして精霊様?」

「そうだよー」


 は、は、はははははははは。


「どうかした? ニーナ、そんなに笑って」

「……まさかと思うけど、あんたが精霊様を連れた少年?」

「ああ、そういえばそんな依頼も出てたね」

「あの件については申し訳ございません。どうしてもユート様に会いたかったもので」

「いや、別に構わないけどーー」


 そこから先の話は私の頭には入ってなかった。

 私の脳が悲鳴を上げているわ。

 もういっぱいいっぱいよ。現状を理解できないの。


 そんな私を覚醒させたのは友人の叫び声だった。


「も、もしかして、黒の英雄様ですか!!」

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