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29話 決着

「ユート、様?」


 それは突然でした。

 ユート様の纏う雰囲気が、まるで別人のように変わったのです。

 恐る恐る私は彼の後ろ姿へと問いかけるように名前を呼びました。


「お前は、フィリアと言ったか」

「あなたは何者ですか? ユート様ではありませんね」

「そうだな。我はユートではない、が、ユートでもある」

「……どういう意味ですか?」

「その言葉通りだ。……しかし、あいつももう少し早く我を呼んでいればよかったものを」

「あなたは一体……?」

「そうだな……、一言で言うのなら、神、が一番近しいだろう」


 ユート様は以前自分のことを神ではないとおっしゃっていました。

 だと言うのに、いまは自分のことを神だと言っている。

 私にはユート様が嘘をつくようには見えません。

 だとしたら、これは一体どういうことなのでしょうか。


 隣でお父様が息を飲むのがわかりました。

 私はお父様にユート様が神力を持っていることを伝えていません。

 もし全てを話してしまってユート様に嫌われたらと思うと、話すことはできませんでした。


「にしてもここ最近で二度も死にかけるとは……。天照の力もあるのだからどうにでもなるだろうに」

「えっ、と」

「それだけではない。なんだ? あの戦い方は。舐めているのか? あいつは地球で何も学ばなかったのか」

「あ、あの」

「なんだ?」

「い、いえ。なんでもないです」


 怖い。

 私はユート様? に睨みつけられて思わず涙が滲んだ。

 ユート様のあの優しげな表情は一切なくなってしまった。

 今すぐにでも元のユート様に戻って欲しい。


「……悪いな。我はあいつのようには笑えんのだ」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません」


 ……ちょっとは怖くなくなったかも。


「ーー」

「鬱陶しいぞ」


 私には一体何が起きたのか全く理解できませんでした。

 おそらくお父様も困惑していることでしょう。


 ですが、ユート様? があの黒い人型の化け物の拳を握りしめているところを見るに、おそらくあの黒い人型の化け物の攻撃を、ユート様? が防いだのでしょう。


 私にはいつあの化け物がユート様の前に移動したのかすら分かりませんでした。


「ーー」


 心なしか化け物が驚いているように見えます。

 化け物は今もユート様? に攻撃をしているようで手足がブレて見えるのですが、ユート様? もそれを防いでいるのでしょう。ユート様の手足もブレて見えます。


「ーー」

「ほう、多少はやるようだな。下級神程度といったところか」

「ーー」

「だがな、動きが単調すぎる。思考がまともに働いていないからだろう。お前はその程度が限界だ。知性をなくした獣ほど狩りやすいものはない」


 すごい、のだと思います。

 ですがあまりにも凄すぎて、何が起こっているのかさっぱりわかりません。

 正直私の頭の中は疑問だらけで現実を受け止めきれていません。

 もう思考が停止しかけています。


「フィリア、あれはユートなのか?」

「知りません、分かりません、私に聞かないでください」

「……すまん」

「あぅ、……ごめんなさい。私にもさっぱりわからなくて」

「いや、いいんだ。私も今の光景を見ていると現実か夢か分からなくなる」


 先程から幾度となく打撃音が鳴り響いています。

 それだけあの化け物が攻撃してきていると言うことでもあり、ユート様? が攻撃を防いでいるということでもあります。


 もう何分が経ったでしょうか。

 もしかするとまだそれほど経っていないのかもしれませんし、それ以上の時間が経過しているのかもしれません。

 それを知るすべは私にはありませんでした。


 ただ一つわかることがあります。

 今、ユート様? は私たちを守ってくれていて、あの人型の攻撃を防いてもらわなければ私たちは死んでいるということです。

 私たちの生死はユート様? にかかっているのです。


「ーー」

「速度が落ちてきているぞ? もう限界か? ……なら終わりにしようか」


 っ! なんですか、この神力の量は!!

 ユート様が終わりを宣言すると同時に、ユート様の纏う神力が桁違いに増えました。

 先程までは薄っすらとしか纏っていなかったのに、今では肌で感じるほどです。

 お父様もそれを感じてか、顔をしかめていました。

 この国の守り神であるアルミルス様と同等、いえ、それ以上かもしれません。

 それほどまでの神力を隠していたと言うのでしょうか!


「一度眠れ」


 私には全く何も見えませんでしたが、ユート様? が拳を振り抜いた状態で立っており、はるか先まで地面がえぐれているということは、ユート様? があの化け物を殴って吹き飛ばしたのでしょう。

 崩れた家々や壊れた道を見ていると、これが現実なのか分からなくなってきます。


「フィリア、と言ったな」

「……は、はい!」


 突然声をかけられたので返事が遅れてしまいました。

 ですが、ユート様? は気にすることもなく私に手を差し伸べながら言いました。


「最後の仕事だ。お前も付いて来い」

「……はい」


 最後の仕事?

 一体何のことでしょう。


 私はユート様? に付いていきます。

 後ろからはお父様が付いてきてくれました。


 しばらく歩くと、そこには先ほどの化け物が倒れていました。


「こいつをどうするのか、それを決めるのはお前だ」

「私、ですか?」

「そうだ。女王になると決めたのだろう? ならお前が判断しろ」


 突然そんなことを言われても私にはどうしていいのか分かりませんでした。

 後ろにいるお父様に視線を向けますが、首を横に振られました。おそらく、私が決めろということなのでしょう。


「で、ですが、わたしにはどうしたらいいのか……」

「……お前には三つの選択肢がある。一つはこいつを殺すこと。二つ目はこいつを元の姿に戻して罰を受けさせること。三つ目は……それ以外だ」

「元に、戻せるのですか?」

「ああ、我ならばな」


 私はどうするべきなのでしょうか。

 今回の騒動で亡くなった人はおそらくいません。ユート様が迅速に対応してくださったおかげです。

 ですがガトナー伯爵が民に行なった仕打ちを考えると、このまま死なせてしまっては悔恨が残るでしょう。

 となると、私にできる最善の選択肢は一つになります。

 それ以外の方法は、今の私では思いつきませんでした。


「分かりました。私はーー」






 僕が目を覚ましたときに見たのは真っ白な天井だった。


「ユートー、だいじょーぶ?」


 枕元にはリンが座り、リンゴを丸ごとかじっていた。

 かなり広い部屋だ。それにベットもかなり大きい。


「ここは?」

「おしろのなかー。ユートってば、三日もねむってたんだよ?」


 三日か。

 あいつを呼び出したんだから、それぐらいなら妥当なものだね。


「結局どうなったの?」

「えっとねー、あのくさいのがしょけいされるんだって」


 いや、臭いのって誰よ。

 もしかしてガトナー伯爵のことかな。

 多分、元の姿に戻したんだろうね。フィリアならそうしそうだ。


「リン、三日間ありがと」

「べつにいいよー」


 僕が寝ている間、ずっと守ってくれていたんだろう。一日のほとんどを寝るリンにとっては大変だっただろうからね。

 流石に三日の間寝てないってことはないと思うけど、気を張っていたことには間違いないから。


「それで、死者は出ちゃったのかな」

「ううん、いないって。フィリアがかんしゃしてたよ」

「そっか」


 それは良かった。僕の油断で死者が出たんじゃ、精神的に辛いものがあるからね。


 今回の件でちょっと痛感した。

 僕自身はこの世界で戦っていけるほど強くない。

 あいつに変われば何とかなるかもしれないけど、そう何度も変わるわけにもいかない。こうして寝込んでいるわけだしね。

 もう少し強くなっておかないと、地球と違ってこの世界は危険なんだと僕は思う。今更だけどね。


 にしてもあの人型は何だったんだろう。

 ダンジョンコアっていうのを飲み込んだらああなったみたいだけど、今まではどう対処したんだろう。

 あれは人間に勝てるものではない。

 それこそ、ミルみたいな神じゃないとあれには勝てないと思う。


 そんなことを考えていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。


「どうぞ」

「っ! ユート様、目を覚まされたのですね!」


 部屋へと入ってきたのはフィリアだった。

 フィリアは僕の寝ている別途の横に置いてあった椅子に座ると、僕の手を握った。


「……ユート様、ですよね」


 フィリアは心配そうな顔をする。

 ああ、そういうことか。


「そうだよ。僕は僕だよ」

「……良かった。あれは一体誰なのですか?」

「ごめんね、それには答えられない。あの日見たことは忘れるんだ」

「ですが」

「忘れて欲しいんだ」

「……わかりました」


 ちょっとずるいけど、こういう言い方をさせてもらおう。

 そうでないと根掘り葉掘り聞かれそうだからね。


「お体の方はもうよろしいのですか?」

「いや、もうちょっと動きそうにない。もうちょっとだけここで休ませてもらってもいい?」

「もちろんです! ユート様はこの国を救ってくださった英雄ですから!!」


 英雄って、僕はそんな柄じゃないよ。


「今起きられたのですよね。でしたら果物でも、……あれ?」

「どうしたの?」

「今朝、ここにリンゴを置いておいたのです。ユート様がお目覚めになったらすぐに食べてもらおうと思って」


 へー、リンゴをね。

 それって、まさか。


「リン?」

「……リンしらない」

「さっき丸ごと食べてたよね」

「あれはリンの」

「えっと、今朝たくさん食べていたと思うのですが……」


 リン、ギルティ。


「リン?」

「……ごめんなさい」

「よろしい」


 まぁ、リンゴ一つくらいで怒ったりはしないよ。

 でもね、黙って食べるのはダメだよ。

 昔、僕が初めてもらったお小遣いで買ったお菓子を姉さんに食べられたことを思い出した。

 あれは本当に怒ったよ。


「ごめんね、フィリア。悪いけど、何か胃の中に入れたいから作ってきてもらえる?」

「ふふっ。わかりました」


 僕たちを見て笑っていたフィリアは部屋を出るまで笑みを浮かべていた。



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