表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/161

31話 黒の英雄

「も、もしかして、黒の英雄様ですか!!」


 ……えっ、誰それ?


 僕がこの世界に来て初めて会った、ニーナっていう子が図書館にいたから声をかけたんだけど、完全に無視された。

 それなりにショックだったよ。

 そしてニーナが急に固まったと思ったら、今度は金髪の短い髪の少女が僕を見て叫び声をあげて訳のわからないことを言い始めた。


「えっと、キミは?」

「た、大変失礼しました! 私、エミリーって言います」

「初めまして。僕は唯斗。言いにくかったらユートでいいから」

「はい! 黒の英雄様!」


 うん、何も話を聞いてないね。

 ちゃんと名乗ったはずなのに、どうしてそんな厨二っぽい名前で呼ばれるのかな。


「その黒の英雄っていうのは?」

「えっとですね、それはーー」

「ちょっと、エミリー! となり見てとなり!」

「なに、ニーナ。今私は忙しいの」

「バカ! 気づきなさい!」

「となりがどうし、た、って……」


 ようやくフィリアに気がついたみたい。

 金魚みたいに口をパクパクしながら、エミリーの顔が顔が青ざめていった。

 フィリアは変わらずニコニコと笑みを浮かべているんだけど、エミリーにとってはそれが恐ろしく見えているのかもしれないね。


「ひ、姫様! 大変申し訳ございません!!」

「いいのですよ。立ってください。私としてもあなたのお話が聞きたいですから」


 エミリーはニーナと同じようにフィリアの顔を伺いながら恐る恐る立ち上がった。


「それで、先ほどの黒の英雄というのはなんなのですか?」

「は、はい! あの化け物からこの国を救ってくださったので、黒の英雄様と」

「……あの場には兵士とウォルとフィリアしかいなかったはずだけど。それに兵士は全員気絶していたはずだし」

「えっと、私の先輩がその場で隠れていたそうです。怖くて動けなかったって」


 隠れてる人がいたのか。

 全然気づかなかったや。あの時は人型に集中してたから。

 あいつなら気がついてたんだろうけど。


「その黒の英雄って名付けたのは誰なの?」

「私です!」


 そんなドヤ顔で言われても。

 どうせ僕の格好が黒いから黒の英雄なんでしょ。単純すぎる。


「とりあえず、その黒の英雄っていうのはやめてくれる? 恥ずかしいから」

「ということはあなたがあの化け物を倒したと認めるですね」

「あー、うんまあそうだとも言えるし、そうじゃないとも言える」

「……どっちなんですか?」

「まぁ、()()()ではあるかもね」


 あいつも一応ユートだし。ただ、()ではないね。


「よくわかりませんが、私たちを救ってくださりありがとうございます」

「……お礼は受け取っておくよ」


 あいつは喜んだりはしないだろうけど。


「ユート、そんなことよりあんたと姫様の関係ってなんなの? 随分と親しげだけど」

「あっ、それ私も気になった」


 また厄介なことを聞くね。

 正直もう退散したいんだけど。


「私がユート様に告白したのです」

「えっ、ウソ!?」

「キャー!」


 フィリア! なんてこと言うの!?

 確かにそうだけど、そんなこと言っていいものでもないでしょ!


「身分差恋愛だね! いいなぁ。それで、返事はどうだったんですか?」

「断られてしまいました」

「……ユート、あんたバカなの?」

「信じられないよ」


 そんな蔑んだような目で見ないでくれるかな。

 僕はそんな目で見られて喜ぶ人間じゃないから普通に傷つくんだけど。


「姫様よ? 逆玉よ? わかってんの?」

「僕は権力や財力に興味ないの」

「姫様こんなにお綺麗なのに。もしかして男が好きなの?」

「いや、そうじゃなくて」

「ならどうして? 姫様より綺麗な人なんてまず見つからないよ?」

「……僕にだって事情があるの」


 全く、どうして女子っていう人はこんなに恋愛に関して敏感なんだか。


「姫様、黒の英雄様のどんなところが好きなんですか? やっぱり強いところとか?」

「えっと、そんなこと申されましても」

「いいじゃないですか、吐いちゃってください」

「……えっと、お優しいところ、でしょうか」

「そうですよねー、やっぱり性格は重要ですよね。他には……」


 ……もう帰っていいかな。


「じゃあ、僕はこれでーー」

「待ちなさい、ユート。姫様を一人にするわけにはいかないでしょう」

「でももう帰りたいんだけど」

「エミリーはああやってスイッチが入ったらしばらくは止まらないわ。もうしばらく我慢することね」


 はぁ。仕方ないか。

 最初から出会った時点で負けは確定していたんだ。

 いわゆるゲームで言うところの負けイベントだね。

 逃げられないし負けは確定しているって言う理不尽なイベント。


「ニーナは何してるの?」

「ああなった以上、私が会話する隙なんてないから勉強でもするわ」

「勉強って、そういえばここは学園だったね。何を勉強しているの?」

「魔術よ。少しでも早く多くの魔術が使えるようになりたいの」


 魔術ね。この世界の魔術の基準がどう言うものなのか知らないけど、見ておいて損は無いか。


「ちょっと見せてもらってもいい?」

「いいけど、あんた、それ以上屈むと精霊様が落ちちゃうわよ」

「そんなことでおちないもん」

「本人が言うように、この程度ではリンは落ちたりしないよ」


 初めて会った頃はよく落ちてたけど、頭を振った程度じゃ微動だにしなくなったんだよね。

 リン曰く、もう暴れ馬は乗りこなした。らしい。

 僕って暴れ馬なの?


 ニーナから教科書を見せてもらう。

 内容に目を通して見て、少し落胆した。


「随分と簡単な内容だね。基礎中の基礎しか書かれてないんだけど」

「えっ? わかるの?」

「まぁ、これくらいはね。一応僕も魔術師の端くれだから」


 本当に簡単な魔術しか書かれてないし。

 僕の友達ならこれくらい寝ながらでも組める。


「……できれば教えてくれないかしら」

「別にいいけど」

「本当! ありがとう」

「でも、これをするならここではちょっと無理かな。火とかも使うし」

「なら訓練所に行きましょ。あそこなら思う存分力を使っても構わないから」


 訓練所ね。そりゃ、魔術を勉強する学園なら当然あるか。

 ニーナは子供のようにはしゃいでいる。そんなに嬉しかったのかな。


「リン、悪いけどフィリアの護衛を任せてもいい?」

「いいよー」


 リンに任せておけば安心かな。


 僕はニーナと共にその訓練所へと向かった。






「ここよ」


 ニーナについて中に入る。

 魔術の訓練所のためか、かなり広い場所だ。

 視線の先にはマトが一定間隔ごとに立てられていて、何人かの生徒がそれに狙いをつけて様々な魔術を使っていた。


 見れば、この部屋やマトには壊れないように魔術結界が張られていた。

 確かにこれならそう簡単には壊れないね。


「ここにしましょう。空いているし」

「分かった。じゃあ、とりあえず何か魔術を使ってみてくれる?」

「なんでもいいのかしら」

「別にいいよ」

「分かったわ」


 さて、まずはどの程度なのか見て見ないとね。

 ニーナはマトに向かい合って大きく深呼吸すると、空中に魔素で陣を書き始めた。


「……火球!」


 ニーナの目の前に現れたバスケットボールほどの大きさの炎の塊は、マトへと向かって勢いよく飛び出した。

 着弾すると同時にマトが燃え上がったけど、数秒で消えた。


「どう、かしら」


 少し不安げにニーナは聞いてきた。


「そうだね、実戦には少し物足りないかな。ちなみにあれならあと何発打てるの?」

「そうね、あと二十発くらいかしら」


 二十発か。

 そうだろうね。随分と魔素を無駄にしてしまってたから。

 僕は神眼で魔素がどう言う動きをするのかわかるから、どうしたら無駄をなくせるのかすぐにわかる。


「それじゃ、まず、ニーナは魔術をくみ上げる時に無駄が多すぎる。そのせいでだいぶ魔素を消費しているんだ」

「そうなの?」

「うん。例えると、大量にインクのついたペンで絵を描いているようなものかな」

「……なるほど」

「だから、もう少し魔素を減らしたほうがいい。あと、キミの陣は雑すぎる。もっと丁寧に描いたほうかいい」

「分かったわ。……って、陣が見えるの!?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてないわ! と言うことは、あなたは魔眼を持ってるのね。羨ましいわ」


 そうだよね。普通は魔眼だと思うよね。

 まぁ、本当は神眼なんだけど。


「それじゃ、もう一度やってみて」

「分かったわ」


 同じようにニーナは魔素で陣を描く。

 今度はまだマシになった。それほど雑でもない。でも時間がかかりすぎだね。


「……火球!」


 さっきと同じような火の玉がマトへと飛んで行き、さっきの倍ほどの時間燃え上がって消えた。


「すごいわ! ほとんど魔素を消費していないのにあんなに燃え上がる時間が伸びるなんて」


 長い時間燃え上がると言うことは、それだけ消火に時間がかかっているということ。

 つまり、火力が上がっているって言うわけだね。


 にしても、ちょっとしかアドバイスをしてないのにこれだけ改善するっていうのもすごいな。

 ニーナには魔術の才能があるのかも。


「いいね。その調子だよ。あとはもっと早く陣を描けるようにしないとね」

「ありがとう! ユート」

「そのあとは改良だね。こんな風に……」


 僕は一秒もかからずに似たような陣を組み上げると、僕の目の前にニーナと同じくらいの炎の玉が出来上がる。

 一つ違うところはその色だ。

 赤色ではなく青色。

 より高温の炎の塊だ。触れたら火傷程度では済まない。


 それをマトへと打ち出すと、マトは一瞬で無くなってしまった。

 あっ、まず。

 壁に当たる前に急いで火の玉を消す。


 まさかこの程度でマトが壊れるとは思わなかった。

 隣で見ていたニーナは目を見開きながら何が起きたのか理解できないようだ。

 久々の魔術で威力の調節を間違えたのかもしれない。

 僕はいつも神力による言霊で世界に干渉して魔術に似たことをするから、普段魔術は使わないんだよね。


「ま、まぁ、こんな感じかな。僕は帰るとするよ」


 ボーと立ち尽くすニーナを置いてこっそりと訓練所から抜け出した。

 だって、他の人たちからの視線が痛かったんだ。仕方ない。


2021/5/17

不快と感じる表現を削除し、変更しました。

既に読んでくださった方、不快に感じた方々に謝罪申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ