27話 愚かな者の成れの果て
多くの視線が集まる中、ウォルは僕たちの乗る馬車までやってくると、兵士たちに曲者を取り押さえて馬車から下ろすように命令した。
そして、ウォルはフィリアからマイクの機能を持つ石を受け取ると、馬車の上に立ちながら話し始めた。
「娘は無事である。皆の者、落ち着きたまえ」
国王の言葉を聞いてざわつきが収まっていく。
「さて、静かになったところで皆の者に問う。私の娘、フィリアに王を継がせたいと思っているのだが、異論はあるか?」
ここでそれを言っていいの?
反対派の連中は異論があるに決まってる。
真っ向から勝負を仕掛けるなんて……。
勝算はあるのかな。
「し、失礼ながら国王様。本当に姫に王を継がせる気なのですか」
えっと、あれは確か、ガトナー伯爵って言ってたっけ。
僕が城に潜入した時に大声で騒いでいた貴族。
「お主は反対か?」
「い、いえ! 滅相もございませぬ。ですが、先ほども自信のなさげなご様子でしたので務まるかどうか」
「フィリア自身の能力は高い。王としての器であれば私以上だろう。それに、これもある」
それを見たガトナー伯爵は忌々しそうにそれを睨みつけた。
「……豊穣の短剣」
「そうだ。これは王族の中でも女性のみにしか扱えない代物だ。ならば、私の娘は使えるだろう?」
豊穣の短剣という言葉を聞いて驚き目を見開く者が、貴族だけでなく民衆の中にも何人かいた。
そういえば、世界で五本と無い神剣の一本だとウォルがこの前言っていた。
そんなに貴重な物なら盗まれないでよと僕は思ったのだが、それはウォルも同じようで、頭の痛いことだと言っていた。
今では、盗難防止の魔術を何重にも掛け合わせているのだとか。
「……そうですね。問題ないでしょう」
「それで、だ。ガトナー伯爵。私はお主に一つ聞いておきたいことがある」
「……なんでしょう」
「どうして私の娘を二度も殺そうとしたのかを、ね」
「!」
……ウォル、いきなりぶち込むね。
確かに僕もその人が犯人だとは思うんだけど、何より証拠がない。
証拠がなければ流石の国王でも、どうしようもないんじゃないかな。
「そ、そんなこと私はしていません!」
「そうか? なら、もう一つ質問しよう。どうして、民たちが精一杯育てて収穫した作物を他国に売り渡しているのだ?」
ウォルの言葉を聞いた庶民たちが動揺を隠せず、ざわつき始めた。
「!! な、何をおっしゃっているのか私にはさっぱり」
「ガトナー伯爵だけではないぞ。モーレン伯爵、レルファ男爵、ヒューファム男爵……。ここで全ての名をあげていては時間が勿体無いからこれ以上は言わぬが、心当たりのある貴族たちよ。もう一度問うぞ。何故にそのようなことをするのか、と」
僕もなんだか緊張してきちゃったよ。
教室内で、悪いことをした生徒が先生に怒られているのを側から見る生徒の気分だよ。
やってる内容や規模は全然違うけどね。
正直あの怒られているときの静寂って僕苦手なんだよね。
「国王様! 何かの勘違いでございます! 私共はそのようなことーー」
「モーレン伯爵。私は全て知っているのだ」
「ですがそのような事実はありません!」
「なんども言わせるな。全て知っていると言っているのだ」
「っ!」
モーレン伯爵はウォルに睨みつけられて数歩下がった。
いや、下がらざるを得なかったのかな。
ウォルの国王としての覇気がとてつもない。
僕だって思わず後ずさってしまいそうだ。
「私はな、十年も前からお主たちのような人間を排除する方法を考え続けていたのだ。そのために初めにしたことが何かわかるか? ……間者を送り込むことだ」
「「「なっ!?」」」
「私は全ての貴族に対して間者を送り込み、その様子を報告させた。本当にお主たちは愚かだ。優秀だから、使えるからと、重要な役職につけるものだから、どんなことをしているのか探りやすかった。……なぁ、ウィルソン」
「はっ」
……してやられた。
まさか僕も騙されるとは思ってなかったよ。
まさか……さっき姫を襲った男がウォルの間者だったなんて。
ウィルソンと呼ばれた男は兵士たちの拘束を解いていた。
どうやってあの縄を解いたのか知らないけど、かなり優秀なのは間違いないね。
「ウィルソン! 裏切ったのか!!」
「私は国王様が主。故に、裏切りではない」
「お前は私に従っていたではないか! 何故だ!!」
「私は国王様の命に従っていただけだ。お前に従っていたわけではない」
「クソッ!!」
多分、間者を潜入させたくらいだから色々とまずい書類なんかも回収済みかな。
証拠は十分集めているんだろう。
そうじゃないと、あのウォルがこんなところで仕掛けるはずがないもんね。
さすがだよ。ウォル。
「ここで終わりだ。ガトナー伯爵」
「……私は、私はこんなところでは終わらん! 私は国王になって国を支配するのだ!!」
「兵士たちよ! 一人残らず捕らえろ!」
兵士達が貴族たちを囲み、逃げられないように退路を防いだ。
もう安心かな。あとはウォルがなんとかするでしょ。
僕がホッと息をついたのもつかの間。
ガトナー伯爵が突然壊れたように笑い出した。
「フハハハハは! 私は……私こそが国王になるのだ!!」
ガトナー伯爵は懐から何かを取り出した。
なんだあれ?
何か黒い玉みたいなものだけど。
「いかん! ガトナー伯爵を捕らえろ! あれはダンジョンコアだ!!」
「ダンジョンコア?」
「ユート様、ダンジョンコアを飲んだものは膨大な力を得ると言われております! あの人を止めてください!」
「……ごめん、遅かったみたい」
もうすでにガトナー伯爵がダンジョンコアを飲み込んだ後だった。
その変化は唐突だった。
ガトナー伯爵の体が膨れ上がり、真っ黒な巨人に変化したのだ。
人間の五倍はあるだろうか。
ガトナー伯爵の体がそのまま大きくなったので、お腹がかなり出ている。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!! コレガワタシノチカラ! コレデコクオウニ!!」
あんな国王は御免被るね。
「リン、幻惑を解除して!」
「わかったー」
突然現れた僕にウォルが少し驚いたみたい。
隣にいたウィルソンが、僕に警戒して睨みを利かせてきた。
けどそんなの無視だ。そんなことに構っている暇はない。
「ウォル! ここにいる人たちを避難させて!」
「わかった!」
「全く、あんなもので姿が変わるなんてどんなファンタジー世界だよ。……【動くことを禁ずる】」
言霊は言葉が長いほど力が強くなる。
だから、【止まれ】よりも【動くことを禁ずる】の方がより強い拘束になる、はずなんだけど……。
「ウガアアアアアアアア!!」
「……全然効いてないんだけど。なんでだろ」
それほどまでに力が強いってことかな。
神力を乗せた言霊は確かに強力だ。
でも、何もかもを圧倒するような力ではない。
実際、魔術で肉体強化された人間に破られたことだってあるしね。
「グガアアアアアア!!」
ガトナー伯爵だった巨人は兵士たちを蹴散らし始めた。
見たところ死人は出てないようだけど、このままでは時間の問題だ。
「リン、あれどうにかできる?」
「うーん、ムリかも」
「まさか、リンの幻惑が通じないの?」
「悪感情がつよすぎて、幻惑が効きにくいの」
そういうことか。
つまり、ある程度理性がないとダメってことだね。
「かけれないことはないけど、たぶんあばれるー」
それは困る。
こんな人の多いところで暴れられたらたまったもんじゃない。
仕方ない、
「ウォル、あれを連れてこの街から離れるから、後のことはよろしくね」
「待て! あれは一人で勝てるものではない。兵士たちが集まるまで待つのだ!」
「大丈夫。それに、そんなの待ってたら、死人が出ちゃうから」
暴れる前にこの場から離れないと。
ここには人が多すぎる。
「……すまない」
「謝る必要なんてないよ」
「では、街の外まで誘導を……」
「それはいいよ。もう連れてくから」
「なんだと?それはーー」
「あ、あの! ユート様!」
フィリアが僕の服の裾を軽く引っ張った。
「心配しなくても大丈夫だよ」
「……はい。ご武運を」
これは負けられないね。
「……【転移】」
さて、ここなら大丈夫かな。
ここはこの前ミルと戦った山の上だ。
ここなら暴れても問題ないでしょ。
「グガアアアア! ドコヘイッタアアアアア!!」
「キミの相手は僕だよ」
こんな時はフラグを立てておくんだっけ?
何がいいかな……そうだ。
「お前を倒して、宿のおばちゃんの手料理を食べるんだ」
「……ユート、あたまだいじょーぶ?」
……だいじょーぶ。




