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25話 アイドル

「フィリア、決まったか?」

「はい、お父様。私は女王になります。女王になってより良い国にして、ユート様が再びこの国を訪れる時を待ちます」

「そうか、わかった。なら私たちはそれを全力でサポートしよう」


 あの後、姫はウォルに話をするからついてきて欲しいと言ったので、一緒に執務室まできた。

 もう姫に迷いはないみたい。


「ユート、もうすぐフィリアが街へ向かう。後は頼んだぞ」

「わかったよ。姫、準備はいい?」

「はい。……ですが、その前にユート様。一つお願いがあります」

「何かな」

「どうか私のことはフィリアとお呼び下さい。……お友達になりたいですから」


 ……そうだね。

 フィリアの友達になりたいと言う言葉にどれほどの想いが込められているのか、全部はわからないけど十分に伝わってきたから。

 もうフィリアは僕の友達だ。


「わかったよ、フィリア。よろしくね」

「はい!」


 僕の旅の記憶からは絶対に消えないよ。

 フィリアという友達がいたこと、絶対に忘れたりはしない。


「ウォル、僕ができるのはフィリアを守ることくらいだよ。後のことはキミ次第だからね」

「わかっている。後世に私のことがどう思われようと構わない」

「そう。そう決めたのならそれでいい」


 まったく、こんな馬鹿な国王見たことないよ。

 貴族の大半を辞めさせるなんて、いや、ウォルは重罪を犯した貴族を処刑するだろう。

 僕には辞めさせるなんて言ったけどね。


 けど、これ以上僕から言うことはない。

 彼らがそう決めたのだから。それは彼らの自由だ。

 僕自身が止めたいと思わないから、これ以上は何も言わない。

 言ってはいけないと思う。






「馬車ってこんなに乗り心地が悪いんだね」

「そうですね。私も嫌いです。お、お尻が痛くなっちゃいますから」


 恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。

 ほんのりと頬の赤くなったフィリアを見ながらそんなことを思った。


 にしても本当にこの馬車は乗り心地が最悪だよ。

 揺れるし、衝撃が直に伝わってくるし。


「リンはそんなことないよー」

「……リンは僕の頭の上に乗ってるからね」


 でも、リンなしではこの計画は成り立たない。

 フィリアは、この馬車、と言うとちょっと語弊があるか。

 正確には馬車の上にいる。


 色々と乗れるように細工はされているけれど、これはフィリアが庶民に顔を見せるために行われるものだから、当然顔が見えなければいけないわけで。

 そうなると、普通の馬車に乗っていては顔を見せることができない。

 だから、こうして馬車っぽいものの上に座っているわけだ。


 そうなると僕が身を隠す場所がない。

 だからリンに周囲の人に見えないようにしてもらったわけだ。

 護衛をするなら近くにいるのが一番だからね。


 もちろん周りには兵士達がいる。

 これは警備のための兵でもあり、馬車に轢かれそうな人を助ける兵でもある。

 庶民を守るためでもあるんだけど、何より事故が起きて馬車が倒れるとフィリアが危険だからね。

 どちらの命が重いとは言わないけど、そういった事故が起きないのが一番だ。


「と、ところでユート様。この服はどうでしょうか。似合っていますか」


 フィリアはいつもより化粧をして、さらにひらひらとしたドレスを着ている。

 友達からこういったときには女性を褒めるのがいいと聞いているんだけど、一体何を言えばいいのか。


「うん、よく似合ってるよ。綺麗な服だね」

「そ、そうですか」


 なんでちょっと落ち込むの? 正直な感想を言っただけなんだけど。


 でもね、僕にファッションのことを聞いちゃダメだよ。

 四六時中黒い服装をしてるんだから。

 そんな奴の意見は聞いちゃいけないよ。

 でもいいんだ。僕はこの服が気に入ってるから。

 周りからは変な目で見られることが多いけど。


「ユートー、わかってないー」

「うっ、リンには言われたくないな」

「むぅ、どういう意味ー?」

「さてね」

「バカユート」

「はいはい、バカですよー」

「むぅー!!」


 むくれるリンの頭を指先で押さえつけていると、フィリアはクスリと笑った。


「仲がいいんですね」

「まぁね。リンとは長い付き合いでね」

「……精霊様はずっと一緒にいるのですか」

「そうだね。……ああ、精霊っていうのは自由でね。僕と本質が同じなんだ」

「本質が同じ、ですか?」

「うん。精霊は誰からも縛られることはない。加えて、誰かを縛ることもないんだ。だから、僕とリンは一緒にいられる」

「……そう、なんですか」

「理解できなくてもいいよ。なんていうかね、本能で感じるんだ。この人となら一緒にいても縛られないって」

「もし、その縛られないと感じる人がいたとしたら、ユート様は共に生きるのですか?」


 ……そんなこと、考えたこともなかった。

 地球にはそんな人いなかったから。

 もしそんな人が現れたら、ね。

 僕は一緒にいたいと思えるのだろうか。


「分からない、かな。今の時点ではなんとも言えない」

「そうですか。……ですが、その人は大切にしてあげてください」

「どうして?」

「ユート様と一緒にいられる数少ない人なのでしょう? なら、大切にしないといけません」

「そう、かもしれないね」

「そうですよ。あ、そろそろ貴族街を出ますね。ユート様、よろしくお願いしますね」

「大丈夫、何があっても守ってあげる」

「……そんなこと言われたらもっと好きになってしまうではありませんか」


 僕が悪いの?

 そんなに顔を赤くして言われたら僕だって照れるじゃない。


 貴族街を出ると、多くの人が一目フィリアを見ようと押しかけていた。

 まずは兵士達が先行して、馬車が通る道をあけた。


 さすが一国の姫というべきか。

 フィリアは堂々と座り、少し微笑みながら手を振っていた。

 騒がしかった周囲が静まりかえり、人々はぽかんと口を開けながら棒立ちになっている。


 フィリアは僕の目から見ても顔が整っているからね。

 見惚れる人がいてもおかしくはない。

 流石に全員固まるとは思っていなかったけど。


「「「うぉおおおおお!」」」


 突如、大地を震わすほどの叫び声が僕の鼓膜を揺らした。

 どこから取り出したのか不明だけど、「フィリア様ばんざい!」と書かれた旗を振る集団が眼に映った。


「何、あれ」

「わ、わかりません」


 よく見ると、「フィリア様命」と書かれた服を着ている。

 日本で見たアイドルの追っかけを思い出したよ。

 僕の友達にもいたけど、「ここたん命!」とか言って日本中を駆け回ってたっけ。

 そのここたんって人がアイドルを辞めるって言った時には、「拙者人生をやめるでござる」とか言い出したもんだから、止めるのに苦労したよ。

 一ヶ月後くらいには、「ろんたん命!」とか言ってまた日本中を駆け回ってたみたいだけど。

 話はそれたけど、あの集団はそういう人達な気がする。


「「「フィリア様いのちぃぃぃぃぃいいいい!!」」」


 声が大きすぎる。

 フィリアも苦笑いしてるよ。


「フィリア、今日初めて顔を見せるんだよね」

「は、はい。私はお城の中でずっと過ごしていましたから」


 どうやってフィリアのこと知ったんだろう。

 けど、ほかの人の迷惑にならないように道を開けているところを見る限り、悪い人たちではないのかな?

 最後まで見送るように旗を振り続けていたのが印象的だった。

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