表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/161

23話 兄妹

「ユートさん! こっちこっち!」

「リーシェ、あんまりはしゃぐなよ」

「はーい」


 僕はリーシェに手を引かれて大通りを歩いている。

 今日は豊穣祭。

 街は人で溢れかえり、屋台から食欲をそそる匂いが漂ってきていた。

 僕たちの後ろからはレンが呆れたように、でもどこか楽しげについてきていた。


「ユートさん! あれ食べよう!」

「いいよ。リンも食べる?」

「うん!」


 リーシェが指差したのは果物を切り分け、コップに盛り付けたものだった。

 いつも宿の食堂のおばちゃんに切ってもらっている果物以外にも、様々な果物が入っている。


「はい! リンちゃん、一つあげる!」

「ありがとー!」


 リンがリーシェの差し出した一口大の大きさの果物を一口かじった。


「おいしー!」

「えへへ、よかった!」


 楽しそうで何より。

 でもね、よくキミたちそんなにお腹に入るね。

 もう十件近く食べ回ってるのに。

 リンは果物しか食べてないから分からないでもないけど、リーシェちゃん。

 キミは全部胃の中に入れてるよね。

 もしかしてキミの胃の中は四次元だったりする?


「ねぇ、レン。リーシェちゃんってあんなによく食べる子だったの?」

「……昔はな。貧乏になってからはあまり食わなくなったんだけど、最近になってよく食べるようになった」

「そうなんだ」


 食の細そうな子なんだけど。


「ちなみにリーシェの腹が膨れる代わりに、俺の財布はやせ細ってきている」


 それはご愁傷様。

 今日一日でレンの収入がなくなるかもしれないね。


「次はあっちに行こう!」

「いいよー」


 僕にできるのはリーシェちゃんの笑顔を見守ることくらいだ。

 これから頑張って働くことだね、レン。


「リーシェ、はぐれないようにユートの手を離すなよ」

「わかってるよー」

「別に構わないんだけど、なんで僕なの?」

「ユートの側が一番安全だからな」

「レンの側は?」

「俺は弱い」

「……そう」


 そんな、断言しなくてもいいのに。

 レンに戦う方法も教えたほうがよかったかな?

 治癒魔術の時と違って腕の一本や二本くらいじゃ済まないんだけどね。


「おい、お前変なこと考えなかったか?」

「別に?」

「なんだかものすごい寒気がしたんだが」

「誰かがレンの噂でもしてるんじゃないの?」

「そう、だろうか」


 そんな不審そうな目で見ないでよ。

 僕は変なことは考えてないよ。変なことは。


「だ、誰か! あの人を捕まえて!」


 声のする方を見てみれば、女性の指差す方向に全力で走る男の姿があった。

 どうやらカバンを盗まれたようだ。


「はぁ、こんな日くらいやめて欲しいものだね。【止まれ】」

「うお! なんだ!? 体動かねー!」


 僕は男からバックを奪い、女性に返す。


「あ、ありがとうございます」

「いや、いいんだよ。気をつけてね」


 男はどうするかだけど、もう決まってるね。


「レン、悪いけど兵士呼んできてくれる?」

「俺の時とは随分と対応が違うんだな」

「あー、なんとなくわかるんだよね。改心する気があるのか、ないのか。この人にはその気が全くないみたいだったから」

「……そうか、わかった。ちょっと待っててくれ」


 これも神力を持つためなんだろうか。

 僕は人を見ただけで、少しくらいならどんな人間なのかわかってしまう。

 もちろん経験っていうのもあるんだろうけど。

 実際のところ、はっきりとした理由はわかっていない。


「ねぇ、リーシェちゃん。キミはどんな人になりたい?」

「どうしたの? 突然」

「ちょっと気になってね」

「えっと、まだわかんない」

「そっか」

「でも、にいさんを助けてあげられるようにはなりたいかな」


 いい妹じゃないか。

 僕なんて姉をそっちのけて自分のことばかり考えた愚か者だからね。

 思わず感動して涙が……出なかったけど。


「兄さんは好き?」

「にいさんよりユートさんの方が好き」


 ……ごめん、レン。

 とんでもないことを聞いてしまったよ。

 正直レンに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 笑顔で、しかも断言されてしまった。


 これは僕の胸の中にしまったままにしておこう。

 レンが聞いたら悲しむだろうからね。


「ユート、の方が、好き?」


 あ、


「何か幻聴が聞こえた気がする。なぁ、ユート」

「痛い痛い」


 肩に手が食い込んでるよ。


「もう、にいさん! ユートさんにそんなことしちゃダメ! にいさんなんて嫌い!」

「き、嫌い!?」


 あ、レンが落ち込みのあまり倒れた。

 大丈夫? 息してる?

 ……一応息はしてるね。


「リーシェちゃん、嘘でも嫌いなんて言っちゃダメだよ。自分はそうは思っていなくても、相手はその言葉の通りに受け取っちゃうからね」

「あう、……ごめんなさい」

「それはレンに言ってあげて」

「……にいさん、ごめんなさい。本当は嫌いだなんて思ってないよ」

「そ、そうか」


 レン、言っちゃ悪いけどその顔気持ち悪いよ。


「まぁレンは置いといて、リーシェちゃん。どこか行きたいところはある?」

「えっと、お姫様が見てみたい」

「姫ね、それは悪いけどキミの兄さんに連れてってもらって」

「どうして? ユートさんも行こう?」

「ちょっと用事があってね。悪いけどレンたちにはついていけないんだ」


 リーシェちゃんは僕の手を強く握ってきたので、優しく握り返した。


「……うぅ、わかった。だったら、それまでは一緒に回りたい」

「うん、いいよ」


 リーシェちゃんは賢い子だ。

 自分がやりたいことを我慢して他人を優先するところがある。

 食事の量が減ったというのも家計のことを考えてのことだろう。

 一緒に屋台を回りたいというのも、リーシェちゃんの精一杯のわがままなんじゃないかな。


「次はあれ!」

「うん、行こうか」


 今はリーシェちゃんの願いを叶えてあげたいな。






「楽しかった!」

「そ、そう。それは良かったよ」


 あれからも屋台の料理が次から次へとリーシェちゃんの胃の中へと消え去った。

 考えても無駄だからリーシェちゃんの胃の中がどうなっているのかは考えないでおこう。

 レンは財布を見ながら何やらブツブツと呟いていた。


「レン、しっかり」

「あ、ああ。そろそろ昼だな。ユートはもう行くのか?」

「そうだね、そろそろ行こうか。リーシェちゃん、あとはキミの兄さんと楽しんでね」

「……うん」


 リーシェちゃんは寂しそうな顔をしながら僕の手を離した。


「リーシェちゃん」

「……なに?」

「また遊ぼうね」

「……うん!」


 僕がリーシェちゃんの頭を優しく撫でると、満面の笑みを浮かべた。

 よかった。

 リーシェちゃんはやっぱり笑顔が一番だね。


「じゃあまたね、レン」

「ああ、俺らはお姫様を見に行くよ」

「わかったよ。……ああ、そうだ」

「どうした?」

「姫が城に戻ってくるときも見たほうがいいかもね」

「どうしてだ?」

「きっと面白いものが見られるよ」

「……よくわからないが、分かった。楽しみにしている」


 面白いものが、ね。




「にいさん、お昼ご飯食べに行こ」

「……」


 最後に見たレンの真顔が頭から離れなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ