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22話 鈴の声

 僕が城に潜入してから一週間ほどが過ぎた。

 あれから一度だけ王城に忍び込んでウォルと話をした。

 大した話じゃないんだけどね。

 ついでに国王がどんな仕事をしているのかも見せてもらった。

 ほとんどが書類に目を通すことだったけどね。

 僕には到底出来そうになかったよ。


 あとはレンが妹と一緒に宿に来た。

 もう随分と良くなったみたいで、妹の顔色は随分と良くなっていた。


 ものすごく謝って来たよ。

 疑ってごめんなさい、って。

 僕自身も怪しいと思うほどだったんだから、別に謝らなくても良かったのに。


「ユート、聞いているのか」

「うん、聞いてるよ」


 今はレンと昼食を食べに、ロンドさんオススメのあの店に来ている。

 以前昼食を食べさせてもらったお礼がしたいらしい。

 だから今回はレンのおごりだ。


「えっと、なんだっけ?」

「だから、豊穣祭だ。明日だぞ?」


 そうそう、豊穣祭ね。

 ミルに感謝するお祭りだよね。

 今年はついでに姫の顔見せも兼ねてるんだっけ?


「で、その豊穣祭がどうしたの?」

「……全く聞いてないじゃないか。一緒に回らないか、って聞いてるんだ」


 屋台とかも多く出るみたい。

 昼からは姫が馬車に乗って街を一周して、一般人に顔を見せて回るらしいね。


「ごめんね。その日はちょっとした用事があってね。午前中なら空いてるけど」

「なんだ? ギルドマスターとの決着か?」


 勘弁してよ。

 そんなの一生来て欲しくないね。


「そんなものじゃないけど、決着っていうのは間違いじゃないよ」

「ふーん。まあいい。なら午前中だけでも一緒に行こう。リーシェがお前と回りたいんだと」


 うーん、随分と懐かれてしまったものだ。

 最初はあんなに嫌われていたというのに。


「不満そうだね」

「……俺の可愛い妹が誰かさんにご執心らしいからな」

「誰それ?」

「気づいていないならいい。……いっそ気づかないでくれ」


 よく分からない。

 レンは終始不満そうにハンバーグを食べていた。

 こんなに美味しいのにそんな顔してたらもったいないよ?


「お前は人の好意に鈍感だな」

「そうかな? そうでもないと思うけど」

「いや、鈍感だね。例えば、この間リーシェがお前と会った時、リーシェが何を考えていたかわかるか?」

「会った時? ああ、そういえば顔を赤くしていたね。熱でもあったのかな?」

「……そういうところが鈍感なんだ」


 うーん、全くわからない。

 人の表情を読むのは得意だと思ってたんだけどなぁ。


「そういえば、レン。昼食を奢ってくれるって言ってたけど」

「ああ、俺も金が入ったからな」

「お金を巻き上げてるんだね。やっぱりレンはここで潰しておこうか」

「物騒なことを笑顔で言うな! 俺はちゃんと真っ当に働いてるよ」

「そうだよね、レンに限ってそんなことないよね」


 いやー、よかったよかった。

 友達を手にかけるのは嫌だからさ。


「……お前、わりと本気だったろ」

「そうかもねー」

「やめてくれ、お前には逆立ちしたって勝てっこないからな」

「そうかな」

「そうだよ。あのギルドマスターを倒せる奴に敵うはずがないだろ」


 分からないよ?

 人間やればなんとかなるもんだ。


「それで、レンはやっぱり治癒魔術で稼いでるの?」

「その稼いでるっていうのは言い方としてあまり好きじゃないが、そうだ。お前に教えてもらったおかげで、この手で救えたやつもいた」

「それは何より。でも気をつけてね。あの魔術は効果が高い代わりに膨大な魔力を使う。気絶なんてしてたら死んじゃうよ?」

「わかってる。最近はコツもつかめてきたしな」


 あの魔術は実は僕が初めて作った魔術なんだよね。

 既存の魔術じゃどうしても救えなかった。

 全ての病や傷を癒す力。

 そんな力を願って作ったものなんだ。

 実際にはそんなたいそうな力は持っていないんだけど。


 嬉しいよ。

 救えた人がいて。


 今後もレンには頑張って欲しいものだね。






「うー」

「おはよう、リン」

「おはよー、ユート」


 レンに昼食をご馳走になったあと、街を散歩しているとフードの中からリンが出て来た。


「ユート」

「何?」

「ユートはリンをおいてどっかに行かないよね」

「どうしたの? 急に」

「……夢でユートがリンを置いてどっかに行っちゃった」


 珍しいな。

 リンがこんなに弱気なのは。


 ……もしかしてリンはずっと不安だったのかな。


 僕はこの世界にくるとき、リンを地球においていこうと思っていた。

 精霊がいる世界ならいい。

 でも精霊がいない世界なら?


 僕の旅は常に誰かがいるとは限らない。

 もしかしたら生物のいない世界に行く可能性だってある。

 それにリンを巻き込むのは申し訳ないと思った。


 でもリンは僕について来てくれた。

 リンは精霊の中でも頭が良かった。

 普通精霊と会話なんてほとんど成り立たないからね。

 人間の二歳児とほとんど変わらない。


 そんな中、リンは違った。

 初めから僕の言葉を理解していたし、落ち込んだ僕を励ましたりもしてくれた。

 本当に助かったよ。

 多分リンがいなければトラベラーになれなかったかもしれない。


 僕はリンが大切だ。

 だからこそ、僕はリンを異世界には連れて来たくなかった。


 でも、今のリンを見ているとそれが間違いな気がした。


 リンがどうしたいかなんて、言葉にしなくてもわかる。

 でも、きちんと言葉にして確認しておきたい。


「リン、リンは僕と一緒にいたいんだよね?」

「うん!」


 ……なら、僕の返事は一つしかないな。


「僕もリンと一緒にいたい。だから……ずっと一緒だよ」

「うん!!」


 リンのこんな笑顔を見たのはいつ以来だろう。

 そう、あれは……。


『ねぇ』

『……キミは?』

『私? 私は……せいれい?』

『精霊? でも……』

『あなたは?』

『僕? 僕は唯斗』

『ユート?』

『唯斗だよ』

『ユート!』

『……もういいや』

『ユート、私もそれ欲しい!』

『それって……ああ、名前のこと? そうだね……ならリンっていうのはどう?』

『リン?』

『そう。キミの声は鈴みたいにリンとした音がしているから。だからリン』

『リン……リン!!』

『ふふっ。気に入ってくれて何よりだよ』


 ……そうだ。

 僕がリンって名前をつけてあげたとき。

 その時にもこんな笑顔だったな。


「リン」

「なーにー?」

「いや、なんでもないよ」

「変なユート」


 リンはそう言って笑った。

 リンがいればこの先もなんとかなりそうな気がする。

 例えどんな苦難や苦痛があろうとも。

 例えどんなに悲しいことがあっても。

 例え僕の歩く道がなくなったとしても。


 リンが、リンの鈴のような声が導いてくれる気がする。

 そんな気がしたんだ。


「くだものー!」

「はいはい」


 そんな風には見えないんだけどね。








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