21話 豊穣の短剣
「それで、今日呼び出した理由っていうのを改めて聞かせてもらってもいいかな?」
「う、うむ。だが、その前に、……お主どうしてそのような格好をしておったのだ?」
「うーん、一言で言えば楽しかったからかな」
「……楽しかったから?」
「うん、そう」
人生で初めて潜入なんてものをしてみたんだけど、結構ドキドキして面白かった。
機会があったらまたやろう。
「では、その鎧を着ておった近衛はどうした?」
「あー、実はその人暴力シスターに気絶させられちゃってね。案内人が動けなくなっちゃったから、こうして潜入したんだけど」
「暴力シスター?」
「えっと、冒険者ギルドのマスター?」
「……あの者か。いつもいつも面倒ごとばかり作りよって」
国王はそう言って頭を抱えた。
あの暴力シスター、相当いろんなことやってるみたいだね。
けど実力だけはあるから止めるのが難しいってところかな。
実力だけは。
「それに関してはわかった。して、私がお主をここへ呼んだ理由だが。……娘を救ってくれてありがとう」
そう言って国王は頭を下げた。
周囲の人たちが息を呑む音が聞こえる。
「国王がそんな簡単に頭を下げていいの?」
「今の私はフィリアの父だ。父が娘を救ってくれた恩人に頭を下げないでどうする?」
へぇ、なかなかいいお父さんじゃないか。
姫を見れば、ほんのりと頬を赤らめながら僕の右腕を取っていた。
ねぇ、ちゃんとお父さんを見てあげて?
今かなりかっこいいところだから。
「ああ、ユート様」
うん、全く見てないね。
気づいてすらない。
そのお父さんに視線を向ければ、無表情でこっちを見ていた。
いや、睨みつけていると言ったほうが正しいかもしれない。
……そんな目で見ないでよ。
僕が悪いんじゃないんだから。
「ごほん、まあいい。して、褒美は何がいい? もちろん娘以外だが」
何を言ってるんだ? この親バカは。
別に姫と結婚したいなんて言わないけどさ。
「お父様、あとでお話があります」
「な、なぜそんな顔をしているのだ?」
「あとで、お話が、あります」
「う、うむ」
国王は姫の逆鱗に触れたようだ。
よくわからないけど、姫はたいそう怒っていらっしゃるようで。
……国王、強く生きて。
「褒美ね、特にいらないんだけど」
「しかし、それでは私の気が済まぬ。金でもいいぞ。私の給料から出そう」
国王自らのお財布から出すのか。
一体いくら持ってるんだろうね。
「別にお金はいいよ。……そうだね。なら、友達になってくれないかな」
「……は?」
何その間抜けな顔。
思わずクスリと笑っちゃったよ。
娘にも笑われてるし。
いいのか? 国王。
「友達? 私とか?」
「うん、僕は旅をしてるんだけど、この街にはまだ一人しか友達がいないんだよね。だから国王が友達になってくれたら嬉しいんだけど。もちろん強制はしないよ。そんなの友達とは言えないからね」
「そうか、友か」
国王は何か悩んでいるようだったけど、やがて嬉しそうに微笑んだ。
「わかった。お主は今から私の友だ。よろしく頼む」
「それは良かった。改めて僕は唯斗。呼びにくかったらユートでいいよ。よろしくね」
「私も改めて名乗ろう。私はウォルス・リフィト・エルムスだ。親しいものは私のことをウォルという。お主にはぜひともそう呼んでもらいたいな」
「わかったよ、ウォル」
二人で握手をする。
やったね。これで三人目だよ。
異世界、友達百人、でっきるっかな〜ってね。
ちなみにミルはこの前友達になった。
僕は友達になろう、っていつも聞くようにしてるんだ。
やっぱり言葉っていうのは大事だと思う。
「いいもん、私はーーになるんだもん」
姫が何か言ってるけど、声が小さすぎて聞こえなかった。
随分と顔が赤くなってるけどどうしたのかな?
「そうだ、ウォル。僕もキミに用事があったんだよ」
「私にか?」
えっと、どこにしまったかな?
僕はリュックを開けて、ガサゴソと中身を確認する。
えーと、あった!
「これなんだけど……」
僕が鞄から取り出したのは、レイラから受け取った神剣だ。
「なんだ? その短剣は」
「僕の友達に聞いて見たんだけど、これ、この国の国宝らしいよ」
ミルに聞いた話では、この短剣は初代エルムス国女王にミルが送った短剣らしい。
長い間行方知れずになっていたけど、たまたま僕が見つけたっていうわけだ。
「ま、まさか、アルミルス様のお創りになった、豊穣の短剣か!?」
その場にいる全ての人が驚きに目を見開いていた。
えっ、なに? そんなに有名だったの?
「たしかに、豊穣の短剣って言ってたけど」
「その短剣は私たち王族の中でも、唯一女性のみが使えるというこの国の国宝だ。初代女王がお亡くなりになられてからすぐに何者かによって盗み出され、今まで見つからなかったものだ。一体どこでそれを?」
「これは僕の知り合いの鍛治師が、師匠から持ち主に返せと言われて持っていたものなんだ。何か魔術による封印がされていたからさっき言ってた友達に聞いてみたんだよ」
「そうか。お主はそれをどうするつもりだ?」
「えっ? 別に、ウォルに返すけど?」
「いいのか!? ありがたい。これさえあれば……」
何を考えているのか知らないけど、どうやらこれが欲しかったみたいだ。
「じゃあ、これはウォルに返すよ。用事っていうのはこれだけ。それじゃあ、僕は帰るね」
「もう行くのか? もう少しゆっくりしていっても」
「用事は済んだからね。でも、ウォルがいるからまた来るよ」
「なら、王城に入る許可状を」
「いいよ。今度も潜入してくるから」
「ふっ、程々にしておいてくれ」
よし、宿に帰っておばちゃんの手料理を食べよう。
僕は国王と姫以外にかけた術を解いた後、貴族街の家々の屋根を足場に宿へと帰った。
「クソッ! クソッ! クソッ!!」
なぜだ! なぜ私の計画がことごとく潰されるのだ!
国王の子供はフィリア姫ただ一人。
あんな小娘にこの国を任せられるはずがない!
だから、暗殺しようとしたのにあのガキに邪魔された。クソッ!
さらに、国王がそのガキに報酬を与えると聞いたからこうして替え玉を用意したというのに、それすらも失敗した。
なぜだ! どうして私の思っているように物事がうまくいかないのだ!
「おいっ! 誰か酒を持ってこい!」
極め付けはあの短剣だ。
あれがあの小娘の手に渡ったら、まず間違いなくあの小娘が女王になる。
豊穣の短剣。
聞いたことがある。
あの短剣には国を豊かにする力が備わっているのだとか。
クソッ! ふざけよって!
私が何年も費やして国王の座につこうと努力したというのに、あんな短剣一本で覆されるなどあってはならん!!
「おいっ、もっとだ! もっと酒を持ってこい!」
今度姫が庶民共に顔を見せる日が来る。
その時に大きな失敗をさせ、それを私がフォローすることによって姫の立場を落としながら私の株を上げる計画が台無しだ!
このままではあの小娘が本当に女王になってしまう。
「なんとか、なんとかしなくては!」
……やはり殺すしかないか。
「殺すとすれば、やはり姫が庶民に顔を見せる豊穣祭がいいだろう」
それも護衛が気の緩む瞬間がベストだ。
「なら、戻る瞬間がいいな」
姫は馬車に乗り、この街を一周する。
そして、戻ってきたその時が狙い目だ。
「ふ、ふふふはははははははは!」
完璧だ。その際に殺してやる!
「おいっ、仕事だ。今度こそ失敗するなよ」
「……御意」
これでこの国は私のものだ!
邪魔者は皆排除してやる!




