20話 国王
さて、どうしようかな。
とりあえず国王の近くに控えて見たんだけど、姫からの視線が痛い。
姫は神眼を持っているからバレてるみたいだ。
流石に僕の持つ神力を完全に消すことはできないからね。
「少年を呼びに行った近衛兵はまだ戻ってこないのか!」
「はっ、もう間もなく来ると思われます」
僕が着ている鎧がその近衛兵のものだってバレていないみたい。
見たところ他の近衛兵と同じものだし、顔を覆う兜をかぶっているから判別がつかないんだろうね。
でも、それだけじゃ人数でバレてしまうはず。
ということは、まだ近衛兵が全員集まっていないんだろう。
だから、僕がこの場にいてもバレないわけだ。
姫以外にはだけど。
どういうわけか知らないけど、姫は僕のことを言うつもりはないみたい。
なら僕はもう少しこの緊張感を楽しむとしようかな。
意外と潜入って楽しいんだね。
「国王様! 正体不明の少年などに褒美を与える必要があるのですか!」
さっきから大声でうるさいな。
そんなに大声を出さなくても聞こえているよ。
ほら、国王もちょっと嫌そうな顔してるよ?
「ガトナー伯爵、私の決定に異論があるのか?」
「姫様を助けたのは仮面をつけ、精霊様を連れた少年だと聞きました。ですが、本人だとは限らないではありませんか!」
「精霊様を連れた者がそう何人もいるはずがなかろう」
「それだけではありません! その少年とやらは不法侵入ですぞ! 不審者となんら変わりないではありませんか!」
「……それは私の娘、フィリアが死んでも良かったと言いたいのか?」
「いえいえ、そんなことは申しておりません。ですが、その者は正体のわからぬ者。そんな者に褒美を与えるなどあっていいものかと愚考しました」
うわぁ、あんなに気色悪い笑みを浮かべる人初めて見たよ。
ロンドさんとは違って完全に脂肪の塊みたいな人だし、あまり話をしたい人ではないなー。
自分の話ばかりしてきそうだ。
「事実を確認し、本人であれば褒美を与える。それに変わりはない」
「……そうですか。承知しました」
うわぁ、絶対なんか企んでる。
あんなにわかりやすい人もなかなかいないと思うな。
「失礼します! 噂の少年をお連れしました!」
「わかった。ここへ呼べ」
「はっ」
ほほぅ? ご本人はここにいるんだけどね。
いったい誰を連れてきたのやら。
扉が開き、僕と同じ黒髪の少年が入ってくる。
確かに身長は同じくらいだ。
でもただそれだけなんだけど。
「わ、私がユートです。き、今日はお呼びいただき、感謝しております」
流石に名前は調べていたか。
けど、あの少年かなり怯えてる。
何か脅されてやっているような気がするな。
「ふむ、お主がユートか。よくきたな。早速だが聞きたいことがある。精霊様はどうした?」
「……申し訳ございません、今日は体調が悪いと」
「そうか。大丈夫なのか?」
「はい、問題ありません。すぐに良くなるでしょうから」
「そうか……。ではもう一つ質問だ。お主が私の娘を救ってくれたのか?」
「……は、はい。私が助けました」
「……そうか。近衛たちよ。あの者をひっ捕らえよ。あれは偽物だ」
「「「「はっ」」」」
そうだよね。流石に国王やってたらわかるよね。
これでわからなかったら国王やめろって言ってたよ。
表情、呼吸、瞳孔の動き。
全てが嘘をついた人の動きだった。
「チッ」
あのガトナー伯爵とか言う人、今舌打ちしたよ。
確実に褒美を横取りしようとしてたね。
「それと、今その者の右隣にいる近衛兵。お主も同罪だ。牢屋に入れておけ」
ああ、僕の偽物を連れてきたあの近衛兵か。
買収されたのかはわからないけど、偽物を連れてきてしまったことに変わりはないか。
無罪となるか有罪となるかは国王次第だね。
「そして、私の右斜め後ろに控えている近衛兵を捕らえろ。こやつも偽物だ」
ふーん、右斜め後ろね。
誰だろうね。僕は気がつかなかったよ。
って、なんで僕の方に近衛たちが集まってくるの?
ああ、もしかして僕の隣に……誰もいない。
僕の後ろに……誰もいない。
もしかして、
「えっ? 僕?」
「私が自ら近衛兵に命じたのだぞ? もちろん声で分かる。実際に、私に少年を連れてきたと報告したあの近衛兵は声が違った。故に捕らえたのだ」
なるほど、声か。そりゃそうだよね。見た目が一緒なら声で判断するよね。
「しかし、お主はここへきてから声を出していないことに加えて、歩き方がおかしい、鎧が傷ついている、と不審な点ばかりだ」
ごもっとも。
むしろなんで他の人が気がつかなかったのかびっくりだよ。
「極め付けは、今言った僕と言う言葉だ。近衛の中に自分のことを僕と言うものはいない」
あ、あはははは。
そうだよね。貴族街でも言葉を直せって言われたくらいだもんね。
まぁ、直す気はさらさらなかったんだけど。
「後のことはじっくりと牢屋で聞くとしよう。あの者を捕らえよ!」
どうしようかな。
このまま捕まるのは真っ平御免だしな。
「お待ちください! お父様!」
「っ! 今すぐそこから離れよ! フィリア!」
「いいえ! どきません! この方は捕まえてはならないのです!」
あちゃー、姫に庇われちゃったよ。
なんだか自分が情けなくなってきちゃった。
「その者は近衛の姿をした曲者だぞ! 近衛たちよ! 娘を守れ!」
「なりません! この方が、この方こそが私を救ってくださった人なのですから!」
「なんだと!?」
そりゃ驚くよね。
娘を救った人が、近衛の格好して潜入してるんだから。
「間違いありません! この方は私を救ってくださった方です!」
「……本当なのか?」
「はい!」
もう潮時か。
十分楽しめたし、これくらいにしておこう。
「ごめんね、姫。迷惑かけちゃったね」
「っ! そのお声はやはり!」
僕が兜を外し鎧を脱いで身軽になると、姫が突然飛びついてきたので反射的に抱きしめてしまった。
「お会いしたかったです!」
「おっと、突然飛びついたら危ないじゃない」
って言うかなんで姫は泣いてるの?
僕何かしたっけ?
「お主が、ユートか?」
「えっと、この国の国王だよね」
「うむ。お主が今抱きしめておる娘の父である」
「初めまして。僕は唯斗。呼びにくかったらユートでいいよ」
「私はウォルス・リフィト・エルムス。この国の国王である」
ふーん、悪い人じゃないね。
頭も切れるし、なかなかいい国王なんじゃないかな。
「貴様! 国王様に失礼だろう! 頭が高いぞ!」
やっぱりね。
そう言われると思っていたよ。
近衛兵も殺気立ってるし、他の貴族たちも僕を親の仇みたいに見てくる。
でもね、僕は変える気はないよ。
僕の中ではこれが最大の礼儀だからね。
「悪いね。ちょっと黙っててもらおうか【口を閉じて動くな】」
「「「「「!?」」」」」
国王と姫以外は動けないし喋れないようにした。
これで話が少しはスムーズに進むかな。




