第1話 【ボーン・イン・サツマ】
……むしゃくしゃしてやった…後悔はしてない……
ごめんなさい
ネオ・サツマ。そこは血気盛んなケモ・ニンジャとサイバネ武士が跳梁跋扈する、マッポーの南蛮テクノロジー実験場である!
◆◆◆
カゴシマ・シティー、天文館。
酸性雨とサクラジマの電磁灰が降り注ぐネオンの裏路地へ、二輪駆動式重サイバネ軍馬『オオミズチ』が軋んだ音を立てて滑り込んだ。
乗っているのは、漆黒のチタン装甲に覆われた巨漢。
メンポ(面頬)には、毒々しい緑色フォントで『捨て奸』の三文字が明滅している。
シマヅ・コングロマリットの処刑執行者、チェストハウンドである。
彼の眼球カメラが捉えたのは、密偵の潜伏先……ではなく、派手な銃声とともにゴミ箱の陰から転がり出てきた一人の女だった。
「助けてぇーーーッ! どなたか、か弱きわたくしをお助けになってぇーーーッ!」
南蛮サイバーゴシック・ドレスをまとったツインテールの少女。
タネガシマ重工の社長令嬢、ツルヒメ=タネガシマである。
彼女は大粒の涙を浮かべてチェストハウンドを見上げ、すらりとしたサイバネ義肢をチラリと覗かせた。
だが、チェストハウンドの視線は女の足元を素通りしていた。
路地奥には、ネジメ・ポート・テクノロジー所属のサイバー忍者が4名、壁一面にオイルをぶち撒けて転がっている。全員の胸部装甲が、大口径の弾痕でひしゃげていた。
そしてツルヒメが上品に構える日傘の先端からは、モウモウと硝煙が立ち上っている。プシューッ。
「……」
チェストハウンドのメンポから冷却蒸気が漏れた。
「女。貴様が撃ったのか」
ツルヒメの愛らしい笑顔が引きつった。
(チッ……! 女の涙より先に死体の散らばり方に目が行くタイプか)
彼女は内心で舌打ちし、瞬時に営業用の「か弱い令嬢」を演じ直す。タネガシマ重工の生き残りのため、シマヅの懐に食い込むのが本来の目的だ。ここで粗野な正体を晒すわけにはいかない。
「滅相もございません! これは、あの……日傘が誤作動を……」
その時、頭上の非常階段から最後のサイバー忍者が音もなく飛び降りてきた。
「タネガシマの小娘が! ネジメの商談を嗅ぎ回った報いを受け……アイエエエ!? 味方が全滅!?」
ツルヒメの目がスッと冷たく細くなる。
(……あいつを生かして捕らえ、ネジメの密輸ログを吐かせればシマヅへの手土産になる)
彼女はチェストハウンドの腕をすがりつくように掴んだ。
「お武家様、どうかあの者を捕らえて! 尋問すればネジメの機密が……」
「問答無用」
チェストハウンドはツルヒメの腕を機械的なトルクで無造作に振り払った。
背中から巨大なカーボン・ノダチ『ジゲン・スラッシャー』を頭上へ引き抜く。一切の構えを排し、ただ腕部シリンダーの内圧を限界まで跳ね上げる。
「侵入者」
「な、なんだ貴様は!?」
「チェストとは何か」
「ハァッ!?」
「問答無用! チェストとは知恵を捨てよの意! 考えるな! 斬れェーーッ!」
「理不尽すぎるだろーッ!?」
「ウオオオオーーーッ! キエーッ!!」
大気を引き裂く超音波猿叫!
忍者が鼓膜の激痛に怯み、咄嗟にクナイを交差させて防御姿勢を取る。
その頭上から、ノダチが音滴を置き去りにして振り下ろされた。
「チェストーーーーーッ!!!」
ドゴォン!!
防御? 不可能!
クナイごと、忍者の頭蓋骨、サイバネ骨格、そして路面のアスファルトがまとめて叩き割られた。
「サヨナラ!」
忍者は左右に泣き別れ、空中で爆発四散した。インガオホー!
ザシュッ。
チェストハウンドはノダチを背中へ収め、立ち上る紫煙を見つめて短く呟いた。
「二の太刀要らず」
「……」
ツルヒメはあんぐりと口を開けたまま立ち尽くしていた。
(な……何なのよコイツ!? 尋問する気ゼロ!? 情報引き出す前に真っ二つにしたら何も残らないじゃないのよ!!)
彼女の緻密な営業計画は、わずか0.5秒のチェストによって完璧な灰燼に帰した。
こめかみの血管がピキリと音を立てる。
(落ち着け、ツルヒメ……。まだ手はある。この頭の悪い装甲ダルマを言いくるめて、シマヅの城内へ潜り込めば……)
ツルヒメは深呼吸し、再びうるんだ瞳を作って駆け寄った。
「ああっ……! なんと見事な一撃……! 感謝いたします、お武家様。わたくし、タネガシマ重工のツルヒメと申します。どうか、このか弱き身をお城までお連れいただけないでしょうか? お礼には、何でも……」
チェストハウンドは感情の読み取れない無機質なフェイスプレートを向けた。
「女」
「は、はい……♡(よし、乗ってきたわね)」
「装甲が薄い。邪魔だ、チェストするぞ」
「は?」
チェストハウンドはツルヒメをゴミ袋めいて視界から排除し、オオミズチのエンジンをふかした。
ブロロロロ! 撒き散らされる高純度エタノールの排気ガス!
「ゲホッ、ゴホッ……!? ちょ、ちょっと待ちなさいよこの筋肉野郎!!」
ツルヒメの仮面が完全に砕け散った。
彼女は日傘を反転させ、銃身をチェストハウンドの後頭部へ突きつけた。
「誰が邪魔ですって!? このわたくしの美貌と営業トークを無視して排気ガスを浴びせるとはいい度胸じゃない! あーっもう、知恵を絞るのがまどろっこしい! 撃てば連れて行かざるを得ないでしょ、死になさいチェストーーッ!!」
ガガガガガガガガガガッ!!
秒間120発の超電磁徹甲弾が火を吹いた!
「ヌウッ!? アンブッシュか!」
背中の装甲で弾丸を火花とともに弾きながら、チェストハウンドが怪訝そうに振り返る。
「……タネガシマの新型連装火縄か。初速、威力、申し分なし」
「話を聞きなさーーーい!!」
ネオ・サツマの夜。
狂気と硝煙のランデブーは、最悪の火花を散らしながら幕を開けたのであった。
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【あとがき】
読者=サン、ドーモ。原作者です。
尋問? しない。
交渉? しない。
二の太刀? そんな軟弱なメモリは積んでいない。
考えるな! ブックマークを押せ!
評価の星を五つ叩き落とせ!
二度押すな、一撃で決めろ!
次回、三男の知性派(大嘘)が海を飛び越えて敵の頭蓋をカチ割る!19時投稿
チェストーーーーーッ!!!
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