最後の日
社員から、泰生が辞めることを聞いた次の日。
その日も実希は、家庭教師の仕事をしていた。
仕事を終えスマホを見ると、泰生からメールが来ていた。
『社員さん、実希ちゃんに言ったんだね。自白電話がきた。他の人に言わないでくれて、ありがとう。明日で俺最後なんだけど、明日だけでいいから、飲みに付き合ってくれないかな』
昼ではなく、飲み?
しかも急に明日で最後?
最後まで訳が分からないやつ。だけど、最後くらいなら別にいいか……と思った実希。
『そうなんだ。わかったよ。何時?』
泰生からの返信はすぐに来た。
『本当に!? 本当に行ってくれる!?』
『まあ。最後なんでしょ? 一応同期だし』
『じゃあ、カラオケも付き合ってよ』
『はい?』
『カラオケ。俺ら同じアーティスト好きでしょ。最後だしさ』
一瞬、カラオケとなると話は違う……と考えた実希だが、『最後だし』に押し切られ、了承した実希。
――次の日、ランチの時間になると、泰生は前のように着いてきた。
「ランチも、とは聞いてない」と言おうとしたが、相手は今日で辞める人。
まぁいいか、と何も言わずに受け入れる実希。
「ねぇ実希ちゃん」
「何」
「俺、実希ちゃんとご飯行くの楽しかったよ」
「そう」
「ごめんね、付け回して」
「自覚あったの?」
「あったよ」
やっぱり、真面目に見せかけて最後まで変なやつ。
「だからさ、今日夜もすごく楽しみにしてる」
いつもうるさい声なのに、そこだけは小声だった。
実希は聞こえない振りをする。
「あー……そういえば、マダムに見つかると面倒でしょ? 昼はあの人達気付かないけど、帰りはほぼ皆一緒じゃん」
実希がそう聞くと、泰生が「あ」と言って固まった。
「考えてなかった?」
「うん。一ミリも」
「どうする?」
「俺は辞めるからいいけど、実希ちゃんが……」
「まぁ、知られたらめっちゃ面倒ではある。あんたマダム人気高いし」
「……俺、先にカラオケに入るから、着いたらメールしてほしい」
「わかった」
夜の待ち合わせを決め、会社に戻る二人。
てっきり、『俺は辞めるから関係ない』と言い出すと思っていたのに――




