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春の灯―ハルノヒ―  作者: 絲瀬


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男の決着

「泰生、ケガは……?」


実希は泰生の顔をジッと見るが、かすり傷一つない。


「ないよ」

「話通じる相手だった?」


「んーまあ……警察とかに捕まって自分の未来棒に振るって話したら引いてった」


「それだけ?」


「それだけ」



泰生を信じていないわけじゃない。

だけど、そんな言葉ですぐに諦めて引き下がるとは思えなかった。


実希が考え込んでいると、泰生は実希の頭に手を乗せ言った。


「万が一また来たら、その時もちゃんと俺に言ってな。頼ってくれてありがとう」


実希は泣きそうになる。だがグッと堪えて笑った。


「ありがとう」


「買い物、途中だったんでしょ。少し見てからご飯行かない?」


「うん、そうする」



付き合いだしてから、実希に寄り添い、欲しい言葉をかけてくれる泰生。


このまま、平穏な日々に戻ればいい。




――しかし、実希の予想は的中した。

思ったよりも早く、元彼が現れたのだ。



それは、ショッピングを続け、二人で楽しく見ていた時だった。



泰生がグッと実希の腕を引いた。

突然の事に驚いた実希だが、すぐに泰生の行動の理由が分かった。



「さっき、言わなかった? 次近付いたらって」


明らかに怒っている、泰生の低い声。

そんな声を聞くのは初めてだった。


元彼の様子もどこかおかしい。

下唇をギュッと噛み、手は上着の裾を強く掴んでいる。



「警察に行かないと分かんないか?」


泰生が再度問いかけると、元彼が泣きだす。


実希は泰生にこの場を離れることを提案するが、泰生は頷かなかった。


周囲の目も気になる所だが、実希にとっては相手が“やばい”状態だと感じたのが大きい。


それなのに泰生は何故?

そう思っていると、男がゆっくり口を開く。


「彼氏さんといる実希を、遠巻きに見てた」


泰生の表情はより険しくなる。


「近付くなって言ったじゃんよ」

「だから遠巻きに見てました……」


屁理屈以外の何物でもないが、男は話を辿々しく続けた。


「実希の表情、初めて見た……」


思わず実希が「は?」と声を漏らす。

泰生は黙って聞いていた。


男は実希の目を一瞬見てから、泰生の方に視線をずらした。



「あんなに楽しそうな実希の顔、自分は見た事がなかった……」


「だから。だから、諦める……。今まで、付き纏って、ごめん」



男はそう言って頭を下げた。


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