守る姿勢
泰生は少し黙ってから、実希の頭をそっと撫でた。
「実希ちゃん、俺も言ってなかったことがある」
「……なに……?」
少し不安そうな実希の目を見ながら、泰生が言った。
「俺、格闘技経験者だよ」
あまりにも明るく言う泰生に、実希は拍子抜けした。
「えぇ……?」
「だから、そんなやつ俺に向かってきても倒せるよ」
「でも……」
元彼はスポーツもしていて筋骨隆々だ。
「でも? なんですか。もしかして信じてない?」
「驚いたし、泰生が格闘技って想像つかないけど……問題はそこじゃなくて、相手はめちゃくちゃ筋肉もあるし、力もえぐいよ……」
正直、力技になった場合、泰生が勝てる相手ではない。
ましてや、相手は暴力を振るう時、目が変わって力もいつも以上に強くなる。
不安になり、俯く実希。
だが泰生はそんなのお構いなしと言わんばかりに振る舞う。
「大丈夫。言いにくかったでしょ。教えてくれてありがとうね」
聞いていて、気持ちのいい話ではないはずなのに、実希を気遣ってくれる泰生。
そして、さらに実希の心を軽くした。
「次、もし来たらすぐに俺に連絡して。どんな時間でもいいから。実希ちゃんは直接接触しちゃダメだよ。俺、知能戦に持ち込むから、実希ちゃんが心配してるようなことは起きないから安心して」
「知能戦?」
「うん。その時の状況に応じてだけど。今言えるのは、実希ちゃんは何にも心配しなくていい。実希ちゃんのやるべきことは、俺に甘えること、なんかあったらすぐに連絡すること」
そう言って頭を撫で続けてくれる泰生。
共通の知人に話してもなかなか理解してもらえず、一人で戦っていた実希にとって、心強い味方が出来た。
「それにしてもクズだな。俺に言われるなんて相当だよ」
泰生は余裕の表情で笑った。
「怖くないの? 巻き込まれるの面倒くさくない?」
「暴力でしか実希ちゃんを繋ぎ止められない男なんて怖くないね。なんで面倒? 大事な人守るのに面倒とか思うわけない」
不安は残るけど、泰生の包容力に感服した実希は、「ごめんね、本当にありがとう」と呟く。
すると、泰生の手が実希の頬に移動し、片手で両頬をムニっと持ち上げた。
「ごめんね要りません。実希ちゃん悪いことしてません。ありがとうだけでいいの。分かった?」
実希が頷くまで、泰生が頬をムニムニして遊んでいる。
頷いてようやく手を離し、もう一度頭を撫でた。




