実希の心境
泰生と別れた後、実希は行きつけのバーに向かった。
泰生から話された内容が、実希にとっては少し重たく感じたのも事実。
混乱している気持ちを、一人になって整理したかった。
――「こんばんは」
バーに入って、いつもの落ち着いた雰囲気に気持ちが少し和んだ。
実希は嫌なことがあったり、落ち着きたいときには、必ずここに足を運んでいた。
「実希さん、こんばんは」
マスターが、いつものお気に入りの席を案内してくれる。
「今日は……強めかな?」
「はい、お願いします」
「何があったの?」
「うーん。ちょっと……混乱してます」
マスターはカクテルを作りながら、笑って話を続けた。
「うん、男の人絡み?」
「えっ。何で分かったんですか」
「いつもは、仕事がーとか理由を言うじゃないですか。でも、今日は違ったから……かな」
この際、マスターに相談してみようと思った。
幸い、他の客も少ない。
「告白……されまして」
「それはおめでとうって言ってもいいんですかね」
「どうなんでしょう」
「どんなお相手なんですか」
マスターに聞かれ、実希はポツリポツリと、自分の気持ちを一から整理するように話しだした。
バイト先で、最初の印象が悪い同僚。
なのにある日突然、半強制的に距離を詰めてきたこと。
鬱陶しいと思っていたけど、共通点も見つかり関わるのが苦ではなくなってきたこと。
嫌いではなくなったけど、腹が立つことも多い。そのせいで、少し喋るようになった同僚としか見てなかったこと。
最後というから、カラオケに行ったら案外楽しかったこと。
予想していなかった相手だけど、ストレートな言葉は少し嬉しく感じること。
だけど、それで簡単に『私も好き』となれるほど、自分はチョロいわけでもない。
そして、完全に腹が立つ部分が無くなったわけでもないから、まだまだ恋愛対象とは感じられていないこと。
そこへ来て、過去にプロポーズに失敗したせいで、怖くてあんな態度だったといきなり聞かされても、混乱するだけであること。
『仕方ないね、事情は分かったから、異性として見始めます』なんて簡単に気持ちは切り替わらないこと。
なのに、思いをどストレートにぶつけてくる。
そのせいで、尚更混乱が強まっていること。
実希が話し終えるまで、マスターは黙って聞いてくれていた。




