小さなコト
泰生が予約した店に着くと、『馬刺し』の文字が見えた。
この前の居酒屋で、『馬刺しの美味しい店を探している』と話したことを覚えていたのだ。
「うっそ……まじで言ってる?」
「うん。実希ちゃん食べたがってたから」
「最高過ぎる! ありがとう」
「どういたしまして」
早速店に入る二人。
小洒落過ぎず、実希の好きな雰囲気だった。
二人で昼に食事を取っていたときに、好きな店の雰囲気を話したことがある。
実希にとっては何でもない会話を、しっかりと拾ってくれている泰生に、少し見方が変わり始めていた。
「泰生、すごいね」
「何が?」
「何かヘラヘラしてる様に見えて、ちゃんと覚えてる」
実希がそう言うと、泰生が照れ笑いを浮かべる。
「とりあえず注文しようか」
泰生は、照れ笑いを誤魔化すかのように注文をしだす。
そして、お酒を頼みだした泰生に、実希は驚いた。
「えっ、お酒苦手なんじゃないの?」
「うん、そうだよ?」
「何でお酒頼んだの」
「一杯だけ、実希ちゃんに付き合いたかったから。自分でも飲めるやつにした」
「無理しないでよ」
自分のために、そう考えると嬉しい。けど、アルコールが苦手な人に無理して付き合わせたくない。そもそも何故……。
そう考えているのが顔に出ているのか、泰生は優しく笑った。
「心配すんな。俺がしたくてやってるし、自分の限界分かってるから一杯だけ付き合わせてよ」
「うん……わかった」
そう言われても、実希の性格上気にしてしまうのが本音だ。
そんな実希を見て、泰生が言葉を続ける。
「それに、さ。話したいことがあるって言ったでしょ。ダサいけど、多分俺、シラフでは言えないから。許して」
そうまで言われると、何も言えなくなる。
そして、お酒の力を借りないと言いづらいのに、話したいことの正体が気になって仕方がなくなっていた。




