意外な一面
屁理屈な泰生に呆れて、何も言えない実希に、泰生はさらに言葉をかける。
「実希ちゃんは、俺と会いたくない?」
「まず、あんたをそういう目で見たことがない」
これは実希の本心だった。会う・会わないや、友達になる・ならないの選択肢を、考えたことさえないのだ。
「じゃあ見てよ。今から」
「無理」
「見てよ実希ちゃん。俺実希ちゃん好きだから」
どうせここで反応したら、『友達として!』と言われるんだろう。
だからここは軽く流そう。実希はそう思った。
「はいはい」
「俺と付き合ってよ」
冗談っぽく言うことか……?と呆れてしまう。
「嫌だよ」
「えー。じゃあせめて、これからも会って」
このまま、『嫌』を繰り返しても、泰生はきっと諦めないだろう。
少し考えた実希は、あることを提案する。
「じゃあさ、今日このまま居酒屋楽しんで、帰ってからメールでどうするか送るよ」
「まじ? じゃあ今ダメでも挽回できるんだ」
「どうかは分かんないよ。あまり期待しないで」
「わかった」
とりあえず、これでごねられるのを最小限に抑えられるだろう。
その後から、泰生の雰囲気がガラッと変わる。
屁理屈や無神経を封印していた。
やれば出来るんじゃん、と思うと同時に、なぜそこまでして?とも思う。
やっぱり、変なやつ。
――好きな食べ物も、好きな飲み物も違う二人。
でも、その後、好きなアーティストの話や、写真フォルダを見せ合って、楽しい時間を過ごしていた。
ラストオーダーの時間になり、もうそんなに時間が経っていたことに気付く。
「実希ちゃん何で帰るの?」
「タクシーかな」
「じゃあ、タクシー乗り場まで送って行く」
「いいよ。終電近いでしょ」
「大丈夫だから。女の子なんだしせめてそこまで送らせてよ」
無神経を封印すると、ここまで人が変わるのか。と思いつつ、実希は受け入れた。
「ありがとう」
二人でタクシー乗り場に行く途中、酔っ払いが実希に勢いよくぶつかった。
「痛っ」
「イチャイチャしやがって」
「は?」
いちゃもんを付けてくる酔っ払いに、カチンと来た実希だが、相手にするだけ無駄だと思い歩き始める。
だが、隣にいたはずの泰生がいない。
後ろを振り返ると、泰生がその酔っ払いに話しかけていた。
「ちょっと。あの子に謝ってください」
「何でだよ」
「わざとぶつかっただろ」
「そうだな」
「分かってるんなら謝れよ」
「嫌だね。女の前で良い格好したいのかお前」
謝らせようとして、揉めている。
「泰生! いいから行こうよ」
実希は二人に近付いて、泰生を止める。
「あーくだらねぇ」
酔っ払いは吐き捨てるように、その場を去って行った。
「何してんのあんた」
「あいつが実希ちゃんにぶつかったから」
「話の通じる相手じゃないんだから、無視しときなよ」
「ムカつかないの?」
「ムカつくよ。でもあの人、理性なんてない状態じゃん。危険だよ」
「怪我ないの?」
「ない。だから大丈夫」
危ない相手に絡んで行くなんて、正気じゃない。
そう思うと同時に、少しだけ、嬉しかった。
泰生は腑に落ちない様子でずっと、顰めっ面になっていた。
「……でも、ありがとね」
実希は素直にお礼を伝えた。
すると、泰生が嬉しそうに反応する。
「……うん! 守れなくてごめん」
大袈裟だな、と思うが、泰生の新たな一面が見えた出来事だった。




