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聖女『じゃない方』なのに、溺愛されるのは何故ですか!?  作者: あらいサラ


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8.お邪魔虫ポジションなのでは

次の日、ユリウスさんは仕事があるとかで、私は執事長に屋敷内の案内をしてもらっていた。


何故か手や耳にキスされてしまった昨日の今日なので、どんな顔して会えば良いのか分からない私としては、ユリウスさん不在は正直ありがたい。


(ナチュラルに甘い…こわい……!これがお貴族様…!?)


昨日よりもフリルの多いワンピースの裾をなんとか捌きながら、執事長の後ろについていく。

アシュフォード家は部屋数が多すぎて、見て回るだけでも半日仕事だ。


私が通るたびに使用人が立ち止まり頭を下げてくれるが、聖女でもなんでもないただのモブなので、すごく居た堪れなかった。


絵が飾られた回廊に着くと、執事長は夫婦の絵の前で「こちらが旦那様と奥様でございます」と説明してくれた。


繊細なタッチで描かれた、金茶の髪の男性はキリリと凛々しく、黒髪の女性は優しい雰囲気の美しい人だった。


(ユリウスさんは髪色は父親譲りで、顔立ちは母親譲りなのか…。

 あ、目の色はお母さんと一緒……ゔっ!)


はちみつ色の甘い瞳を思い出し、顔がじわじわと赤くなる。

いけない…!彼氏もいたことがないようなモブに、あんな事をしてはいけないよ、ユリウスさん…!!


「旦那様と奥様は現在、領地の本邸でお過ごしでございます。社交シーズンになりましたら、こちらへとお越しになられますよ。

 リコ様のことは、すでにお知らせしてございますので、お二人ともお会いできる日を大変楽しみにされておられます」


「そ、そうですか…」


(国から押し付けられたモブってご両親的にどうなんだろ…。一応女だし、ユリウスさんの縁談にも影響がでるのでは…?

 …あれ?そう言えば、ユリウスさんって婚約者とかいないのかな?もしいるなら、私、モブどころか完全にお邪魔虫ポジションなのでは???)


「そしてこちらが坊ちゃまの肖像画でございます」


「ゔっ!!!」


油断した。このタイミングでユリウスさんの絵を見せられるとは…!

咄嗟に手で目を覆おうかと思ったが、不審者が過ぎるので止めておいた。代わりに深呼吸をして、そっと窺い見る。


「………あれ?」


「どうかなさいましたか?」


「いえ、……この絵、すごく綺麗に描かれてますが…なんだかユリウスさんらしくないなぁと…」


昨日、知り合ったばかりの私が語るのもおかしな話だが、あの優しい笑顔を知っている分、絵の中の完璧な笑顔を浮かべるユリウスさんに大きな違和感があり…


(なんというか…笑ってるのに、すごくスンってしてる…!)


そう考えていると、執事長が大きく頷いた。


「坊ちゃまは…擦れてしまったのですよ…」


「擦れ…へ??」


「…大きな力は時に自身を傷つけます。他者からの上辺だけの言葉と、真実の感情の差に失望し、ユリウス様は周囲の者との間に壁を作るようになりました…」


貴族の駆け引きの話なのか、ユリウスさんのスキルの話なのか、どちらの知識も無い私には見当もつかなったけど、その結果こんな風に作り笑いが上手になってしまったのなら寂しい話だ。


「…せっかく、素敵な笑顔の人なのに……」


優しく慰めてくれた笑顔を思い出して、胸がきゅうとなる。


「…ですが昨日、久方ぶりに嬉しそうな笑顔を見られたのです」


「昨日…?あ、聖女召喚が無事に終わったからですか?」


「おや。…ふふふ、そうかもしれませんね」


聖女召喚の責任者である王子と従兄弟なのだ。きっとユリウスさん自身にも何かしらの重圧があったに違いない。それから解放されたなら、肩の力も抜けるだろう。


そう納得していると、執事長が他の絵へ案内してくれた。


「ちなみに、こちらが擦れる前の坊ちゃまでございます」


「かっ、可愛い…!!」


5、6歳くらいの少年が黒猫と戯れている絵だった。

あどけない笑顔を浮かべる少年は、金茶の髪がふわふわとしていて、ほっぺも柔らかそうで、はちみつ色の瞳はキラキラ輝き、まさに天使…!


(モブにまで色気を放出するユリウスさんにも、こんな可愛い時代があったなんて…!

 ………でも、この猫…)


この猫、なんか気になる。なんというか、お貴族様の猫と言えば、長毛種の優雅な血統書付きを想像してしまうが、サラリーマン家庭にもいそうな黒白のハチワレで…その…なんていうか……目つきが…悪い…。


「この猫は、その昔坊ちゃまが拾われてきた猫でして、10歳になる歳まで共に育ったのです」


何故か執事長が猫と私を見比べて頷きながら、ハンカチで目尻を押さえている。この仕草、昨日も何処かで見た…!


「あの…この猫の名前って……」


「はい、ティナ様でございます」


「ティナ………」


―――どことなくティナ様に似てらっしゃる…


(猫ぉッ!!!!!)


執事長が私と猫を重ねていた事が発覚した。


もしかするとユリウスさんも、かつての飼い猫に似てるからここまで優しくしてくれていた可能性も…!

猫だから、撫でたり、膝に乗せたり、キスをしたり、当たり前にスキンシップをしていたのかもしれない…!


(つまり……私はペット枠…!!!)


人間(モブ)ですら無かったけど、それはそれで気が楽なのではと、屋敷案内で疲れきっていた頭で思ってしまった。

 

猫は吸うものなんだよ…!

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