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聖女『じゃない方』なのに、溺愛されるのは何故ですか!?  作者: あらいサラ


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9.この手は迷子防止策!

本日晴天。差し出された手を借りて馬車を降りると、一気に街の賑わいに包まれた。


「…わぁ…!」


三角屋根の可愛らしい建物が立ち並び、人がたくさんいる。レトロな街灯に、靴音が響く石畳、そして噴水。まさに物語の中のような街並みだ。

どこかに食べ物の屋台でもあるのか、美味しそうな匂いが漂っていた。


「これが王都…!すごい…すごいです!!」


「さぁ、リコ」


いつかアニメで見たような景色に見とれていると、浮ついた気持ちを表したように宙を彷徨っていた手がギュッと握られた。顔をあげるとユリウスさんが優しく微笑んでいた。


普段の貴族然とした服装ではなく、平民が着るようなシンプルなシャツに、ベストとループタイをおしゃれに着こなしている。

普段は下ろしている肩ほどの金茶の髪は、後ろの方でラフに縛られていた。


「デートに行こうか」


「……ハイ!!」


そう、今日は王都でお忍びでお出かけの日。

つまりこれは…


(…ペットの散歩、だね!!!)


先日私は執事長から、かつての飼い猫にどこか似ていると言われ、【ペット枠】で可愛がられているのだと気づいてしまった。

それなら、ユリウスさんのこれまでの行動も納得だ。


私自身は猫を飼ったことはないけど、小説に出てくるような猫好きの人は、猫を撫でるのは当然のこと、抱きしめ、頬ずりをし、キスだって…キ……


(キスぅぅぅ…!!!!)


耳が熱を持った気がして心の中で悶えていると、何故かユリウスさんの手に一瞬だけ力が入った気がした。


変に思われたかと顔を向けると、何故か先ほどよりも甘い顔で「なんでもないよ」と笑っていた。


「…さて、今日はちょっとした買い物と、軽く昼食でもと思っているのだけど、カフェか屋台、どちらがリコは好み?」


「それなら、屋台に行ってみたいです!」


貴族のユリウスさんと行くなら、綺麗なカフェが良いのかもしれないけど、先ほどからベビーカステラのような甘い匂いと、肉を焼く香ばしい匂いが気になって仕方ない。


前のめり気味に告げると、ユリウスさんは大人っぽくクスリと笑い、指同士を絡めるつなぎ方に変えた。


「承知しました、お嬢様。

 今日は特に人が多いようだから、はぐれないようくっついていてね」


(恥ずかしく感じる必要はない…!この手は迷子防止策!いわば首輪につながるリード…!!)


「万が一はぐれてしまった時は、心の中で強く僕の事を呼んで」


「心の中で?おまじないですか?」


不思議な事を言うなぁと首を傾げると、ユリウスさんは「そんなところ」と悪戯っぽく言い、屋台が集まる広場へ私の手を引いていった。



屋台で異世界屋台グルメを堪能したあとは、いろんな店が立ち並ぶエリアを歩く。


「この辺りに良い雑貨屋があると聞いたんだ。店の看板に、インク瓶の絵が描いてあるらしいんだけど…」


「…あ、あれですかね!ユリウスさ…うんん!??」


数軒先にインク瓶の絵が描いてある看板を見つけ、嬉々として振り返ると、ユリウスさんが町娘達に囲まれていた。


(少し手を離した隙に!?)


一体どこから現れたのか、頬を染める十数人の町娘ズの熱気に、思わず1歩後ろに下がる。

ユリウスさんは困った様子だったけど、あそこから助け出せる気は全く無い。


そうしてユリウスさんに侍る輪の側でオロオロしていると、特に目をギラギラさせた女性達が私の方に近づいてきた。


「ねぇ、あなた。あの方の侍女なんでしょ?あの方はなんて名前なの?」

「絶対お貴族様よねぇ。あの溢れ出る気品は、服変えただけじゃ隠せないわよ」

「や〜ん、お近づきになりたぁい。女の好みとかわからないのぉ?」


「え、え?え!??………こ、個人情報なので…」


戸惑いながら何とか絞り出すと、町娘ABCは舌打ちをして輪の中に戻って行った。


ギラギラ女子、こわい。

そして、あの女子たちを笑顔で躱していくユリウスさん、すごい。


こんな風に、女の子に囲まれるヒーローを見て「他の人と話す方が楽しいのかも…」なんて変に気を利かせて、そっと離れるのはヒロインのテンプレだろう。


そしてそのまま迷子になったり、厄介事に巻き込まれたりして、颯爽と駆けつけたヒーローに救出されるまでがお約束だよなぁと考える。


(でも、私はモブ…!)


NOTヒロイン。

OK、この場で大人しくしておこう。


少し離れたところの壁際に寄って、そっと成り行きを見守る事にした。


(でもやっぱユリウスさんってモテるんだなぁ…。あれだけイケメンだもんなぁ。

 性格も穏やかで優しくて、大人の余裕があるし、色気もあるし…)


そんな彼の隣に立つ人は、あの輪の中にいる女性達みたいに胸とお尻が大きくて、谷間がしっかり強調されてて、色気のある美人の方が似合うんだろうな、なんて考えながら、ふと、自身のなだらか〜な体に寄り添ったラベンダー色のワンピースに視線を落とす。効果音を与えるなら『スットーン』だ。


うん。現実って厳しいね。


(色気が…欲しい…!!!)


切実にそう願うと、町娘ズに囲まれたユリウスさんが何故かむせていた。気管にでも入ったのだろうか?


心配でそちらを見ていると、背後からズサっと何かを擦る音と、一拍遅れて子供の泣き声が聞こえてきた。


「ッふえええええん!!!」


どうやら子供が転けたようだ。4、5歳くらいの男の子で、誰も駆け寄って来ないのを見ると、近くに親は居ないみたいだ。


(え、え!?どうする?どうすれば良いの!??)


こんな時ヒロインならすぐに駆け寄って、優しい笑顔で励ましてあげるのだろう。


でも、私は…


(目つきも悪いし、子供にあんま好かれないんだよな…。

 それに私は、笑顔で人を元気に出来るような可愛げとか…持ってないし…)


きっとユリウスさんなら、あの優しい表情と温かい手で、子供を笑顔にできるのだろう。

透子さんなら、あの勝ち気だけど面倒見の良い性格で、子供をぐいぐい引っ張って元気にできるのだろう。


助けを呼ぶように子供は泣き続ける。


ユリウスさんを囲む町娘ズも、それに気づいてチラリと視線を向けたが、興味なさげにすぐ視線を戻していた。


(私…は……)

 

聞こえちゃいけん心の声だだ漏れよー!!

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