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聖女『じゃない方』なのに、溺愛されるのは何故ですか!?  作者: あらいサラ


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10.へんなひとだ!!

「――ふえぇ……、…?」


自分の前に人が来たことに気づき、子供の泣き声が勢いを失う。

正体を確かめるように、子供は涙で濡れた顔をあげ……


「―――…」


「だ、大丈夫?怪我はない…??」


長方形に折った白いレースのハンカチで、目元をしっかり隠した私を見て、


「ッへんなひとだ!!!」


正直な感想が放たれた。


「え、ええええ!?あ、怪しい人じゃなくてね、その、心配して…」


「こわい!!!」


そう言って子供はサッと立ち上がり、もの凄い勢いで走り去ってしまった。危機管理能力がしっかりしている子のようだ。


「………」


うーん、現実は厳しい。(本日二度目)


なんだか悲しい気持ちになりながら、ハンカチを畳み直してポケットに入れていると、背後からユリウスさんに肩をポンと叩かれた。


「あれ?ギラギ……女性たちは何処へ?」


「帰ってもらったよ」


いつものように優しい顔で言うが、これはきっと権力的な何かを発動したのではなかろうか…。

ともかく、トラブルもなく、無事に解放されてホッとする。


「リコが声を掛けた子、元気そうで良かったね」


「み、見られていたなんて恥ずかしいです…!!」


普通に慰めてたならともかく、変な格好で近づいた上に、しっかり逃走されたシーンだ。恥にしかならない。


顔を赤くする私の頭を、ユリウスさんの大きな手が撫でる。


「皆が見て見ぬふりをする中で、リコだけがあの子の為に動いていた。立派な行動だよ」


「……いえ、私も…普段なら関わろうとしなかったんですが……」


なんとなく気恥ずかしくなり、スカートをギュッと握る。


「ユリウスさんが、慰めてくれて嬉しかったから……私も、してみようって思ったんです」


「……リコ…」


「…が、怖がって逃げられるとは思ってませんでした…!」


「くくっ、あの子は見る目がないな」


ガクリと大げさに肩を落とすと、ユリウスさんは声をあげて笑ってくれた。


「ところで、どうしてハンカチで目を隠していたの?」


「あー…、私は目つきが悪くて子供を怖がらせちゃうので、隠しとこうかと…」


再び笑ってくれるかなと、冗談っぽく「結局怖がられましたが」と付け加えると、ユリウスさんは笑うことなく、私の顎を軽く持って上に向かせた。


視界に建物の屋根、空、そしてユリウスさんの端正な顔が広がる。


「――そんな事ない。リコは、キリッとした素敵な目をしてるよ。

 …あぁ、黒い目だと思っていたけど、よく見ると茶色なんだね。光が当たると透明感が増して綺麗だ」


そう言って、私の目を覗き込むユリウスさんの髪の毛が、ハラリと頬にかかり…


「う、わ、わあああああッ!!?」


(近い!近すぎるぅぅぅ!!)


あまりの距離感にパニックになって、勢いよく仰け反ってしまった。

「あっ」と呟いた時にはもう遅い、体勢を崩した私は、そのまま背中から石畳に……


「――危ないな…」


…倒れ込む前に、低く掠れた声が耳に届き、ウッディ系の香りに包まれた。

ユリウスさんにしっかりと抱きとめられ、その温もりに一瞬だけ呼吸が止まる。


「大丈夫?足、捻ったりしていない?」


「だ、だ、大丈夫、です…!」


顔が真っ赤になり、ロボットのようなカタコトな返事をしてしまう。

そんな私の様子を見てユリウスさんは小さく笑い、今度は私の腰に手を回してゆっくりと歩き出した。近い。


「そろそろ店に行こうか」


「………ヒャイ」


(私はペット枠…ペット枠だから…、だから……心臓おさまって…!)


そう心の中で必死に唱えるけど、店で雑貨を見ても全く集中が出来ず、結局ユリウスさんが商品を会計するまで、心臓は暴走したままだった。


(…一生で心臓が動く回数は決まってるって説があるけど、私、ユリウスさんといたら早死してしまうのでは……)



「さっきの店で、リコは蛸壺を真剣に見ていたけど、本当に買わなくて良かったの?」


「たこつぼ」


ユリウスさんの色香にやられて商品に集中出来ないまま、無意識に蛸壺を眺めていたらしい。

全く記憶にない。あとタコにも壺にも興味はない。


珍しかったから見ていただけだと誤魔化すと、ユリウスさんは納得したように、先ほどの店で買った商品の紙袋を私の手に置いてきた。


「これは…?」


「お守り」


袋を開けると、小さな石がついたシンプルなネックレスが入っていた。

ペンダントトップに使われているのは、琥珀だろうか、透明感のある温かな橙色の石だ。光に透かすと黄色っぽくも見える。


「綺麗…」


「君は公爵家の装飾品をなかなか着けてくれないからね」


服は仕方ないとしても、高級そうなアクセサリーを身につけるなんて恐れ多いと、毎日のように辞退していたのがバレていたようだ。


私からネックレスを受け取り、そのまま首につけてくれる。鎖骨の辺りで控えめに光った。


「これなら受け取ってくれる?」


そう言って、上目遣いで首を傾げるユリウスさんは非常にあざとい。


貴族向けの宝飾品だと私が困る事がわかってて、敢えて平民向けの雑貨店で買ってくれたのだろう。

その心遣いが嬉しくて、くすぐったい。


「…ありがとうございます。大切にします」


思わず、ふにゃっと力の抜けた笑顔でお礼を言う。すると、ユリウスさんは片手で口元を覆い、何かを呟いた後、そのはちみつ色の目を細めて「どういたしまして」と言ってくれた。


「ところでお守りというのは?」


「あぁ、虫避けかな」


「へぇー、そんな便利なお守りがあるんですね…」


「うん、そんなところ」


こうして、初めての王都散歩は、トラブルもなく無事に終了したのだった。


なお、貰ったネックレスが、ユリウスさんの目と同じ色なのだと気づいたのは、もう少し後のことである。

 

装飾品拒否は、侍女AかBかCあたりがチクりました。

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