11.独占欲、丸出しじゃない…
――この世界に召喚された日から3日後。
ついに今日は透子さんと再会する日だ。
「よく似合っているよ」
転げ落ちないよう慎重に階段を降りる私の姿を見て、ホールで待つユリウスさんが蕩けるような顔で笑う。
「う、うう…動きにくいです…」
透子さんと会う、つまり城に行くという事で、今日の私は淡いオレンジ色のドレスを着せられている。
装飾少なめでまだ軽い方だと侍女たちが言っていたが、ワンピースに比べると遥かに重く、裾が長いため足捌きが大変だ。
それに、ドレスなんて物心ついてから着るのは初めての事で、非常に恥ずかしい。
侍女たちが一生懸命に整えてくれたけど、ベースがベースなので、質の悪い仮装になっていないか不安だ。
「リコ、手をこちらへ」
階段の途中からユリウスさんが手を貸してくれた。
私の首元を飾る、黒いベルベットのリボンチョーカーの下から覗く、小さな琥珀のネックレスを見つけて、ユリウスさんは嬉しそうに甘く微笑んだ。
「お城に行くのってこんなに大変なんですね…」
もうこんなに疲れているのに、まだ屋敷を出てすらいない。
「そうだね。女性は特に準備が大変だと聞くね。
リコが望むなら、聖女様との約束を反故にしてもいいのだけど、今日は他の予定もあるからな…。1日だけ頑張れるかい?」
「ほ、反故は望んでません!!頑張りますから!」
「そう、それじゃ行こうか。お嬢様」
エスコートされながら屋敷を出ると、立派な紋章入りの馬車が待機していた。
ユリウスさんに支えられながら乗り込む。
ちなみに、昨日から馬車にはクッションがたくさん載せられており、お尻が痛くならず快適だ。
細やかな気配りに感謝しつつ、私たちは城へと向かった。
◇
「莉子!元気にしてた?」
「透子さん、3日ぶり…ぐえっ」
挨拶も早々に、透子さんから熱い抱擁が送られる。当たりどころが悪いのか、単純に力が強いのか、呼吸が苦しくなり思わず腕をパシパシ叩くと、さっと体を離してくれた。
「ちゃんとご飯食べてる?あの胡散臭い貴族から何もされてない?」
「えっ、胡散臭いってユリウスさんの事ですか?とても良くしてもらってますよ」
「それなら良いんだけど…」
そう言いながら、透子さんの視線が私のネックレスに視線が落ちる。そして私のオレンジ色のドレスを眺めた後、苦虫を噛み潰したような表情をした。
「独占欲、丸出しじゃない……」
「独占欲???」
「…聖女様、そろそろ二人を紹介してもよろしいですか?」
言葉を聞き返す前に、ユリウスさんから声を掛けられたので、透子さんとソファに並んで腰掛けた。
机を挟んだ向かい側には、見知らぬ男性が二人。
今回、透子さんと会うだけの予定だったのが、急遽この顔合わせも行うことになったのだ。
「こちらがシルヴァン王弟殿下。現在は離宮にお住まいです」
「ども〜」
右側の黒髪青目の男性が軽く手をあげる。
歳は30くらいに見えるけど、服も着崩してるし、タレ目も相まってなんだか軽薄そうだ…。王弟…これが王弟…。
「そして、こちらがエドガルド。騎士団長の御子息です」
「うっす」
今度は、左側の茶髪赤目の男性が軽く頭をさげた。
こちらは王弟よりも顔立ちがずっと幼く、下手すると私と同じくらいの歳かもしれない。ただ鍛えているのか、体つきはがっしりしている。
しかし何故この二人を紹介されたのだろうか?透子さんも隣で訝しがっている。
「このお二方と、僕とテオドール第一王子殿下の4名が、聖女様の【協力者】となります。
お困りの事がありましたら、いつでもお声がけください」
「協力者ぁ?」
「はい。聖女様が不自由なくお過ごしになれるようサポートせよと、陛下より仰せつかっています」
(そんな役割があったのか…)
なるほど、その関係で私の世話をユリウスさんが引き受けてくれてるのだな、と小さく納得した。
(でもなんで男性ばっかり?聖女のサポート役なら女性がいた方が良いような…)
「よぉ、改めてよろしくな、嬢ちゃんたち。
こんな草臥れたおっさんより、そこの若いのに頼む方が良いかもしれねぇけど、何かありゃ頼ってくれや」
全く王族らしくない、シルヴァン様のやる気なさげな挨拶に、透子さんが半目になるのがわかった。
自称おっさんって意外とおっさんじゃないよね。




