12.お前がアホだからだろ
ユリウスさんは特に気にした様子はなかったので、普段からこういう人なのだろうな、と思っていると、今度はエドガルドさんが元気な声で挨拶を…
「そんで、オレはどっちに侍ればいいんすか??聖女様を囲むんすよね、聖女様ってどっちっすか?」
「「!?」」
多分聞いちゃいけないこと聞いた。
(はべる…侍る?囲む??男性を…侍らせる…???
えっ……つまり、協力者って、聖女による逆ハーレム要員ってこと!??)
聖女やお姫様、力や権力のある女性を、麗しい男性が囲むのは小説ではよくある展開だけど、目の前でそれが起ころうとしているという事実に、はわわわ、と情けない声がでる。
(あれ…、って事はユリウスさんも…?)
「いってー!なんで叩くんすか、シルヴァン様!?」
「お前がアホだからだろ」
スパーンと小気味いい音のあとに続く、そんな会話を遠くに聞きながら、気づいた事実に、何故か呼吸が少し乱れる。無意識にネックレスの石を握っていた。
「リ…――」
「でも、ヴィーネ王国は一夫一妻制じゃないっすか!聖女様だって、一人を選ばなきゃいけないって知らなきゃ困ると思…いってー!なんで殴るんすか、ユリウスさん!しかもグーで!!!」
「君がアホだからだよ」
国が定めた協力者は、聖女に侍ってサポートし、そして聖女は1人を選ぶ。
(あー…これはゆくゆくの伴侶とか、そんなレベルの話…)
協力者がそういう目的で集められているなら、幅広い年齢層でハイスペックな男性達で構成されているのも納得だ。
「くっだらない…!」
透子さんの声が、沈んでいた私の意識を引き上げる。ソファから勢いよく立ち上がり、私の手を引く。
「協力者なんていらない。興味ないわ!!
いきましょう、莉子」
「あっ、透子さ……」
そのままユリウスさんの方を振り返る事も出来ず、二人で部屋を飛び出し、
「なるほどー、あっちが聖女様だったんすねぇ…」
「…このアホを協力者に推薦したバカは誰だっけ?」
「シルヴァン様の兄君です」
部屋の扉が閉まる直前、3人のそんな会話が聞こえた気がした。
◇
「ほんとに、ほんとに、人のこと馬鹿にして…!!!」
ここが透子さんの部屋なのか、華やかな部屋に連れてこられ、そのまま天蓋付きのベッドに一緒に座らされる。
透子さんは高ぶった感情のまま、枕をベッドに叩きつけていた。飛び出した羽毛がひらひらと宙を舞う。
「男を充てがっとけば言う事聞くと思ってんのか、あのハゲ狸はぁッ!!」
(ハゲてるのか、王様…)
「見損なわないでちょうだい!!!」
透子さんの右手が、ベッドに押さえつけた枕にボスンと突き刺さる。
「…っそんなんなくったって、やるって決めたんだから…最後までちゃんとやるわよ…!
この国の人達の生活、守ってみせるわよ…ッ!!」
「透子さん…」
舞う羽毛のなか、髪が乱れ汗をかき、ぜぇぜぇと肩で息をしながらも、目から輝きを失わない透子さんは美しく見えた。
(素敵だなぁ…。
これは…透子さんの物語、なんだろうな……)
国に求められて召喚された、誇り高く綺麗な聖女様。
眉目秀麗な男性たちが、彼女を守るように取り囲み……。
その中に、ユリウスさんもいるのだろうか…。
(私は…ただのモブだから…関係ない事か…)
「………」
少し暗くなった私の顔に気づいたのか、透子さんが髪の毛を整えて、私の隣に座り直す。
「莉子にも、嫌な思いさせたわね…」
「え、いえ!私には協力者とか関係ない話だったので、嫌とか別に…」
ただあの場に居ただけで、話題は私には関係の無い、聖女と協力者の事だった。私だけ、部外者だ。
「……そんな顔するって事は、胡散臭い笑い方の男だけど、莉子の事はちゃんと大切にしてくれてたのね…」
「え…?」
ふわりと透子さんが私を抱きしめる。少しだけ甘い、花の香りがした。
「あのアホは論外として、あの男は、私に侍ろうとか取り入ろうなんて一切考えてないと思うわよ?
莉子にはあんな壁作ったような話し方しないでしょ?」
「それは…そう、ですが…、でも…」
「……本当に気に食わないけど、……あの執着…じゃなくて……莉子を大切に思う気持ちは本当だと思うわ」
そう言って透子さんが指先で私のネックレスをつついた。
そうすると、まるでそこがふわりと温かくなった気がして、不思議な感じがした。
ユ「シルヴァン様の兄君です」
シ「あー、ユリウスの叔父かぁ…」
責任を押し付け合う大人。




