13.大人っていろいろあるんだなぁ
(なんか、ホッとしたような…。
…って、これじゃまるで、ユリウスさんを取られてショックを受けていたみたいな…)
そんなおかしな考えに、叫び出しそうになりながら真っ赤な顔で首を振る。
その様子を見ていた透子さんは、先ほどまで振り回していた枕を抱きしめながら、話してくれた。
「…私の親友にも、独占欲が強い彼氏と付き合ってた子がいたのよ。
友達より彼氏を優先するのはムカついたけど、2人の仲はすごく良かったし、まぁいっかって思ってたら、そのまま囲われるようにして結婚してたわ。そこからは、まぁ連絡はつくけど、なかなか会えなかったり?それでも本人が幸せならいいんだけどね?
…べっつに、小さい頃から仲良しだった親友取られたとか、悔しいとかないですけどっ!!!?」
ボスンと音をたてて、また殴られた枕。
よくわからないけど、大人っていろいろあるんだなぁ…。
「だから…っ」
「?」
「…だから、莉子が本当に幸せなら、……それで良いと思うわ」
「透子さん……。ありがとうございます」
(――正直、独占欲の彼氏とか、結婚生活とか、それが何故私に繋がるのか、人生経験が浅すぎて、理解出来ないとこも多かったけど…!!)
でも多分、私を励まそうとしてくれている。そして私の幸せを願ってくれている。
その事が嬉しかった。
ブレスレットを揺らしながら、透子さんの華奢な手が私の頭を撫でる。
当たり前だけど、ユリウスさんにされるのとまた違う感覚なのだなぁと思ってしまった。
なんだか無性にあの大きな手に撫でて欲しくなって、そろそろ戻ろうかなと思った瞬間、部屋にノックの音が響き渡った。
「――聖女様、そろそろリコを返して頂けますか?」
(ユリウスさんだ!!)
聞き慣れた声に自然と笑みが浮かぶ。
透子さんがドアを開けると、ユリウスさんと、先ほどは不在だった王子の姿があった。
「トウコ、すまない…。エドガルドから不快な発言があったと聞いた」
「……テオのせいじゃないでしょ。別にもう良いわよ。
でも、あの場でも言ったけど、協力者とか必要ないから、今後はそういった名目で関わらせないでちょうだい!特にあの駄犬!!」
「駄犬…」
確かに犬っぽかった。ユリウスさんにまで叱られていたけど、反省したのだろうか?
「それから、私は結婚なんてするつもりないから、縁談とか一切持ってこないでちょうだい!」
「えっ」
透子さんの生涯独身宣言に、王子の動きがぴたりと固まる。おやおや?
(これは婚姻で制御する事が出来なくなった事への焦りか、もしくは個人的になにか…?)
なんて勝手な考察に口元が緩みそうになっていると、ユリウスさんが私の肩に手を置いた。
「リコ…後で僕に時間をくれないか?
…自分の口からきちんと説明したいんだ」
「ユリウスさん……わかりました。お願いします」
そう頷くと、ユリウスさんは少しだけホッとしたように表情を緩めた。
◇
侍女が持つランタンの灯を頼りに、暗い渡り廊下を歩き、温室に辿り着いた。
温室の中のウォールランプにはすでに火が灯してあり、中央にあるラタンとガラスで出来たテーブルにはグラスとワインボトル、それからチーズとナッツ、ドライフルーツの乗った皿が置いてあった。
そこで、ラフな服装のユリウスさんが座って待っていた。
「お待たせしました、ユリウスさん」
「こちらこそ、こんな時間まで待たせてしまって悪かったね」
あの後、私は乗ってきた馬車で屋敷まで帰ったけど、ユリウスさんは城での仕事があったらしく、帰宅が夕食の後になっていた。
「寒くはない?」
「大丈夫です」
秋の夜の温室は冷えやすいと、侍女達が暖かめのガウンを着せてくれたので、特に寒さは感じない。
庇護欲を刺激する可愛いクシャミなんてしない。モブだから。
「そっか。……僕は少しだけ寒いかもしれないなぁ」
「あ、毛布でも貰ってきましょうか?」
植物の陰で姿は見えないが、侍女たちが入口近くで待機しているはずだ。
そう提案すると、ユリウスさんは首を振りながら私の傍まで来て…
「リコの温かさを借りる事にするよ」
「ひゃあああッ!???」
私をひょいと抱き上げた。そのまま何事もなかったかのようにラタンの長ソファへ戻り、私を膝に乗せたまま座り直す。
(膝上抱っこ再び!?…って…)
「ユリウスさん、もしかして酔ってます…?」
つまみならチータラが好きです。




