14.逆ハーレム要員だなんて
「ふふ、酔ってないよ。リコが来るまでに少し飲んだだけだから」
そうフニャっと笑って、私の肩口に頭をうずめるユリウスさんからは、ほのかにアルコールの香りがして…
(…酔ってる!これ、絶対酔ってるやつ!!
え、ユリウスさんってお酒弱いの!?ど、どどどどうしよ!??)
侍女を呼ぶべきか、戸惑うように前に出した手が、大きな手に包みこまれる。そのまま甘えるように指が絡めとられ、呼吸が止まりそうになる。
(うああ…み、水でも飲ませた方が良いんじゃ…)
「……僕の、お祖母様が、先代の聖女だったんだ」
「!」
いつもよりも小さいけれど、低く落ち着いた声が、耳に届いた。
「お祖母様は18歳で聖女に就任して、半年前に亡くなるまで、その一生涯を聖女として過ごした。
…その間、ヴィーネ王国では浄化のスキルを有した者が生まれなかったんだ」
この世界の結婚適齢期は分からないけど、ユリウスさんのお祖母様ということは、若くても60から70歳くらいだろうか。
その期間1人も聖女が誕生しないというのは、さぞかしやきもきしただろう。
「聖女召喚の準備が始まったのは、僕がまだ5歳の頃だった。
テオドールと木登りしていた時に呼ばれて、叔父上に…国王に言われたよ。『来たるべき聖女様の為に、その身を捧げよ』ってね」
「それって…」
「エドガルドが半端に言っていたけど…それが今日話した『協力者』の正体。
僕らは異世界から来た聖女様が、この世界で快適に暮らせるよう支援しながら、国から離れないよう情を抱かせ、自ら貢献したいと思えるように誑かすのが役割だったんだ」
(なに、その役割…。思ったより重い……!!)
うまく返答が出来ず、開けた口から音にならない声しか出てこない。
(…逆ハーレム要員だなんて簡単に考えて、すみませんでしたぁぁぁッ!!!)
すぐ、小説やアニメと混同して、軽く考えてしまうのは悪い癖だ。
「…そのための手段として、聖女様と婚姻が出来そうな者が選ばれていたんだ」
「な、なるほど…」
気の利いた事も言えず、やっと出てきた言葉は間抜けな響きだった。
確かに、見知らぬ異世界に来ても、見目麗しい男性に支えられたら頑張ろうって思っちゃうだろうし、そのまま結婚なんてストーリーもよくある話だ。
でも…、
(その役割を押し付けられた側からしたら…理不尽だよね…)
ここは現実で、それぞれに意志がある。
「……小さい頃から、とんでもない重圧に耐えてきたんですね」
本当は頭を撫でたかったけど、後ろからお腹を抱きしめられていては届かない。
失礼かとも思ったけど、体を出来るだけ捻って、彼の頬を撫でさせてもらった。
想定外だったのか、ユリウスさんの驚いた表情が視界の端に映った。
アルコールのせいか、撫でた頬が少しだけ熱い。
「……軽蔑、していない?」
「え、しませんよ!?…それを5歳に提案してきた王様は少し軽蔑しますが…。
ユリウスさんは、誑かすとかそんなのなくて、召喚されて困ってた人を助けてくれただけの、とても優しい人です」
聖女じゃなくて私でしたけどね、と笑って言えば、お腹に回された手に力が入った。
ぽつりと、「濃い黄緑色だ…」とか聞こえたけど、その辺にある葉っぱの色だろうか?
しばらくお腹の圧迫感に耐えていると、ふと、ユリウスさんの腕から力が抜け、ようやく解放された。
その隙に膝を降り、長ソファの隣に座った。
私が俊敏な動きを見せたからか、ユリウスさんは小さく笑いながら、侍女が新たに持ってきたぶどうジュースをグラスに注いで渡してくれた。
「……あの後、聖女様の意向という形で、国王に奏上したよ。今の聖女様には全く持って逆効果だから、誑かす目的の協力者は解体すべきだってね。
始めは渋っていたけど、エドガルドの失言で最低評価になっている事も伝えたら、認めてくれたよ」
だから今日の帰りが遅かったのかと納得した。
ユリウスさんがグラスを少し傾けると、赤ワインがゆらりと波打つ。
「でも、本来の意味での協力者としての組織は残っているよ。
いくら心根の強い聖女様でも、後ろ盾は必要だからね」
侍るような事はしないよ、と続けるユリウスさんの言葉にほっとする。
「透子さんも味方がいれば心強いでしょうね。
それに…ユリウスさんが物理的に寄り添う必要がなくなって、良かったです…」
「え?」
「はっ、いえ、その…と、透子さんとユリウスさん、なんだかピリピリしてる気がするので!うん!!適度な距離感が良いと思います!!!」
慌てて言葉を追加すると、ユリウスさんにしては珍しく少し口元を緩ませながら、私の口にドライレーズンを入れてきた。強制給餌、再び…!
おや?赤ワインとぶどうジュースって、見た目が似てますねぇ…(隠す気のないフラグ)




