45.私はこのままが良いです
「でも…あの令嬢の言う通り、間違いなく君は綺麗だよ」
トウコには似てないけどね、そう言いながら私の目尻にキスをする。彼の唇が触れたところに熱が集まって赤く染まったのを感じた。
「ッゆ、リウスさんっ!外です!!だめです!!!」
「ふふ、それじゃ帰ったらたくさんするね」
「そういう問題じゃありません!!」
なんて真っ赤な顔で言っていると…
「――ユリウス様、ごきげんよう」
今度はワイングラスを持った細身の御婦人から声をかけられた。
「叔母上、どうも」
ユリウスさんの言葉でその正体を知る。
ユリウスさんの叔母さん…ドロシーさんのお母さんか。と言うことはどこぞの伯爵夫人?
一見するとたおやかで優しそうな方だけど、ドロシーさんに「身の程知らずの泥棒猫に、格の違いを見せつけなさい」なんて指示していたのだ。人は見かけによらないものだ。
「そちらがご婚約者様ですね…。ご婚約が整ったなんて聞いて驚きましたわ。うちのドロセアはユリウス様を実の兄のように慕っていたものだから、きっとショックで泣いてしまうでしょう…」
(それどこの次元のドロセアさん??)
少なくとも、ユリウスさんの弟さんの事が好きで、ユリウスさんに対しては威嚇する子猫のような、私の知っているドロシーさんではなさそうだ。
今度は紹介されて挨拶をする。伯爵夫人は私の全身にサッと視線を走らせ、ユリウスさんの色で揃えられた装飾品に眉を寄せる。
そして1つだけ橙色が入っていないネックレスに気づいた後、儚げに少し困ったような表情を浮かべた。
「あら…ネックレスだけ他の宝飾品と合っていないご様子ですわね。ご自身で選んでしまったのかしら?リコさんはこういった事にはまだ不慣れなのね。見た目は煌びやかだけれど、協調性は大切ですよ」
そう言われて思わずネックレスに手を伸ばす。これは確かに他の物のように新調したものではない。けれど、私が選んだものでもない。
どう伝えようかと思っていると、背後からカツリと靴音が響いた。
「――あら、わたくしが選んだネックレスが、協調していないと仰るのかしら?」
「おっ、お義姉様っ!?」
アシュフォード公爵夫人のその言葉に、伯爵夫人の顔が僅かに青ざめる。
そう、この豪華なフリンジネックレスは公爵夫人が貸してくださった物だ。
すでに頂いている琥珀のネックレスがあるから、他のネックレスは欲しくないという私のワガママを聞いて、夫人が選んでくださった。
ちなみに琥珀のネックレスは屋敷でお留守番中です。
「先代聖女様であるお義母様から譲り受けて、わたくしの一等のお気に入りだったのだけど……まだ若いリコさんには派手過ぎたかしら?」
先代聖女と元王女が愛用していたネックレス。その重みに、伯爵夫人が「いえ…そんな…」と言葉にならない声を小さく漏らしながら震える。
「ごめんなさいね。リメイクして改めてお渡しするわね」
きっと思い入れのある大切な物なのだろう。いろんなネックレスを出しては悩み、「やっぱりこれかしら」と嬉しそうにこのネックレスを出してくれた公爵夫人の姿を思い出して、思わず「いえ!」と声を張り上げた。
「…これが似合う、公爵夫人のような先代聖女様のような女性になりたいので、私はこのままが良いです」
「…まぁ」
見た目だけ綺麗にしてもらった今の私では、背伸びをしている感が否めないので、外見も内面も磨いて、いつかこれが似合う女性になるんだと目標を定める。
そんな事を考えていると、
「「可愛い…」」
「ええええ!??」
両側からユリウスさんと公爵夫人に抱きしめられていた。
さらにネックレスがほんのり温かくなったけれど、戸惑いの方が勝ってそちらには気づけなかった。
そうこうしている間に伯爵夫人はいなくなったようだった。
◇
その後も何人かの方々と挨拶を交わしたけれど、ユリウスさんと公爵夫人、それから合流したアシュフォード公爵が居てくれたおかげで、特に困ることもなく平和に時間は過ぎていった。
(あれ?確かあの人は『何とか』様?)
鑑定スキルがある人で、召喚儀式の時に1度だけ会った人だ。名前は覚えていない。
少し離れた場所で、孫娘のような女性に「わたくしの方が聖属性が強いのでしょう!?わたくしの方が良いって、あの方に紹介してくださいませ!」とかねだられてるけど、何とか様は「いや、でも今見たら、なんか強くなってて…」とかなんとかモゴモゴ言ってる。
何があったんだろうか?ユリウスさんも分からないようで、少し首を傾げていた。
公爵夫人だけ扇の下で訳知り顔をしていたけれど、何か知ってるのだろうか?
(まぁ、私には関係ないことだろうなぁ)
――やがて宴も終盤となり、主催者である王家からの閉会の挨拶をもって、賑やかだったお披露目会は無事に幕を閉じた。
トウコにもいろんな子息から婚約の話があったけど蹴散らしてた。




