42.それは初耳
「前に言っていた、結婚相手の条件に当てはまるって話、真に受けてもいいですか…?
スキルも血筋も何も持ってませんが、私でも…ユリウスさんの隣に立てますか…?」
(貴方とこの先も一緒にいたい。一緒に生きていきたい…!)
震える声でそう訊ねると、ユリウスさんの見開かれたはちみつ色の瞳から、涙がポロリと……
「ゆ、ユリウスさん!?」
「ご、ごめん。嬉しくて…」
ユリウスさんは少し呆然としたままの表情で、自身の涙に触れ、それから何かを噛みしめるかのように、くしゃりと泣くように笑った。
「…君が、リコがそんな事言ってくれるなんて思ってなくて…、すごく幸せで…。
僕はただ、君が逃げられないように、外堀を埋める事しか考えてなかったから…」
なんか不穏な事言ってる…!!
噂の件で薄々感じてはいたけど、やはり着々と外堀が埋められつつあったようだ。
(完全に捕獲される前に、自分から伝えられて良かった…!!)
「……その…魔物の森で後悔したんです。
私はずっと自分の事をモブ…脇役だと思ってました。脇役だから、何の力もないんだ、捨てられたんだって。
…でも死ぬかもと思った時に、すごく悔しくて。自分で自分の可能性を潰して、ユリウスさんにも釣り合わないなんて身を引いて、こんな人生のままじゃ嫌だって気づいて…」
(ユリウスさんが好きだから、後悔しないように頑張ろうって思ったんだ…!)
再びぎゅっと強い力で抱きしめられ、最後まで言葉にすることが出来なかった。でも、何となく伝わったような気がして、そっとユリウスさんの背に手を回して、体を委ねた。
「君の心はいつもまっすぐで、心地が良くて、くすぐったいね…」
「へ?」
「……本当は、お披露目会の時に婚約者として紹介される手筈だった」
「それは初耳…!!!」
何も聞かされずに当日それはエグすぎる。きっと混乱しすぎて、それ以降の記憶は何も残らないだろう。
「そうでもしないとリコは婚約の話から、逃げてしまうと思っていたから。
少し前…それこそあの事件の前だったら、身を引こうとしただろう?」
「そ、それは否定出来ません…」
「でも君は僕を選んでくれた。それが堪らなく嬉しいんだ……」
そう言いながらユリウスさんが私の肩口に顔を埋める。肌が濡れる感触がしたので、もしかしたらまだ泣いているのかもしれない。
彼の気持ちが落ち着くように、そっと背中をトントンと優しく叩く。
(…もう、逃げない。ユリウスさんに貰った気持ちを、私もこれからたくさん返して……うんん!??)
モゾっとユリウスさんが首を動かすと、首筋や鎖骨辺りに何か柔らかい物が押しつけられる感触が……!?
「ゆ、ユリウスさん!?ちょ、何して…ッ!!?」
そのままネグリジェの襟元が僅かに捲られ、現れたデコルテに顔を寄せるユリウスさん。そこにキスをした後、ペロリと肌を舐められた。
「……ダメ?」
そんな破壊力抜群の顔で甘えるように上目遣いで見上げられると、心が激しく揺さぶられるけど……っ
「そッ、そういうのは、まだダメですーーーーーッ!!!
ああああ、アグネスさん!アグネスさん、助けてっ!!溶かされる!!!」
このままだと本当に食べられてしまう!!
私のヘルプにシゴデキ侍女はすぐさま駆けつけてくれて、迫り来る貞操の危機から救い出してくれた。
アグネスさんに渡されたショールを頭からすっぽり被って、真っ赤になった顔を隠す。
アグネスさんの陰から警戒するように窺い見ると、ユリウスさんはとても楽しそうにクスクスと笑っていた。
「残念、今日はここまでだね。僕に溶かされる前におやすみ、リコ」
「……おやすみなさい、ユリウスさん」
確かに気持ちは伝えられたし、ユリウスさんも喜んでくれた。
その目標は達成したけど…
(なんだか身の危険度が増した気がする…!?)
…なんて思いながら、私はアグネスさんと部屋に戻るのだった。
シゴデキ侍女アグネスさん




