41.すごく嬉しいんだ
ユリウスさんが、まるで壊れ物でも触るように、優しい手つきで頬を拭ってくれるが、涙は後から後から零れネグリジェに染み込んでいった。
「ま、魔物が出るような危険な森なのに、助けにきてくれて、ユリウスさんの姿を見てすごくホッとしました。
それで、……好きだと、言ってもらえて、……キスをされて……すごく、嬉しかった……ッ!」
ユリウスさんのシルクのシャツに皺を作りながら、もはや彼に縋るような姿勢で、想いの丈を吐き出す。
「――好き…っ。…ユリウスさんの事が、好きなんです…!!」
「―――っ」
「私、何も持ってない……何も差し出せないのに、でも、貴方が…」
好き、という言葉は、重なった彼の唇に飲み込まれた。
以前、城のベッドでした優しいのとは違う、噛み付くようなキスは頭が痺れる様な衝撃で。
咄嗟に離れようとする私を、逃さないとでもいうように頭に大きな手が回された。
唇を食むような動きに驚いて僅かに口を開くと、そこにユリウスさんの舌が差し込まれ、固まっている私の舌に絡まる。
(な”、ななななな、なんっ、なん!!!??)
初めての感覚に目が回りそうになりながら、ユリウスさんの服を握りしめて必死に耐える。
どこで呼吸をしたらいいのか分からず、息苦しくなってしまい顔を背けると、ソファの上に押し倒されて、もう一度捕食されてしまった。
角度を変えて何度も合わさって、時たま頬にキスされて、また唇に戻ってくると少しだけ涙の味がした。
そうして暫くの間、翻弄され…
「も、もう無理ですぅ………ッ!!」
私が顔を手で覆い、全く力の入らない声でギブアップすると、ようやく解放してもらえた。
ちらりとユリウスさんを覗き見ると、僅かに呼吸を乱す彼の目尻は赤くなっていて……ダメだ!とても目の毒!!!
慌ててもう一度顔を隠した。
「…リコ……好きだよ。可愛い顔を見せて」
「ひぃぃぃぃ!!!!」
ダメだ、今度は耳から溶かされてしまう!!叫んでいると、体が抱き起こされそのまま膝の上に乗せられた。
はい、定位置ですね。でもいつもと向きが違う。私がユリウスさんを跨いで向かい合って座っている体勢だ。
(近い!近い!!!)
潤んだ瞳のユリウスさんの顔が目の前にあり、非常に心臓に悪いのに、ユリウスさんはそんな事お構いなしに、私の頬に何度もキスをしてくる。
待って、そろそろ止まって…!!
「すごく嬉しいんだ…。リコ、ありがとう」
そう言って柔らかく笑う顔を見たら、なんだか無性に愛しくて、恥ずかしさなんて気にならなくて。
温かい頬に手を添えて、その唇に自分からちょっとだけ触れるキスをしてしまった。
「………リコは今日を僕の命日にするつもり?」
「…ええと、ユリウスさんの方がもっと凄いことしてましたけど……」
「――可愛い。食べてしまいたい」
「食べっ…!?」
このままの体勢でいると、生命的か性的にピンチが訪れそうだ。どちらにしても困る。
少しだけ体を離して、コホンと咳を一つして気を取り直した。
「あの、それで…さっきの続きなんですが…。聖女の妹という肩書がついただけで、私には何もありません。次期公爵であるユリウスさんの隣にはふさわしくないかもしれない…」
「リコ、それは…ぅ」
言葉を紡ごうとするユリウスさんの口にそっと手を当てる。
優しい貴方は否定してくれるかもしれない。でも今は、私の気持ちを全部聞いて欲しい。
「…本当ならもっとユリウスさんに相応しいご令嬢がいるんだと思います」
以前ここに届いた釣書の山を思い出す。
きっと根っからの貴族令嬢で、綺麗で素敵な人がたくさん、ユリウスさんの事を慕っている。
「でも……誰にもユリウスさんの隣を譲りたくないです…」
膝に乗せるのも、キスをするのも、私だけがいい。誰かに愛を囁くユリウスさんを見たくない。
そんな、子供のワガママのような陳腐な感情に、手が震える。
肉食獣の味見タイム。




