36.異世界の常識ワカラナイッ!!
しゅると肌着が擦れる音がして、メジャーが私の身体から離れる。
アグネスさんの言う数字を用紙に控えていたベリンダさんが「あら」と嬉しそうに声をあげた。
「リコ様、少し女性らしい体付きになられましたね。先月よりもバストとヒップの数値が増えていますわ」
「え、本当ですか?」
たった数センチ、されど数センチ、少しだけ成長を遂げた自身の身体にひそかに感動する。
そう言われて見ればふっくらしたような、してないような…。見た目ではよくわからないようだ。
「ユリウス様とのお茶会の効果が出てきたようね」
「毎回、ご自身の膝に乗せて、手ずから食べさせておりましたものね。愛を感じます」
「う”うううううッ」
侍女だからお茶会の時も側に控えているし、膝抱っこからの給餌も見られていて当たり前だけど、こうして面と向かって言葉にされると猛烈に羞恥心が刺激されるっ…!
(だけどユリウスさん、どうしても止めてくれないし…!強く拒絶すると捨てられた子犬みたいな顔になるのズルすぎる…!!!)
顔の使い方を良く理解している方である。あざといイケメン、けしからん。
さらに、あの事件以来スキンシップが明らかに増していて、毎日私の心臓は早鐘級に動かされている。
(恋人でもなんでもないんだから、何とか口へのキスは死守してるけど…でも、でも、耳とか首とか、セーフなの!?異世界の常識ワカラナイッ!!!)
私が内心で悶え転がっている間に、アグネスさんはメジャーをベリンダさんに渡し、私にミントグリーンのワンピースを着せてくれた。
本来ならばデイドレスとかいうのを着なければならないのだろうけれど、それを着たら締め付けでまともに動ける気がしない。
私に合わせて、いつも動きやすいワンピースやブラウスとロングスカートを用意してくれる侍女達には感謝しかない。
「デビュタントのドレスの寸法も、少し調整した方が良さそうですね」
「でも見た目は変わってないですし、注文後の変更って手間じゃないですか?」
「いいえ、ドレス制作の過程ではよくある事です。
それに、わたくしもユリウス様も、リコ様を一番美しく魅せるドレスを作りたいのです」
そう温かく笑ってくれるアグネスさん。その期待に応えたい。
全部完璧は無理だとしても、歩き方、喋り方、マナー…くらいはなんとか…!!
(だ、ダンスはちょっと…運動神経の関係で、出来れば見学をさせて頂きたい…)
ともかく、デビュタントまでにやるべき事はまだまだたくさんある。頑張ろう!
(それに…ユリウスさんに、こ、告白も……)
「奥様もリコ様のデビュタントに意欲的ですし、明日到着されて早速アクセサリー選びをなされるかもしれませんね」
「うっ…!」
そう、聖女のお披露目に合わせて、ほとんど全ての貴族が王都に集まるらしい。
つまり、今まで領地にいてお会いしたことのないアシュフォード公爵夫妻も…!!
(泥棒猫とか身の程知らずの庶民とか、言われて追い出されないように気をつけなくちゃ…!あれ?これどっかで聞いたフレーズだな??
…ともかく!)
「不興を買わないよう、がんばります…!」
◇
なんて思っていたけれど…――
(…ダメだ、いきなり追い出されるかもしれない…!?)
出会って1分、挨拶をしただけで無礼を働いてしまったのだろうか、アシュフォード公爵の眼光は著しく鋭く、無言かつ無表情でこちらを凝視している…!!視線で穴が開けられるのではなかろうか。
金茶の髪を後ろに撫でつけた偉丈夫の目の前で、体の震えを必死に抑えていると、スラリと上品な夫人が、公爵の肩を軽く叩きながら前に出てきた。
「あなた、そんなに見つめてしまっては怯えさせてますわよ」
「…む、すまん。……元飼い猫に似ていると思ってつい…」
「この人、顔が怖くてごめんなさいね。悪い人ではないの。
改めて、アシュフォード家へようこそ。これから宜しくね、リコさん」
「は…はい!よろしくお願いします!!」
ユリウスさんみたいな優しい微笑みで挨拶してもらい、ほっと胸を撫で下ろす。その様子を見て、ユリウスさんが私の手をぎゅっと握って小さく笑った。
小動物が好きだけど怖がられる公爵。もっぱら見る専。




