35.勝手に来ちゃった!
肌をピリピリと刺すような圧倒的な威厳に気圧されて、はくはくと唇を動かすが言葉が出てこない。
(あと、なんか変なフレーズ入ってた…!!)
「…おや?喋れなくなっちゃった?
ごめんごめん、これ僕の威厳のスキルでね、王様モードの時はこれないと雰囲気でないんだ」
王様が喋り方を戻してそう言うとスキルが解除されたのか、部屋の空気がフッと軽くなった。
確かに先ほどは、the国王!という圧巻の重厚感だったけれど、こんな激しいオンオフ見たことない。
「え、ええと…聖女の妹っていうのは…??」
「あぁ、まだ連絡がいってなかったのか。それはね……」
「叔父上!!!」
凄まじい音をたてながら激しくドアが開かれ、無表情のユリウスさんが立っていた。え、なに、こわい。
「やぁ、可愛い甥っ子のユリウスじゃないか」
「…何故ここにいるのですか?」
「もー、怒りなさんな。ユリウスの宝物になかなか会わせてもらえないから、勝手に来ちゃった!」
「リコ、大丈夫?変な事されてない?」
人のことなんだと思ってんだ、という王様の声を背中に受けながら、ユリウスさんは私の顔を両手で包んで覗き込む。その近さに少しだけ頬に熱が灯った。
「おや〜?これは子孫繁ェブッ!!」
ユリウスさん、その枕を叩きつけた相手は国王なのですが、大丈夫ですか…!?
「宰相が探してましたよ。そのニヤケ面をなんとかして、さっさと出ていってください」
「はいはい、お邪魔虫はとっとと退散しますよーと。
リコ、また会おう」
私が頷くと、王様は手をひらひらと振りながら部屋を後にした。
(そう言えば王様、フサフサだったな…?)
ハゲ狸って何のことだったんだろ…?
そんな事をぼんやりと考えていると、先ほどまで王様が座っていた椅子に、今度はユリウスさんが腰を下ろした。
「本当に変なこと言われていないかい?あれでも国王だから、国の利になることには強引なところがあるからね…」
「いえ、全然なにも……あ、そう言えば、私の事を聖女の妹だと言ってました。私、透子さんと血縁者ではないのですが…」
その意味を聞く前に帰ってしまった。
閉められたドアを見ていると、ユリウスさんが「あぁ」と頷いた。
「トウコが提案したんだよ、せっかくだから妹にしてしまおうって。【聖女の妹】なら、今よりリコの立場が強くなるからね」
「私のため…」
「これで公式に妹扱い出来るって張り切っていたよ。とんでもない姉が出来たね」
「ふふ、嬉しいです。…あ、それで変な名字になってたんですね」
透子さんの川澄と、私の三宅が合体して「カワスミヤケ」。安易な名付けに笑みがこぼれる。
顔は全く似てないけど、トウコさんと切れない繋がりが出来たようで胸が温かくなった。
(透子さんがお姉ちゃんになってくれるのかぁ…へへ)
目覚めて以来、毎日のように様子を見にきてくれる彼女の事を思い出していると、おもむろに手が握られた。
「だから聖女のお披露目の時に、君も貴族に紹介することになったんだ。お披露目会だ。
…リコに似合う白いドレスを用意しないとね」
「デビュタントっ…!?」
貴族に!紹介!お披露目!??なんて恐ろしい!!
完全聖女で美人な透子さんならともかく、こんなちんちくりんなモブ…――
(…ううん、モブなんかじゃない)
「がっ、がんばります…ッ!!」
私が勇気を振り絞ってそう宣言すると、ユリウスは少し意外そうな顔をして、でもすごく嬉しそうに甘く微笑んだ。
「僕のお姫様がやる気を出してくれて嬉しいよ」
「ひぃっ」
チュッと音を立てて、私の手にユリウスさんの唇が当たる。
「エスコートは任せてね」
色気たっぷりの上目遣いでそう言われては、私は壊れた人形のようにカクカクと頷く事しか出来ない。
「よ、ろしく、お願い、します……」
この前はもっとすごい事をされてしまったのに、たかが手のキスでも真っ赤な顔でガチガチに固まる私に、ユリウスさんは楽しそうに笑うのだった。
(――ちゃんと……、私の気持ちも、伝えないと…!!)
そのお披露目会とやらまでに、ありったけの勇気をかき集めよう…!
テオドールの堅物真面目なとこは王妃似。




