33.トウコ③
私の言葉に国王が重々しく頷き、審議室の空気が一段と張り詰める。
「――グリムワルド侯爵。事態は明白だ。国の命運を左右する聖女との契約を脅かし、我が国の庇護下にある重要人物を危険に晒した。
……罪の裁量と、身内の始末、貴殿はどのように考える?…申してみよ」
「……はッ」
宰相は痛みに耐えるように固く目を閉じると、深く頭を下げた。
「……すべての原因は、娘の愚行を抑えられなかった私の不徳にございます。
聖女様、ならびにここにはおられぬリコ様に、心より深謝申し上げます……」
床に深くおでこを擦り付けた後、宰相は覚悟を決めた面持ちで顔を上げた。
「…願わくば、私と娘、二人分の毒杯を賜りたく……ッ」
「おと、お父様……!?」
死刑の申し出に、それまで呆然としていた女…ヴェロニカの顔から一気に血の気が引いた。父親に見捨てられたのだと悟り、絶望に目を見開いて震えている。
貴族社会に馴染みのない私には理解出来ないが、国に逆らうという事は死で償うほどの罪なのだろう。けれど…
(死んで終わらせようだなんて、そんなの莉子が望むわけがないじゃない…!!)
「――勘違いしないでちょうだい」
冷ややかな私の声が室内に響く。
「死で償うなんて許さないわ。生きて苦しみぬきなさい」
「……聖女様……?」
呆然とする宰相を見下ろし、私は腕を組んでフンと鼻を鳴らした。
「私、まだこの国に来たばかりで求心力も低いし、周りから舐められがちなの。だから宰相である貴方が私の盾になって守りなさい」
娘には甘いが、有能な宰相をみすみす手放すわけがない。
「私が聖女としてこの国の国民から正しく受け入れられるよう、貴方が尽力しなさい!
……職を辞して死ぬなんて、絶対に許さないわ」
「ハハハハハハッ!…聖女殿の言うことも最もだな。隣国と牽制しあう今、安易な死で宰相の座が空くことは避けるべきだ。
…どれ、グリムワルド侯爵。この聖女殿の盾となり、今まで以上に国を守りきる気概はあるか?」
「……勿論で御座います!…この命、聖女様と国のために死ぬ気で捧げさせていただきます……!」
涙を浮かべて平伏する宰相を見届けてから、私は視線をヴェロニカへと移した。
(正直この女の方は、娼館送りでも処刑でもしたいくらいだけど……)
万が一にもその凄惨な末路が莉子の耳に届いて、あの子が胸を痛めるような真似だけは絶対に避けたい。
莉子が悲しまない、且つこの女が地獄を見る罰を…。
「娘の方は……そうね。ご令嬢に不人気な修道院ってどこかしら?」
私が尋ねると、隣に立つユリウスが冷徹で美しい笑みを浮かべて答えた。
「北の修道院は戒律が厳しく、罪を犯した女性が送られることが多いようですが……『不人気』という意味では、南の修道院ですね。
あちらは一般的な修道院ですが、夏が非常に長い地域です。毎日汗を流しながらの泥臭い労働と、強烈な日差しで肌が真っ黒に焼けるため、貴族の令嬢からは最も忌避されています」
「ふぅん、汗くさ紫外線マシマシな職場ねぇ」
事前に教えてもらった情報では、北の修道院での労働は、主に刺繍などの手仕事やデスクワーク。南の修道院での労働は、畑仕事などの外労働が多いそうだ。
確かにそれなら前者を選ぶ者が多いでしょうね。
「それから…土地柄、湿気と熱気で虫が大量発生するのも、忌避される大きな要因かと」
「あら、常識知らずの箱入り娘には格好の教育環境じゃない。決めたわ、そちらに送りましょう」
「そんな…お父様、いや、嫌です……わたくしが、修道院などに…!!いや、いやぁぁぁ!!!」
涙を流しながら宰相に縋り付くが、娘には一瞥もくれず、宰相はただ深く頭を下げた。
「聖女様のご配慮……深く感謝申し上げます」
―――こうして、非公式の断罪は、幕を閉じたのだった。
南の修道院では良い筋肉が育つそうです。




