31.トウコ①
――私があの時、鍵を落とさなければ、莉子はこの世界に巻き込まれなかったのだろうか…。
「…あの、鍵、落としましたよ」
コンビニで声を掛けられて振り返ると、そこには野暮ったい格好をした少女がいた。高校生か大学生くらいだろうか。
(もっとオシャレすれば良いのに…。まぁ学生なんてこんなものか。
妹もよくダサTシャツとか、意味わかんない服着てたなぁ)
今度実家に帰った時には、服でも買いに連れて行ってやろうかしら、なんて懐かしく思いながら、目の前の少女にお礼を言いながら鍵を受け取る……いや、受け取ろうとした。
その時、僅かに手が触れていたからなのか、そのまま私達2人は謎の光に包まれて、この世界に落とされたのだった――
少女は、莉子は、自己主張の少ない子だった。まだ子供だから状況についていけて無いだけかもしれない。
でも、巻き込まれただけの被害者なのに、まるで自分には価値が無いのだと言わんばかりの表情が、どうしてもほっておけなかった。
莉子の預け先になったユリウスとかいう優男は、悪い人間では無いとは思うけど、どうにも信用ならない。
よく言えば距離感を弁えた、悪く言えば他者との間に壁を作り、そこから一歩引いた冷たい人間に見えた。
ただ、そいつのおかげで莉子は少しずつ明るくなっていったし、そいつ自身も莉子に絆され、とても大切に扱っている事は理解できた。
(まぁ、莉子も惹かれているようだし?多少の独占欲は目を瞑るけど?)
――だから、このまま、莉子にもこの世界で幸せになってほしいと。
……そう思っていただけなのに。
「リコ…?リコ??」
森で助け出された莉子が、ユリウスの腕の中で気を失った時は、何か大きな怪我でもしていたのかと血の気が引いた。
後になって、ただ緊張が解けただけだろうと聞いてホッとしたが、それでも眠る莉子の体に巻かれた包帯に、胸が締め付けられるように苦しくなる。
ただの森でも置き去りにされたら恐怖でしかないのに、莉子は魔素の漂う薄気味悪い森でさまよい、あげく蛇の魔物に襲われそうになっていたのだ。
(安全な場所で、幸せに暮らして欲しかったのに…ッ!!!)
許せない。自分勝手な理由で莉子を危険に晒したあの女を、私は絶対に許さない…!
◇
(あの女が元凶…)
テオが主体となり罪状を読み上げていくが、女に罪の意識は全くないのか、訳がわからないといった様子でユリウスに助けを求めるばかりだ。
その目に浮かぶのは狂気じみた恋心。
白馬に乗った王子様が、こんな茶番から助け出してくれると信じ切っているのだろう。
曰く、ユリウスが処分に困っていたゴミを、代わりに片付けただけだ、悪い事など何もしていない、と。
喋る許可が降りていない宰相が額に汗を浮かべながら、唇を強く噛み締めているのが見えた。
(可愛いお嬢さんをさぞ甘やかして育てたのでしょうけど、……教育を間違えたわね)
続いてユリウスからの証言、国から預かっている客人が攫われた、その際に公爵家の使用人が害された、という発言に、初めて女は顔色を変えた。
「――これは、我が家に対する明確な敵対行為と受け取ります」
「そんな…誤解ですわ!いずれわたくしの身内となるのですもの、公爵家の方を傷つけるつもりはなかったのです。あいつらが勝手にした事ですわ」
この女に罪の意識がこれっぽっちも無かった事が災いして、命じられた下っ端達も、公爵家の関係者を誘拐という大それた事をしてしまったのだろう。
隠す気も無かったようで、王都を出る際も侯爵家の名前を出していたそうだ。
「それにユリウス様も、汚らしい平民を押し付けられて迷惑してましたでしょう?わたくしは憂いを晴らすお手伝いをしただけです」
汚らしい平民、ねぇ。
この後に及んで、まだ状況判断が出来てないのかしら。
「オートセーブを信じるな」とか「顔面優勝」とか書いてある謎Tシャツをよく着てた透子妹。




