29.ユリウス⑥
女が悪びれもなくリコの誘拐を明かしてすぐ、グリムワルド侯爵とその娘の身柄を拘束する。
侯爵は青ざめた顔で大人しく従っていたが、娘の方は意味がわからないと喚き散らしていた。
そして王家協力のもと、この女の命令に従った侯爵家の手の者を即座に捕らえ、リコの居場所を吐かせた。
「頭を殴って気絶させて、麻袋に詰めて魔物の森へ置き去りにしただと…!?」
正義感の強いテオドールは信じられないような表情をするが、僕ははらわたが煮えくり返って仕方ない。
もし仮にリコがなんの権力とも関係のない平民だったとしても、魔素漂う魔物の森に、いたいけな少女を放置するなんて正気じゃない。
急を要する事態にすぐさま騎士団の出動が決定し、僕とエドガルドがついて行く事になった。
想定外だったのは、聖女がついてきた事だ。
聖女は未だ浄化のスキルを使いこなす事が出来ていない。正直、足手まといになるとも思ったが…。
危険だ、というテオドールの言葉を無視して、聖女は睨みつけるようにこちらを見据える。
その瞳は力強く輝いている。
「ここで動かなくてなにが聖女よ。なにが浄化スキルよ。莉子の命がかかってるんだから、出来なくてもやるしかないでしょ!!」
心を偽ることも飾る事もないそのまっすぐな言葉に、僕は頷いた。
「――わかった。リコの為に力を貸してほしい。トウコ殿」
僕の喋り方の変化に、トウコは少し瞬きをした後、
「…まぁ、前よりはマシね。でも呼び捨てでいいわ」
と、高いヒールから踵の低いブーツに履き替えながら言った。
◇
魔物の森で捜索を続ける。
ある程度の位置はわかったが、目印も何もない森の中では簡単には見つからない。
何匹目かの魔物を騎士団が鎮圧する傍らで、僕の胸には焦りだけが募っていた。
(リコ…どうか無事でいて…!!)
――…ユ……
小さく声が聞こえた気がしてハッと辺りを見渡す。
間違いなくリコの心の声だ。だけど小さい、遠い。どこだ、どこから聞こえるんだ!?
突然、落ち着きなく周囲を見渡し始めた僕に、どうしたのかと声をかけようとしたトウコの肩をエドガルドがそっと押さえて、静かにするよう人差し指を口元に立てた。
「…オレにもよくわかんねっすけど、ユリウスさん、たまにこうして勘が働くんすよ」
騎士団もその様子に気づき、気を散らさないよう静かに見守られながら、スキルに集中して意識を広げる。
(リコ…!もっと僕を呼んで…!!)
『――…リウスさ……』
「!!」
再びリコの声が、僕の名前を呼び…
『―――…イケメンが!過ぎるので!!手加減してくださぁぁぁ…………』
「………!??」
とりあえず今は危機的状況ではなさそうだ…?
ともかく、大体の方向がわかったので急いでそちらへと向かう。
生い茂った木々を抜け、枝を薙ぎ払い、小型の魔物を除けながら、ひたすら走り…
「――お待ちください!前方に大型の蛇の魔物が…」
騎士の言葉通り、紫色の禍々しい色をした大蛇が、今にも目の前の獲物に噛みつこうと…―――
「リコッ!!!」
喉がちぎれんばかりに叫ぶが、魔物は見向きもしない。ここからでは走っても間に合わない。弓は?ダメだ、こんなに木があっては当たらない。
(目の前にいるのに、助けられ…)
「―――莉子に、なにしてんのよッ!!!」
背後からトウコの激しい怒号と、急激に解放された聖力の威圧感を感じたと思った直後、激しい爆発音と共に、眩い光が辺りを照らし出す。
空気が軽くなった様子に、トウコの浄化のスキルが発動したのだと気づいた。
見える範囲の魔素を一瞬で吹き飛ばし、魔物を消し去ったその威力に、その場にいた全員が唖然としている。
祖母の浄化スキルはもっと慈愛の心で包み込むような、優しく解きほぐすような、そんなスキルだったと思うのだが…。
「す、スゲー…魔物を屠ったっすね…」
エドガルドの言う通り、まさに『屠る』。
慈愛を与えるほどこの世界を信用していないし、召喚される原因となった魔素や魔物を恨んでいて当然なので、トウコらしいと言えばトウコらしい浄化方法だ。
当の本人は、初めてのスキル発動で荒くなった呼吸を整えたあと、一直線にリコの元へ走り出した。
僕たち一同はその後ろを慌てて追うのだった。
爆裂の聖女トウコ!!




