28.不穏なワードでたぞ??
「重症患者みたいですね…。なんだか大げさな気が…」
「…大げさなんかじゃない。君は丸1日、目を覚まさなかったんだよ」
「えっ!?」
どおりで喉が乾いていたわけだ。森を彷徨っていたのは数時間だと思うけど、精神的にも肉体的にもかなり疲労していたみたいだ。
顔をあげると、暗い顔をするユリウスさんの目の下にクマがある事に気づいた。
もしかするとずっと付き添っていてくれたのだろうか。
手を伸ばして彼の頬に手を当て、目の下を親指でそっとなぞる。
「…心配かけて、ごめんなさい」
そう言うと、ユリウスさんは感情を堪えるように固く目を閉じ、私の手をギュッと痛いくらいに握りしめた。
「リコのせいじゃない。君を守れなかった僕のせいだ…」
「そんな、ユリウスさんのせいでは…」
「既成事実でもなんでも手段を選ばず、もっと早く、君を守れる立場にしていれば良かったんだ…」
なんか不穏なワードでたぞ???
思わず固まっていると、今度はユリウスさんの熱い指先が私の頬に触れてきた。
「…君を攫うよう指示を出したのは、現宰相の娘だ。僕と結婚するために君が邪魔だったと白状している」
邪魔だからと森にポイしたら、発覚した時に問題になるとは思わないのだろうか。
うーん、思わないのかもしれないなぁ…。
「無理やりにでも君を僕の婚約者にしていれば、もっと護衛をつける事が出来たし、抑制にもなっていたのに…」
「こんっ!?そ、そこまでして頂かなくても…!
そんな大切なポジション、私を守る為の手段にしないでください!」
思わず手を振って静止すると、未だ暗い表情のユリウスさんが、そっと私の後頭部に手を回し――そのまま逃げ場を塞ぐように、私をゆっくりとベッドに押し倒した。
「…へ?」
「…リコは、僕が嫌い?」
枕の両側に手をついて私を見下ろすユリウスさん。
その縋るような、今にも崩れ落ちそうな表情が、なんとも切なくて…
(べ……ベッドン!??)
突然の展開に、心臓が跳ね上がって慌てふためく。
「えっ、え!?嫌いなわけないです…!」
ついフワッとした言い方をしてしまったけど、どちらかと言わなくても好きというか…!!
(え!?待って!!?確かに生きて帰って、ユリウスさんに好きって伝えるって決めてたけど、今!?今なの!!?
まだちょっと勇気が集めきれてないよ!?せめて数日は待ってぇッ!!)
そんな事を考えながらワタワタしていると、何故かユリウスさんが目を見開いていた。そしてみるみるうちに頬が赤くなり、恥ずかしそうに片手で顔を覆って隠した。
「ご、ごめん…。勝手に聞いた……」
「……??」
何の話だろうか?
とにかくユリウスさんの暗い空気が消えたようで、ほっと胸を撫で下ろしていると、覆っていた手を退けたユリウスさんの顔が、鼻先が触れそうな距離まで降りてきて…
「――僕は、リコの事が好きだよ」
甘く揺れるはちみつ色の瞳に捉えられ、爆弾が投下された。
「…ッ!???」
一瞬で顔が熱くなるのを感じた。
(お、落ち着こう!人間性が好きとか、ペットとして好きとか、そういう可能性も…っ)
「ひゃあっ!??」
柔らかい唇が、ちゅっと音を立てて目尻に落とされ、思わず高い声が出てしまった。
「…召喚とか、聖属性とか関係なく、1人の女の子として好きだ」
「へぁ、あの、ユリウスさ……ひぅっ!?」
今度は反対の頬、そして唇の端へと、吐息と共に甘いキスが降ってくる。
なんだこれ、何が起こってるんだ…!!?
「だから…」
少し掠れた色気を含んだ声が耳元で響き、体がゾクリと熱く震えた。
嫌なわけじゃないのに、頭がついていかなくて薄らと涙が滲んでくる。
「……僕のものになって」
「ゆ、りっ、ぅんん……!」
逃げる事も出来ず、顎を指先で掬い上げられて、優しく唇が重ねられる。
驚いて、嬉しくて、少し湿った唇が気持ちよくて。
すぐに離れてしまったそれを、心の隅っこで名残惜しく感じていたら、角度を変えてもう一度合わさって。
イタズラするように唇を食む動きがくすぐったくて、僅かに口を開くと、先ほどよりも深く唇が合わさり、肩がピクリと跳ねた。
頭が痺れて、少しぼんやりと溶けたような表情になった私に、ユリウスさんが甘く微笑む。
「…ふふ、可愛い」
「わ、あわ、わわ……ッ!?」
我に返ってトマトのように真っ赤になり、盛大に狼狽える私を見て、ユリウスさんは少し子供っぽく、嬉しそうに声を上げて笑ったのだった。
心の声が聞こえて、暴走したユリウス氏。反省はしていない。




