27.当たり前じゃない!!
なんか違う気もするけど、自分なりに強くユリウスさんの事を呼んだつもりだ。
(うーん、どうせなら「好きです」とでも叫んでおいたほうが良かった?…まぁただのおまじないだろうし、何でもいっか)
無事に帰れるよう願掛け?をして、再び歩き出す。
…勾配に滑り、枝に足を引っ掛け、飛び立つ鳥たちの音に怯え、何度も転け、ボロボロになりながら道なき道を進み――
「ひ…ぇ……」
私の肩幅よりも太く、大蛇と呼んで差し支えないサイズのヘビに睨まれている。
私の体くらいは一飲み出来そうだし、あちらさんはその気満々な気がする。どうか遠慮して。
魔物なのか、頭からは4本の角が飛び出しており、血のように赤いギラギラした目が光っていた。
(戦っても絶対に勝てない…!逃げなきゃ…!)
相手を刺激しないように、静かに後退をして距離を取ろうとして…
「っう、わ!!?」
石に躓いて尻もちをつくが、痛がっている余裕はない。
大蛇が大きな口で私に飛びかかってきて…―――
「―――ッ!!?」
ドォォォン!!!
眩い光と共に、激しい爆音と風圧。咄嗟に目を瞑り、衝撃に体を固めていると、ふっと空気が軽くなった気がした。
恐る恐る目を開けると、先ほどまでいた大蛇が跡形もなく消えていた。
それどころか、先ほどまで漂っていた淀んだ空気と黒いモヤが消えて、視界がクリアになっている…?
「い、一体何が…??」
「莉子っ!!!」
「っ!!」
遠くで名前を呼ばれて弾かれたように振り返ると、木々の奥の方から、木に足を取られそうになりながら透子さんが走ってくるのが見えた。後ろに騎士たちの姿も見える。
「と、透子さん…!?どうしてここに…うぶっ」
「無事?無事ね?さっきの魔物に噛まれたりしてない!?」
体当たりの勢いで抱きつかれ、そのまま手で顔を挟まれ右や左を向かされる。
そのあと、擦り傷や痣だらけの私のボロボロの体を見て、その綺麗な顔をしかめた。
「来るのが遅くなって、ごめんなさい…」
「い、いえ、透子さんのせいでは…。
あの、え?…助けにきてくれたんですか…??」
透子さんはまだ修行中で、浄化のスキルを使いこなせていないと聞いていた。
だから、こんな魔物がいるような危ない森には来ないのだと思っていたけれど…。
「当たり前じゃない!!あたり…まえでしょ…バカ莉子ぉ…」
透子さんの明度の高い瞳からポロポロと涙がこぼれる。顔に添えられた手は震えていた。
(心配してくれてたんだ…)
「あ、ありがとう…ござい………ふ、…うぅ…うわぁぁぁ…」
緊張がとけて、私の目からも涙が溢れた。
体はあちこち痛いし、服はボロボロだし、泥だらけで汚いけど、生きてる。
(私、ちゃんと生きて戻れた…!!)
子供のようにしゃくりを上げて泣く私のおでこに、透子さんは自身のおでこをくっつける。頭を優しく撫でた後、名残惜しそうにそっと離れた。
「…ここまで連れてきてくれたのは、そいつだけどね」
「え…?」
言葉の意味を理解する前に、背後から大きな腕に包まれる。
ふわりと香るウッド系の匂いと、わずかに感じた汗の匂いにドクリと心臓が跳ねた。
「リコ…良かった…。本当に…良かった…!!」
「ユ、リウスさん…」
名前を呼べば腕の力が僅かに弱まり、そのまま体の向きを変えれば、潤んだはちみつ色と視線が交わる。
「ユリウスさん…ユリウスさん…!」
「リコ、リコ…!」
「あい、会いたかっ…――」
最後まで言葉にならないまま、その胸に飛び込む。背中に手を回せば、強く抱き返してくれた。
その腕の中でほっとして、嬉しくて、愛しくて。
ユリウスさんの服に涙や汚れがつくのも気にせず、ワンワンと泣いて…
「リコ…?リコ??」
…緊張の糸がぷつりと切れた私は、そのまま気を失ってしまった。
◇
目が覚めると、見覚えの無いベッドの上にいた。
(ここは…?)
体を動かそうとすると、体中が悲鳴をあげていた。まるで全身が筋肉痛だ。
「…リコ?起きたのかい?」
「ゆ”、りうす、さん…?」
酷く喉が乾いている。ガラガラ声で名前を呼ぶと、ユリウスさんはゆっくりと私の上半身を起こして、水を渡してくれた。
有り難く水を飲んでいる間に、ユリウスさんがこれまた見知らぬ侍女に、なにか指示を出して下がらせていた。
「けほ…ゆ、ユリウスさん。ここは…?」
「ここは王城だよ。君が倒れた後ここへ運んで、城の医者に容態を診てもらっていたんだ。
…一番酷いのは頭部の傷。それから全身に打ち身と擦り傷、あと右足の捻挫」
寝ている間に治療してくれていたようだ。もうほとんど痛みはないのだけど、体中が包帯だらけになっていた。
体は清められているようで、ボロボロだった服も清潔な寝衣になっている。




