25.捨てられたって事…!?
こんにちは、莉子です。
聖女召喚に巻き込まれ、異世界に来てしまいましたが、優しい公爵家の皆様のおかげで幸せな日々を送っておりました。
……そう、少し前までは。
(――頭痛い…、息苦しい…)
「…おい、この辺でいいだろ。これ以上はオレたちが危ねぇ」
「あぁ、さっさと捨てて帰ろうぜ。ここなら魔物が始末してくれんだろ」
そんな男たちの不穏な会話が聞こえたと思ったら、今まで担がれていたであろう体がドサリと地面に落とされた。
背中に走る痛さに飛び出した悲鳴は、猿ぐつわか何かに邪魔をされくぐもって響いた。
(痛い…けど、おかげで意識がハッキリしてきた…)
男たちの走る靴音が遠ざかり、聞こえなくなった頃、ゆっくりと体を動かす。何か、麻袋の様な物に入れられているようだ。
(手足は、縛られてない…。狭いけど少しは動ける)
口元を覆っていた猿ぐつわを強く引っ張ると取れた。そのまま袋も開けたかったけど、袋口が強く縛られているのか開きそうにない。
(腕力じゃ無理だ…!あ、そうだ…)
ズキズキと痛む頭に浅く呼吸をしながら、手探りでスカートをたくし上げる。太ももに装着されていた小さな護身用ナイフを発見すると、慎重に鞘から出して袋に突きつけた。
(アグネスさん、ありがとうございます…!)
外出するたびに「護身用です」と装着してくれた侍女に心の中で感謝をつげる。
それと同時に、あの場で倒れた彼女の姿を思い出し不安になった。
(アグネスさんは無事かな…、ちゃんと助け出されたかな…!?)
なんとか穴を開けて、狭い麻袋から這い出る。
新鮮な空気を肺いっぱいに吸いたかったけど、それは叶わず、周囲は淀んだ空気と黒いモヤが漂う、陰鬱とした森だった。
「うわっ…!?…これ、は…魔素…?」
初めて見る魔素にゾワリと鳥肌が立つ。遠くの方で何かの吠える声が聞こえて、体をビクリと震わせた。
(魔物が出る森に捨てられたって事…!?)
――今日は、ユリウスさんに急遽予定が入ってしまったため、私とアグネスさんと護衛の3人で劇場に行くことになった。
馬車を降り、まだ時間があるからと劇場近くを歩いていると、1人の女性に助けを求められ、
「DV夫に追われている、助けて欲しい、妹の家に逃げるところだ」
という彼女の言葉を信じて、女性の言う妹の家まで送り届けると、家の奥まで案内された。
そして、そこには2人の男が隠れていて、アグネスさんの頭を殴り気絶させ、私も後頭部に衝撃を受けて意識を失ったのだが…。
(…男性は怖いから離れていてほしいって言うから、護衛は家の前で待っててもらったんだっけ…。
異変に気づいてアグネスさんだけでも助け出されてると良いんだけど……)
きっと、私の事が邪魔な誰かの仕業なのだろう。
あの変な噂もあるし、ユリウスさん関連な線が濃厚だ。
震える足で立ち上がり、辺りを見渡す。当然だけど見覚えも無いし、森の出口を示す便利な看板も存在しない。
(それでも…帰らなきゃ…)
せめてどちらから来たのかだけでも分からないかと、キョロキョロするけど、見渡す限りの森で方角すらわからない。
せめて歩きやすそうな方へ行こうと、1歩踏み出した瞬間…
「ッきゃあ!??」
背後の大きな茂みから飛び出した鹿のような動物に驚き、その場で思い切り転倒する。
鹿はこちらを気にする事なく、軽快な足取りで去っていってしまった。
「し、鹿…?びっくりし…痛ッ!」
体勢を崩して転けたせいで、足を捻ったらしい。立ち上がろうとして、右足の激痛に顔をしかめた。
(こ、こんな時に捻挫するなんて…!?どうしよ…応急処置とかわかんない…。冷やすんだっけ?
少し休憩したら動けるようになるかな…?)
でも休憩してるような時間があるのだろうか。男たちは「危ない」と言っていた。
動物だろうか、魔物だろうか、再び遠くの方から遠吠えが聞こえた。
(どうしよう…こわい…)
震える手で護身用ナイフを握りしめながら、手とお尻でズリズリと這って木の側に移動する。
ナイフ無かったら詰んでたぜ…




