21.どなたのことでしょうか…?
「…ですが、自分の気持ちを押し殺してまで、ご両親の期待に応えようとしたドロセアさんは、とても強いし気高いご令嬢だと思います。
でも……その大切な恋心は、ドロセアさん自身がずっと守ってあげてほしいです」
「恋心を、まもる…」
ドロセアさんは驚いたように目を丸くしたあと、私の言葉を反芻するように唇を小さく動かした。
そして、しばしの沈黙の後、恥ずかしそうに私のブラウスをツンと引っ張った。
「ドロシー…」
「え?」
「だ、だから…その……わたくしの事、『ドロシー』とお呼びになってもよろしくてよ…!」
「…ドロシーさん?」
名前を呼ぶと胸の前で腕を組んで、「ふんっ」と明後日の方向を向くドロシーさん。恥ずかしいのか、子供特有のふっくらした頬がピンク色に染まっていた。
「……っ、そ、それから!ショミンとか見苦しいとか言ったのは……その、わたくしの本心ではありませんのよ!?…お母様が、ミノホドシラズに格の違いを見せつけなさいと、仰ったから実行しただけですもの!
だ、だから……その……あなたに謝る必要なんてありませんけれど……ほんの少しだけ、言い過ぎたことは認めてあげてもよろしくてよ…っ!」
泥棒猫とか身の程知らずとか、日常で聞き馴染みが無さすぎるワードなので、私としては何一つダメージを受けていないのだけど…。
全く素直じゃない口調で、チラチラと上目遣いにこちらの反応を伺うドロシーさんの様子がなんとも可愛い。
「…気にしないでください。
ドロシーさんのテーブルマナー、本当に綺麗でした。私ももっと勉強しなきゃって、良い刺激になりましたし」
今度タルトの綺麗な食べ方を教えてください、と笑いかけると、ドロシーさんも少し照れたように「ふんっ」とそっぽを向いてしまった。
「…リコは、お兄様…ユリウスお兄様のどこが好きですの?」
「ひぇっ!?えっ!?す、好きって!??」
「…目の前でいちゃついていらっしゃいましたでしょう?
仮にも婚約者候補の前だというのに、欠片もこちらを気になさらないなんて、本当に失礼ですわ!端から候補にも入れる気がないとでも仰っしゃりたいのかしら!?全く、いい年して大人げない!!」
胸の前で腕を組み、呆れたような目で屋敷の方を見るドロシーさん。
(いいい、いちゃッ!?どれ!?何を見られたの!?)
「え、ええと……や、優しいところ……でしょうか…?」
いちゃつきシーンの詳細に触れるくらいならと、冷や汗をかきながら、無難すぎる回答を絞り出す。
すると、ドロシーさんは信じられないものを見るような、何とも不可解そうな顔をした。
「優しい…?ユリウスお兄様が?いまいち冷めていて、幼子が遊んでほしいと頼んでも笑顔で躱すような冷情な方ですわよ?
そのおかげで、いつもニコラスお兄様が遊んでくださいましたけれど」
「……逆にそれはどなたのことでしょうか…?」
一人で座ると言っても膝から降ろしてくれず、自分で食べられると言っても手ずから食べさせてくる、私の知っている過保護でお世話好きなユリウスさんとは、まるで別人のような……。
「ユリウスお兄様ったら!ご自身の恋人には、随分と都合のよろしいお顔をお見せになりますのね!!」
「こ、恋人ではありません…!!!」
可愛がられているペットです!多分!!わからないけど!!!
少なくとも恋人のような特別な関係にはなっていない。
「まぁ!あれだけ目の前でいちゃついておきながら、恋人では無いと言い張りますの?子供だと思って、誤魔化せると思わないでくださいませ!」
「いやぁーー!やめて下さい、いちゃついてるって言わないでぇ!!」
何を、何を見られたの私は!?
思わず頭を抱えていると、ドロシーさんは更なる爆弾を投下した。
「何を今更。社交界で噂になっておりますわよ?
アシュフォード公爵子息が、平民の恋人を囲って愛でている、と」
「へ……?」
「ですから、わたくしもお父様とお母様に公爵家に行って『噂のミノホドシラズを牽制して自身を売り込んでこい』と命じられたのですもの!」
アシュフォード公爵子息が、平民の恋人を囲って愛でている…??
(なんかとんでもない噂が流れてる…っ!???)
ドロシーは何かを見た!!




