18.犯罪臭がしちゃいますね…。
「この、ドロボーネコ!!とっととここから出てお行きなさいませ!!」
舌っ足らずな言葉と共に、ぴしっと小さな指がこちらにまっすぐに伸びている。
(ど、泥棒猫…?リアルで使ってる人初めて見た…!)
いっそ感動しながら、その声の持ち主を見つめる。
ベビーピンクのドレスをまとった、まるでお人形のように愛らしい7歳ほどのお嬢様だった。
くるくるとしっかり巻かれた金髪ツインテールは、見事なドリルヘアである。
「こら、ドロセア。やめなさい」
「ですがっ、お兄様…!」
そっと手を下ろさせて、ユリウスさんが女の子の背を押して、私に近寄らせた。
「リコ、この子はドロセア。父方の従姉妹だよ」
幼いとはいえ、見るからに貴族のご令嬢だ。間違っても『ドロセアちゃん』だなんて呼んでタメ口叩いていい相手じゃないだろう。
私は無難に「はじめまして、ドロセアさん。莉子です」とだけ返した。
その態度が気に入らなかったのか、大きな目でキッと睨みつけてくるドロセアさん。敵意剥き出しだけど可愛い。
「よろしくて!?このわたくしが、ユリウスお兄様と結婚しますのよ!!あなたは引っ込んでなさい!」
「へっ」
「そんな事実はないよ。それに、いくつ離れてると思ってるんだい…」
ああ、さすがに推定7歳と25歳の結婚話は犯罪臭がしちゃいますね…。
「ですがっ、お父様とお母様が確かに…ッ!」
「そんな冗談を子供に聞かせるなんて、伯爵夫妻も困ったものだね」
笑顔なのに少し冷ややかになったユリウスさんの声で、何となく状況を察した。
(あー…。伯爵夫妻はドロセアさんを公爵家に嫁がせたい、本人もそうなのだと信じてる、でもユリウスさんは相手にしていない、って感じかなぁ…)
ご両親に、歳の差なんて関係ない、若さで掴み取れ、なんてったって次期公爵夫人!とでも言われて来たのかもしれない。
(うーん、ユリウスさんは素敵な人だけど、ドロセアさんから見たら結構離れてるよなぁ…。ドロセアさんはそれでも良いのかな?)
でも!だって!と必死に食い下がるドロセアさんを気にした様子もなく、ユリウスさんはいつものように私の手を取って、ティールームへ案内を始めた。
それを見てドロセアさんの小さな口から「えっ」という声が溢れ、僅かに呆然としている。
(あれっ、こういう場合はお客様のエスコートをした方がいいのでは…??)
私がそう思っていると、若い執事が颯爽とドロセアさんを抱き上げ、大暴れお嬢様を危なげなく運んでいた。
「えーと…あんな扱いでいいんですか?」
仮にも求婚者相手に…。
「君より優先するものは無いからね」
そう言ってユリウスさんは少し屈み、私の手を自身の口元に持っていき……って、小さい子が見てるのにそれはダメだと思います…!!!!
とっさに、近づく唇を反対側の手で押さえてしまった。
結局のところ、押さえた手の方に唇が当たってはいるのだけど、手にキスされるのを見せるよりはマシ……
「…ッうひぃ!?」
手に感じた生暖かい感触に、慌てて手を離す。
(い、今、なめ、舐めっ…!???)
ユリウスさんがイタズラっぽく、ベッと小さく舌を出して笑っていた。
急いでドロセアさんの方を確認すると、執事の髪を掴み暴れている最中で、こちらの様子には気づいていないようだった。
ほっと息を吐く。
もしかするとユリウスさんは、ドロセアさんが見ていないタイミングで動いていたのかもしれない。
(でも、だからと言って、な、なんて事を…ッ!?)
ティールームに着くまでの間、私は手を意識しないよう、必死に顔の熱をさげるのだった。
運搬執事の髪の毛が10本犠牲になった!




